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2019.02.28 Thu
1秒たりともよそ見できない。一気読み必至の『1秒でつかむ』はこうして生まれた

第1章 ビジネス書の編集者ですが、ビジネス書を読みません
第2章 テレ東の闘い方 ダイヤモンドの闘い方

第3章 「本」で、いったい何ができるのか
第4章 書籍とテレビ番組。コンテンツ産業の未来

 

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(左)編集者/今野良介さん(ダイヤモンド社)(右)著者/高橋弘樹さん(テレビ東京)

 

 

2018年の年末、とてつもない本に出会いました。

発売即重版が決まり、著名なクリエイターやビジネス著者も、続々と熱いレビューを寄せている話題の1冊。

その名も『1秒でつかむ』。

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『1秒でつかむ』(amazonサイトにとびます)

 

500ページを超えるその分厚い本の「はじめに」を、書店のレジに並びながら読んだのだけれど、そこからもう、文字通り1秒たりとも目を離せず、帰り道も歩きながら読み、夕食を作りながら読み、食事しながら読み、深夜1時に読み終わりました。

 

著者は『家、ついて行ってイイですか?』の生みの親、テレビ東京ディレクターの高橋弘樹さん。

 

何がすごいって、書籍の中で書かれた「こうすれば人を惹きつける企画が作れる」と「こうすれば人に伝わる」の方法論が、そのまま、この本自体で実践されていることです。

 

ミステリーのようなストーリーテリング。正気とは思えないデザインの凝りよう、既視感ゼロのロジックと数々のオチ……。

 

私は書籍のライターをしていますが、どうやったらこんな本を作れるのか、見当もつかなかった。

 

だから、知りたい、と思いました。

 

この本の著者、高橋弘樹さんと、編集者の今野良介さんの対談をお届けします。

 

本を読んでいても読んでいなくても、大丈夫です。 どうぞ、ご覧ください。

 

(書き手/佐藤友美)  

 

 

第1章 ビジネス書の編集者ですが、ビジネス書を読みません

 

 

__書籍の「おわりに」で、今野さんが高橋さんに取材依頼したメールが晒されていますよね。この部分。

 

私はビジネス書を作っていますが、ビジネス書をほとんど読みません。
市場が縮小する中で「売れるビジネス書の作り方」がどんどんフォーマット化されて、新しいおもしろさを感じられなくなったからです。

 

今野良介さん(以下、今野)いきなり、そこからいきますか。

 

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今野 僕、『家、ついていってイイですか』が大好きなんです。毎週録画して欠かさず見ている唯一の番組で。
あの番組は、「知らない人同士がわかりあおうとすること」を体験させてくれる番組だと思うんです。 最初はあまり理解できない人に、次第に興味がわいて、番組の最後には面白い人だと思わせてくれる。なんなら、その人のことを好きになっているんです。
それができるのは、作り手のストーリーテリングの力だと思うのですが、ビジネス書もこんな風に作れないかなと思って。

 

それで、高橋さんに、「テレビ番組を演出するように、ビジネス書を演出してもらえないか」とお願いしました。

 

高橋弘樹さん(以下、高橋) いやあ、最初にいただいたメールの時から、すごい「圧」だなあと思いましたよ(笑)。

 

お会いしてからも、「テレビマンが本気で本を作ったら、どこまでできるんだ」みたいなことを、ずっとおっしゃっていましたからね。

 

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今野 言ってましたね……。

 

高橋 僕、暑苦しい人、ちょっと苦手なんですよ。
でも今野さんと付き合ってるうちに、一周回って、ここまで熱いのって、逆にカッコいいかもしれないって思うようになりました(笑)

 

__こういった裏方である編集さんの思いを、高橋さんがわざわざ書籍の「おわりに」で晒したところに、興味がありました。あれはなぜですか?

 

