
幸せな休日。はてしない物語。【さとゆみの今日もコレカラ/023】
12 歳の誕生日にミヒャエル・エンデの『はてしない物語』をプレゼントされた。シルバーの貼箱からずっしり分厚い本体を取り出すと、ビロードのようなえんじ色の布を纏っていた。こんな贅沢な本があるのかとときめいた。たしか 2800 円だったと思う。
ケーキを食べるのもそこそこに、ページを貪った。一応パジャマに着替えたが、眠れるはずがない。ベッドの中でも読み続けた。生まれて初めての徹夜。しかし学校に行く時間になっても、まだ半分は残っている。
一念発起して嘘をついた。
「ちょっと体がだるい気がする。休んじゃダメかな?」母は驚いた顔をして私の額に手を充てた。
「熱は、なさそうだね」と、言う。
「うん、でもちょっとこわい」
北海道弁で、こわいはしんどいの意味だ。バレないかとどきどきしながら、いかにも辛そうな顔を作った。
私の誕生日は2月 25 日なので、もうすぐ小学校を卒業するタイミングだった。
「皆勤賞、ダメになっちゃうね」
と、母が言う。健康優良児の私は、あと少しで6年皆勤を達成し、卒業式で表彰されるはずだ。でも、今は皆勤賞の盾よりも気になるものがある。
ベッドに戻り頭まで布団をかぶって、続きを読んだ。病院に行こうと言われなかったから、今思えば母も察していたのだろう。ときどき部屋がノックされ、調子はどう? と聞かれるだけだった。
『はてしない物語』の各章は、「けれどもこれは別の物語。いつかまた 別の時に話すことにしよう」で、終わる。その別の物語を読みたくて先へ先へと急いだけれど、結局最後まで別の物語は描かれなかった。肩透かしを食らったような、でもとっぷり満足したような、ないまぜの気持ちで本を閉じた。急に睡魔が襲ってきて、落ちた。
あの日ほど、幸せな休日はなかった。
いつかまた別の時に話そうと言われたはてしない物語を、今も探している。
みなさま、よい休日を。


