
思い出される人になりたい! その仕事、どこからもらってきたの? 【絵で食べていきたい/第36回】
欲しいテイストのイラストを探したものの見つからない。そもそもどこでイラストレーターを探していいかわからない。「では誰ならばやってくれそうか」「相談にのってもらえそうか」と考えたとき、「あの人に相談しよう」と思い出してもらえる人になりたい。そんな人になれる方法はあるのでしょうか。
意外な仕事はどこから来たのか?
絵で食べていきたい! と夢みていたころ、「イラストレーターといえばこの人、と思い出されるような人になりたいなあ」と思っていました。人気イラストレーターや神絵師(当時その言葉はありませんでしたが)として、作品と名前を思い浮かべてもらえるような存在になりたかったのです。しかし現在の私はどちらかというと、発注者が「この仕事を誰に頼もうか」と迷ったときに、思い出してもらえる人になりたいと思っています。
絵の仕事をしていると、ときどき「そんな仕事、どこからもらったの?」ときかれることがあります。もちろん売り込みも含め、仕事を受ける経緯はさまざまです。ただ、今までやったことがない仕事で先方から指名された場合、受注のルートは主に2つです。相手が熱心に探して私を見つけてくれた場合か、「あの人になら頼めるかも」と私の存在を思い出してくれた場合です。
つまり、欲しいイラストにたどり着けなかった発注者が、さてどうしようと考えたときに「とりあえずあの人ならなんとかしてくれるのでは」と私を思い出してくれれば、その仕事を受けられる確率がグンとあがるのです。では、そんな人になるための方法はあるでしょうか。4つに分けて考えます。
思い出される人になる4つの方法
1:相談されたらきちんとこたえる
仕事をはじめたころ、私はプロフィールに「企画からご相談ください」「イラストのご相談何でも承ります」などと書いていました。企画のこともイラストのこともろくにわかっていないのに、我ながら大きく出たな、と思います。でも実際に編集者さんから「こういう絵をつかいたいけど描ける?」「こういうことがしたいのだけどできる?」と、発注前の相談を受けることがよくありました。もちろんはじめから大きな企画の相談はされません。数が多くて単価の低い小カットを要望通りのテイストで描けないかとか、納期や予算が少ない案件を受けられないかなど、相談というよりお願いのようなことを引き受けるうちに、少しずつ相談内容も広く、クリエイティブになっていきました。
かといって、どんな無理難題もこなしてくれる都合のいい人になりたいわけではありません。ただ、できない場合もただ断るのではなく、できるだけ代案を考えるようにしました。相手に「この人にきくんじゃなかった」と思われたくなかったのです。
というのも、自分が相談をもちかける側だったら、相手の能力以上に「頼みやすさ、なんとかしてくれる感」で選ぶと思うからです。「なんでもご相談ください」と書いてあるから勇気をだして相談したのに、あなたはうちのお客じゃないとばかりにけんもほろろに扱われたら、二度と相談するものかと腹が立つでしょう。逆に小さなことでも親身になってくれたら、たとえ問題が解決しなくても、いつかこの人にお願いしたいと思うかもしれません。
「こういう人知らない?」「どうしたらこれができるかな?」と常に誰かの相談を受けているような友人がいます。世話焼きだなあ、大変だなあと思いますが、意外な業界に知り合いがいたり、面白い仕事をもらってきたりします。人からの頼まれごとを面倒がるより発奮するタイプで、まさに「そうだ、あの人にきけば何とかなるかも」と真っ先に思い浮かべてもらえるような人です。皆にそう思われるので、わざわざ「相談してください」といわなくても、相談ごとが寄ってくるのでしょう。
2:その人のリストの一番目になる
もし私が「他のイラストレーターを紹介して」といわれたら、「どんな人を探しているの?条件は?」などと、まずヒアリングしてから誰を紹介するか考えるでしょう。私にはイラストレーターの知り合いがたくさんいるからです。しかし、もし「ラーメン店主を紹介して」と頼まれたら、誰か紹介できるようなラーメン店主がいたかな、と記憶をたどるでしょう。そこで、一度話をしただけのラーメン店主が思い浮かんだら、こんな人がいるよ、ととりあえず名前をあげると思います。