高橋 僕は作り手だから、依頼を受けた時、この本を作ろうといった編集者は、どんな人だろうと、まず考えるんですよね。
もちろん、今野さんのことを深く知らなくても、ある程度今野さんの役に立てるように頑張れると思います。でも、この本で追求すべきことを、10段階レベルの10まで、とことん書くのであれば、やっぱり編集者である今野さんをちゃんと理解して書かなきゃダメだなと。

 

風邪をひきにくくなる本を作っているけれど、文章術やクレーム対応の本も作っているから、王道のビジネス書も売りたい人なのかな、とか。 民俗学にかぶれて、大学時代に小説を書いていた人で、aikoが変態的に好き、ってことは、ちょっと厨二病的なところがある人かな、とか(笑)。

 

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高橋 というのも、僕は、書籍を読む時には、「著者の動機」を考えながら読むようにしているんですよね。動機を考えると、書かれていることがより味わい深くなると思うし、相手のポジショントークを補正しながら、自分に引き寄せて読むことができる。

 

でも、いま「著者の動機」って言いましたけど、それは実はちょっと嘘で。

 

__ちょっと嘘。

 

高橋 本が生まれる時のゼロからイチの作業は、実は著者ではなく編集者がやっているんですよね。そして、著者は、ゼロからイチを生み出した編集者に影響を受けながら本を書いていく。

 

だから、この本も「僕(著者)の動機」だけではなく、もう一人の作り手である「今野さん(編集者)の動機」も知ってほしいな、と。

 

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今野 「ビジネス書を演出する」というコンセプトで進める中で、僕が一番惹かれたのが「テレビでは1秒の30分の1の単位でコマ割りしている」という話です。
この「瞬間で見せる」ことにかける熱量とこだわりが半端ないと。「1秒でつかむ」をメインテーマにしようと思ったのは、このエピソードからでした。

 

__執筆中はどんなやり取りを?

 

今野 毎週締め切りを設けて1、2項目書けたら出してもらいました。最後は週2で締め切りを設けて。

 

__ずいぶんハイスピードですね。

 

高橋 今野さん、突然、12月に出しましょうっていうんですもん。僕、テレビも仕事も結構真面目にやってるんですよ。年末特番の準備もあるし。その中で執筆っていったら、これ、いつ寝るんだっけ? って。

 

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今野 とにかく最初にもらった原稿が面白かったんですよね。でも長引かせると、この面白さと文章のスピード感を維持できなくなるかもと思ったんですよね。この勢いで、一気通貫させたい、と。

 

高橋 でも、確かに最適なやり方だったのかもしれない。

 

ありがたいことに、これまでも何度か本を書いてくださいというご依頼をいただいたことがあったんです。でも書けなかったんですよね。時間が作れなくて。 そこを、今野さんは変態的な熱量で追い込んで書き切らせてくれた。深夜にメールしてもいつも待ち構えてくれていましたから。

 

今野 編集者としては、この本にかける優先順位をどうやって上げてもらうかを、ずっと考えていました。

 

僕自身、毎週『家、ついて行ってイイですか?』を見て、その制作過程の葛藤も原稿でリアルタイムで読んでいるから、高橋さんがどれだけ苦労をして番組を作っているかを知ってるわけです。 それでも、高橋さんにそのパワーがあることを知ってしまってる以上、その熱量をこっちにつぎ込んでくれたら……と、やっぱり思ってしまいますよね。

 

高橋 俺、次の健康診断、心配です(笑)。

 

 

つづき →第2章 テレ東の闘い方 ダイヤモンドの闘い方

第2章 テレ東の闘い方 ダイヤモンドの闘い方

 

__高橋さんが書いた原稿に、今野さんはどれくらい手を入れているんでしょうか?

 

今野  ほぼ入れていないです。
というよりも、ここは書き足したいとか、減らしたいと思っても、その部分が次から次へと送られてくる原稿の伏線になっていたりして、あとから「ああ、こういうことか!」と気づいたりすることの連続で……。

 

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高橋 最初のうちは、結構修正が戻ってきたんですけれど、僕、全部、修正し直して戻しましたよね。句点一個にもこだわりたいタイプなので。

 

今野 句点を取るか取らないか。助詞をどうするかレベルで、最初は細かくやりとりしました。

 

__たとえば?

 

高橋 1ページめの「はじめに」にある、

脳内に「Let it be」、かかる。

という一文とか。

 

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高橋 これ、最初僕が書いた原稿は、

脳内に「Let it be」かかる。

だったんですよね。

 

で、今野さんから

脳内に「Let it be」がかかる。

にしてほしいと戻ってきたんですけれど、ここはあえて文法を崩している部分だから、「が」を入れるのは絶対嫌だって戻したんですよね。わかりにくいなら、せめて「、」を入れるだけにしてくれと。

 

今野 最終的に、じゃあ句点を残して、

脳内に「Let it be」、かかる。

で着地したんですけれど。

 

一事が万事これだったので、半年で交わしたメールが、308通ですよ。LINEは600通超えてました。メールの返事を書いている間に、次のメールがやってきて、どんどん上書きされていくし……。

 

 

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今野 で、そのうちに「あれ? おかしいぞ」って思うんですよ。
256ページ予定の本だったのに、この話、全然終わりそうにないって。

 

__最終的に、520ページですよね。ダイヤモンド社さんでは、そういう変更は大丈夫なんですか?

 

今野 いや、全然大丈夫じゃないですよ。256ページで見積もりとって、書店さんにも事前情報出しているのに。
どこで上司に話そうか……と様子を伺っていたんですが、まあ、バレますよね。

 

__バレた。

 

今野 いやだって、原稿のプリントアウトの厚みがちょっと様子おかしいですからね。同僚にも「え、今野さん、何やってるの?」って言われて……。

 

「高橋さんの原稿ですが、すでに400ページ超えてます」って言った時は、最初いろんな人から「ダメでしょ」って言われたんですよ。

 

高橋 え? ダメって言われたの?

 

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今野 いや、それは言われます(笑)。
でも、原稿を上司に読んでもらったら、「ああ、もう、わかった。これは君がどうしても作りたいんだろう。君が思うようにやるしかない」というようなことを言ってくれて。

 

__お前に任せる、と。

 

今野 そう解釈させてもらいました。本当の本当にダメなら、止められたと思うので。だから、もう、「キターーーーーーーーーー!!!」って(笑)

 

高橋 そんなこと、滅多にない?

 

今野 ないです。でも、これは二度とないチャンスかもしれないと思って。そこからさらにエンジンがかかりました。もう、逆手にとって、分厚いことが価値になる本にするしかないな、と。

 

最近のビジネス書は、効率的にスキルや考え方を獲得できる本が好まれる傾向があります。できる限りムダをそぎ落として、エッセンスを伝えるみたいな流れを感じていたから、完全に逆張りになります。でも、それが、面白いなと思っちゃって。

 

__昨今、翻訳書以外ではあまり見ない分厚さですよね。書店でも異彩を放っています。

 

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今野 価格もかなり議論になりました。この本、1800円なのですが、今は1800円もするビジネススキル書ってなかなかないので。
でも、1600円なら買うけど、1800円なら買わないって、本当? その値付けに根拠はあるの? 1800円だと本当に買ってもらえないの? って思ったんですよね。

 

実はこれ、高橋さんの考え方でもあります。
今は価値が低いと思われているものや、大前提になっている考え方を覆して、そこに価値を生むためにどうするかを考える。
そういう人の本を作ってるのに、自分だけ書籍作りの「あたりまえ」に則っていたら、自己矛盾するというか、僕が著者を信用していないことになると思ったんです。

 

 

__「このページ数でこの値段。費用対効果最高!」といった感想もありましたね。

 

今野 あれは、めちゃくちゃ嬉しかったです。

 