つまり、たまたまその人にとって自分が唯一の知り合いのイラストレーターならば、イラストレーターが必要なときに思い出してもらえます。経験はないけれど自分で良ければ、と全く新しい分野の仕事にチャレンジできるのはこういうケースも多いのです。もちろん何でもできるわけではないので、お断りする場合もあります。その場合も、自分にはできないけれどあの人にはどうだろう、と思えば知り合いをつなぐことができます。これだけでも「たった1人の知り合いのイラストレーター」として役目を果たしたことになります。
以前、「マタニティペインティング」を頼まれたことがあります。妊婦さんのお腹に、人体に害のない絵の具で可愛いイラストを描くのです。身体に絵を描く経験はありませんでしたが、本人の強い希望があったので挑戦しました。おかげでそれまで全く知らなかった絵の仕事を経験することができました。「もっとうまい人がいるのにな」と思っても、相手にとってはもっとうまい人より友達である私に頼みたい、細かい希望が話しやすいなどのメリットがあるわけです。
ちなみに、趣味の場など、仕事がらみではないところで知り合った人が多いほど、その人にとって唯一のイラストレーターポジションを得られる場合が多くなります。仕事に直結しそうな異業種交流会では、異業種とはいえ近接したジャンルの人たちが多くなります。趣味のサークルや推し活など、仕事以外の出会いは即受注には結びつきませんが、全く予想のつかない、面白い縁が生まれることがあります。
3:つながりつづけて思い出してもらう
会社で営業の仕事をしていたとき、上司から「用がなくても取引先に顔をだしてこい」といわれました。用もないのにウロウロされたら先方だって迷惑だろうと途方にくれたものですが、その意味がわかるようになったのは、むしろフリーランスになってからだと思います。昨今は、御用聞きのような営業スタイルはなかなかできないかもしれません。でも私がニュースレターやSNS、季節の挨拶などを利用してやっていることは、営業マンの挨拶まわりと同じです。目に触れないものはあっという間に忘れてしまいますが、常に目に入っているものは意識に刷り込まれます。
多くの会社からメルマガなどが届きます。全てを読むことはありませんが、たまたま気になるタイトルがあればクリックしますし、なにより無意識のうちに社名などは記憶に残ります。反応のない相手にアプローチをしつづけることはなかなか大変なことですが、この積み重ねが無駄ではなかったと思う日もきっとくるはずです。もちろん読まれる工夫や、解除されない程度に頻度を調整することも大切です。
4:思い出される人のそばにいる
これも昔ながらの手段ですが、自分が思い出される人でなくても、思い出される人のそばにいるだけで、相談ごとが自動的にまわってくるものです。「師事する」というほどのことでなく、たとえばさきほど書いた面倒見のよい友人の頼まれごとに協力するだけでもいいのです。「人脈」というと何かギラギラしたイメージかもしれませんが、結局は小さな行動と信頼の積み重ねがその人の人脈になるのだと思います。
売り込むだけでなく「思い出される」ことでも仕事は来る
ここまで、自分にとって新しい、珍しい仕事を得たルートを「思い出される人になる」という視点から考えてきました。慣れた仕事で十分食べていけるようになると、他のことをしたくなったときにどうやったらいいのだっけ? と悩むことがあります。「その仕事、どうやってもらったの?」とききたくなるのは、そんなときではないでしょうか。
新しい分野の仕事に挑戦するには、自分からガンガン売り込みをしないといけないと思うかもしれません。営業しなくても未経験の仕事が入ってくるのは、一握りの素晴らしい絵を描ける人か、とんでもないコミュ力のある人だけだと思いがちです。でも実際はこのように、自分の日々の仕事以外のつながりや行動が、結果として新しい仕事につながっていることも多いと感じます。何度も書いていますが、どんな仕事も「総合力」の勝負です。なんだ、こんなことならやっている、当たり前だと感じることも、磨けば意外とより強い力にできるかもしれません。
文/白ふくろう舎
【お知らせとお詫び】
この連載に加筆修正した書籍『絵で食べていきたい!』(弘文堂)第 1 刷(2024 年 12 月 15 日発行)に、修正を要する表現がございました。 下記URLの通り変更いただけますよう、お詫びと共に、お願い申し上げます。
正誤表 https://hondana-storage.s3.amazonaws.com/83/files/85018_1.pdf
書籍『絵で食べていきたい!』は、こちらからご購入いただけます。

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