高橋 重版かかるといいねですね。

 

今野 いや、かからないと、マジでやばいです。このインタビューが出るころには、発売すぐに重版した……ってところから始まっていないと、まずいですね(笑)

(注:このインタビューの直後、重版されたそうです)

 

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__高橋さんは書籍の中で「テレ東という弱小局ゆえの闘い方」と何度も書かれています。一方、今野さんの所属するダイヤモンド社さんは「出版業界の巨人軍」と言われるほどの常勝出版社ですよね。
いま、重版のお話が出ましたが、常にヒットを期待される会社で書籍を作るのって、どんな感じですか?

 

 

今野 僕、入社してしばらく重版できないものが続いたんです。
重版って、編集者にとっては、酸素みたいなものなんですよ。それがないと、どんどん呼吸が苦しくなっていく。
もちろん売れることが全てではないけれど、自分が楽しいとか面白いと信じていることで結果が出ないことが続いたら、やっぱり落ち込みますよね。

 

高橋 そこから何が変わったんですか? 聞きたい。

 

今野 なんだろうな。基本的に、ずっと自分は同じスタンスでやってきたつもりなんですが……。

 

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今野 あ、そういえば、『システムを「外注」するときに読む本』というのを作ったのが大きかったかも。
この本は、システムを頼む側と作る側のギャップが大きすぎることが、トラブルにつながっているという問題に対して、実務的なポイントを恋愛も絡めたストーリー形式で説明していく本なんです。
判型も大きく、ページも350ページ超えていたので、実用書としては、かなりチャレンジングな本でした。

 

この時かな。
それまでは、ダイヤモンドの「こういう本が売れている」というデータやノウハウにのっとって作らなきゃいけないと思っていたんだけど、それで売れないんだったら、無理に環境に合わせるのをやめよう。自分のやりたいことをやってみようと覚悟を持って作ったのは。
そうしたら、少しずつ、結果がではじめて。この本もその分野で一番売れる本になって、そこから先は、全冊増刷しています。

 

でもまあ、こう答えてみたものの、実際は、そんなに綺麗なターニングポイントではなくて、振り返ってみれば……という感じですね。

 

 

 

つづき → 第3章 「本」で、いったい何ができるのか

第3章 「本」で、いったい何ができるのか

 

 

__高橋さん、今回、「ビジネス書を演出する」という経験を通じて、気づかれたことはありますか?

 

高橋 僕が感じたのは、書籍は、映画に近いことができる、ということですね。

 

映画とテレビの違いって、映画館の箱に観客を閉じ込められるところなんですよね。 だから映画は、最初に観客をつかんで、終わりがよければ、真ん中は一瞬つまらない部分があっても、最後まで見せることができる。はじめに食いついてもらえれば、伏線を張りまくって、あとからダイナミックに回収することもできる。

 

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高橋 テレビはそうはいかないので、1秒でも飽きさせないようにという矜持を持って作っています。でも、本当は途中であえて「つまらなさ」を仕掛けとして使うという演出手法もあって、そういった手法を使えるという意味でいうと、最初から最後までじっくり味わってもらえる可能性が高い書籍の方が、映画に近くて、テレビよりいろんな仕掛けをしやすいなと思いました。

 

今野 まさにそれが、僕が高橋さんに、ずっとお願いしていた、「本を演出してほしい」「読者に、本を『体験』してもらいたい」ということだと思うんです。

 

高橋 この本に書かれているメソッドを、この本で体験して実行してもらうことは、強く意識しました。コンテンツのメソッドを偉そうに書いていて、それが書籍というコンテンツで実現できていなければ、作り手として嘘だなと思って。 だから、「劇中劇」のような構成は、最初からイメージしていたんですよね。

 

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今野 高橋さんがどんな方法で応えてくれるかは未知数だったんですが、「この手できたか……」と。

 

__まさに、高橋さんの演出を追体験している感覚でした。伏線につぐ伏線でしたし、卑近な猥談から崇高な哲学まで……。書籍から、何層にもなる重層感を感じました。

 

高橋 僕の印税が増えますようにから、ビジネスパーソンに役立ちますようにから、うちのスタッフがいいディレクターになってくれますようにから、世界平和がかないますようにまで、いろんな欲求を10段階くらいの次元で詰め込んだつもりです。

 

__一方で、「他業界の人ならこうしましょう」という、ビジネス書にはよくある「わかりやすい解」がほとんどないのも特徴でしたね。

 

今野 もともと僕は、「ほかの業界の人にも落とし込めるスキルにしてください」って高橋さんに言っていたんですけれど、高橋さんの原稿を読んでいるうちに「いや、そうじゃないな」って思い直したんです。

 

たとえば、僕が経営者の成功法則を読んで、そのままそっくり真似しても、それは成功者の超縮小再生産にしかならないと思ったんです。結局、自分がそれをどう解釈して、自分の仕事にどう生かすか、自分自身で考えるフェーズがないと意味がないですよね。
それで、結果的に、「この項はこんな人におすすめ」という目線だけつけて、あとは読者が考える余地のある作りに着地しました。

 

__「演出」でいうと、今回の書籍はレイアウトも凝ってますよね。ここは、お二人でご相談して?

 

高橋 いや、そこはもう、今野さんとデザイナーさんに信頼して、おまかせ。

 

今野 杉山健太郎さんというデザイナーさんにお願いしました。彼はtwitterで「私がデザインを組むときには、対象の本質的な良さを大事にしたい。それと同時に、少しのチャレンジを入れたい」と書かれていたんですよね。まさに、その通りのデザインをされる方だと感じました。

 

__この太字やフォントの違う文章の指定は今野さんが?

 

今野 ワードでいただいた原稿を、どれくらい改行するか、どの文字を大きくするかという部分は僕がやりました。
どれだけ次のページをめくってもらえるか、めくりたくなる気持ちを刺激するワードがギリギリ最終行にくるように、1ページ1ページ改行や文字の大きさを調整していったんですよね。

 

でも、これだけ文字の大きさが違うと、ほんのちょっと文字が変わるとすぐ1行ずれてページも増えていくので、気が狂いそうになりながら(笑)。

 

高橋 僕、このページ、すごいと思ったんですよ。「親鸞式、『ネガティブLOVE』力」。

 

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高橋 普通、ここで改行しないでしょ。

 

今野 ですね。
最初、流し込みをした時は

 

親鸞式
「ネガティブ
LOVE」力

 

になっていたんですが、デザイナーさんにそのゲラをお送りしたら、

 

親鸞式「ネ
ガティブ
LOVE」力

 

に修正されてきました。

だから、あえてやってくれたデザインですね。

 

高橋 なんかよくわからない、勢いを感じますよね(笑)

 

今野 デザイナーの杉山さん、多分、この長い原稿、全部読んでくれていると思うんですよ。

校了の直前で、「このほうがよりわかりやすくなるだろう」と漢詩の原文のフォントを変えてきたり、引用部分のデザインを変えてくれたりしましたし。

 

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今野 それ自体はものすごくありがたいことなんですが、校了直前のデザイン変更ってすごく大変なんです……。それも……死にました。

 

__この本、一定の速度で読めない本だなと思いました。漫画で例えると、細かいカットが続いた後に、ぽーんと見開きの絵が入るような。スピードコントロールのある文章とデザインといいますか。

 

高橋 それがプラスに働いたか、マイナスに働いたかはわからないですが、意図的にそうしました。

 

実はテレビの編集では、5秒のシーンが6カット続く30秒よりも、5秒→10秒→2秒→1秒……のようなメリハリのある30秒の編集の方が、飽きにくいんですよね。

 

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高橋 書籍でも、僕の弱い筆なりに、緊迫感のある場面はできるだけ勢いつけて書くようにしたり、少しスピードを緩めたりを意識しました。それを、デザインが後押ししてくれたと感じます。

 

 

 

つづき →第4章 書籍とテレビ番組。コンテンツ産業の未来

 

第4章 書籍とテレビ番組。コンテンツ産業の未来

 

__今回ビジネス書のシーンに一石を投じる書籍を作られたお二人ですが、これから先、本づくりやテレビづくりのような、コンテンツ産業はどうなっていくとお考えでしょうか。

 

高橋 まず、僕の専門であるエンターテインメントの分野に限って言いますと、「マス」なのに、「ディープ」なことが大切になると思います。つまり、「広さ」と「深さ」の両立です。
わかりやすさが必要だけど、ディープで知らないことを知らせてくれる、とか。頭をつかわなくても楽しいけれど、見終われば深く人生を考えさせられるとか。

 

 

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高橋 今までもテレ東は地上波最弱局でしたが、この先は、アマゾンや、Netflix、huluなど巨大な資金を持つグローバル企業を相手にその闘いをしなくてはならない。でも、僕はテレ東が大好きですし、まだまだテレビ局でできること、ワクワクすることがもっとあると思っています。

 

今野 今、高橋さんがおっしゃったようなことは、出版業界にも言えると思います。肌感覚でいうと、それこそ書籍にも、「見たことない面白さ」が求められるんじゃないかなと。

 

高橋 書籍に関しては、一般的には「より短く」「よりわかりやすく」なるでしょうね。

しかし、だからこそ、「長すぎる」けど「わかりやすい」から最後まで読めたとか、あるいは、「超短い」けど、「超難解」だから考えさせられて、頭から離れないとか。ちょっとズラした本がどんどん生まれたら、おもしろいなと思います。書籍に関しては完全に門外漢の飲み屋トークですが。

 

 

 

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今野 いや、僕もそれはあると思います。たしかに厳しい時代になったとも言えますが、裏を返せば、読者も市場も成熟したということなので、その市場で満足してもらえるようなコンテンツを面白がりながら作れるようになりたいですね。

 

高橋 書籍以外からの手法も応用したら、おもしろいかもしれないですよね。 例えば、書籍の方達は「読者にどうわかりやすく」を意識するかもしれませんが、テレビの基本的な発想は「テレビを見ない人でも、楽しめるように」と考えます。

 

今野 ああ、その発想は取り入れたい。僕たちに置き換えたら、「普段あまり本を読まない方でも、楽しめるように」というわけですね。

 

__書籍業界では、今後、編集者に求められる役割も変わっていきそうですよね。

 

今野 僕は、編集者って、著者と読者を「つなぐ人」だと思っています。もっと言うと、著者のいいところを見つけて、著者と一緒に本にして、その本と読者をつなぐ人です。著者が、僕を通過したら本になっていて、読者とつながっていた、というようなイメージが理想です。

 

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今野 そういう「つなぐ人」としてぼくが意識していることは、「つないだ先の読者にどんな感情を持ってもらうか?」ということです。

この本もそうなんですが、できれば、「否定」とか「攻撃」とか「嫌悪」とかを助長するものではなくて、「理解」や「共感」や「発見」や「再発見」。そんな感情を促すようなものであってほしいな、と。

 

高橋 今野さんの、こういうところですよね。とにかく、まっすぐに熱い。 本を作っている間も、この「いいものを作って読者の役に立とう」って意識が全面に出てくるんですよ。

 

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高橋 最初にも言ったんですが、自分の人生において、そういうのはカッコいいとは思ってなかった。でも、それを今野さんくらい真面目にやると、逆にカッコいいなと思うようになったんですよ。

だからその気持ちの変化は、この本にも影響しているし、今野さんのやっていることを全部は真似しないけど、少しは真似するようになったかもしれない。

 

本ができてからの今野さんのtwitter見てると、ちょっと引くレベルなんですよ。ちょっとでも『1秒でつかむ』について「気になる」と発言している人がいたら、もう全力で絡みにいって、直接手渡して売りつけるくらいな勢いですよね。

 

今野 ほとんど一点の曇りなく「読んでほしい」って言える本を作れるようになったからじゃないですかね。

 

高橋 それがわかるんですよね。自分が作ったものに自信があるから、宣伝しまくっても、1ミリも恥じるところがないって、見ているとカッコいいなと思う。それを続けていると、今後も1ミリも恥じないものを作ろうって思うじゃないですか。

 

今野 テレビと同じように、書籍も、「本づくりの裏側」が読者に見えるようになった、というか、バレるようになっています。

先ほど高橋さんが、読書には「著者や編集者がどういう動機で本を作ったか?」が大事だとおっしゃいましたが、その動機を含めて評価される時代になったな、と思います。 だから、「何が売れるか?」だけを考える人ではなく、「どうしてもこれを読者に届けたい。そのためにどうするか?」を考え続ける人が残っていくんじゃないかなと感じます。

 

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今野 僕は、本って、いろんな力があると思うんですよ。 たとえば、ある小説のなんてことない一節を読んで、ふと、昔謝りたかったけど謝れなかった人とかを思い出したりする。本をきっかけに、10年ぶりに連絡をとってみて、新しい関係が生まれたりする。そういうことがあると、その本は、自分にとって忘れられない本になると思うんです。

 

自分が作る本も、読者にとって忘れられない大切なものになってくれたらいいなと思って作っているんですよね。これからもそういう書籍を作り続けていきたいです。

 

高橋 今野さんの熱さがうつったわけじゃないけれど、僕もやっぱり、テレビの楽しさを伝えていきたいって思うんですよね。

 

先ほど「広さと深さ」といいましたが、この「広さと深さ」は、時に矛盾する要請を制作者につきつけます。「長さと面白さ」や「短さと難解さ」も同様ですよね。 ここに、挑戦していかなくてはならない。

 

今野 今さらですけど、高橋さんは「矛盾への挑戦」とか「下克上」とかのマインドにあふれかえってると感じます。矛盾を探してまわってるんじゃないかと思うほど。

 

高橋 そうかもしれない。

 

今野 でも、僕はそこが好きなんです。その矛盾に挑戦する時に、見たこともないような面白いものができる可能性が生まれるんじゃないかなと思うから。その矛盾の超え方は、『1秒でつかむ』という本に書かれていますので、どうぞよろしくお願いします(笑)

 

 

(完)

 

撮影/中村彰男
取材・文/佐藤友美

 

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『1秒でつかむ』(amazonリンクにとびます)

 

 

 

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高橋弘樹さん

1981年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年テレビ東京入社。入社以来13年、制作局でドキュメント・バラエティーなどを制作する。 プロデューサー・演出を担当する『家、ついて行ってイイですか?』では、ひたすら「市井の人」を取り上げ、これまでに600人以上の全くの一般人の「人生ドラマ」を描き続ける。『吉木りさに怒られたい』『ジョージ・ポットマンの平成史』『パシれ! 秘境ヘリコプター』などでプロデューサー・演出を、『TVチャンピオン』『空から日本を見てみよう』『世界ナゼそこに?日本人』『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ! 』などでディレクターを務める。著書に『TVディレクタ-の演出術』(筑摩書房)、『敗者の読書術』(主婦の友社)など。

 

 

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今野良介さん

1984年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2008年日本実業出版社入社。税金、法律、システム開発などの実務書を担当。2015年、ダイヤモンド社入社。書籍編集局第三編集部所属。担当書籍に『システムを「外注」するときに読む本』『クレーム対応「完全撃退」マニュアル』『だから、また行きたくなる。』『こじらせない離婚』『超スピード文章術』『一流の人はなぜ風邪をひかないのか?』『落とされない小論文』『子どもが幸せになることば』などがある。

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