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画力も経験も足りないけれど仕事が欲しい! ドキドキの持ち込み編【絵で食べていきたい/第2回】

イラストレーター白ふくろう舎さんによる 連載「絵で食べていきたい」の第2回。

会社をやめて30歳でフリーランスのイラストレーターになると決めた時、私には知識もコネもありませんでした。絵の仕事をもらおうにも、何から手をつけていいのかわからず、とりあえずできること、営業活動になりそうなことを色々試してみました。今回は、私が最初の仕事を得るためにやってみたことの中で、特に効果があったと思うことについてお話します。

「持ち込み」、やっぱりしなきゃダメ?

絵で仕事がしたいけれど、どうしたら仕事がとれるのか。イラストレーターの営業というと、大抵の人が最初に思いつくのが「持ち込み」ではないでしょうか。

けれど「持ち込み。私の苦手な言葉です」という方もまた、多いのではないかと思います。そして、私もその一人です。身内には大威張りのくせに、外では人に話しかけるのも苦手な、典型的な内弁慶。クラス替えした教室でも、知らない相手に話しかけられず、隅で黙々と絵を描くだけ。そこに好奇心とコミュ力の強いクラスメイトが「何描いているの?」と寄ってきて、ほかの友達を呼んでくれる……そんなやり方でクラスに溶け込んできたタイプです。

そんな気質の人ならば、営業も、できれば直接人と会わずにできる方法を考えたいものです。SNSなどに自分の作品をアップして「お仕事募集中です」とアピールしてみる。ストックイラストに投稿する。クラウドソーシングサイトの「イラスト募集案件」に応募する。最近なら、スキルマーケットとかコミッションサービスなどに登録して依頼を待つ、などなど。

それらのやり方がいけないとは、全く思いません。上記の方法で成果を出している人たちもたくさんいるからです。私自身も大体のことは実際に試していますし、最近でてきた新しいサービスや、まだやっていないことは、隙あらば挑戦してみたいと思っています。

それでも、その上で、やっぱり私はイラストレーターが営業活動をするなら、「直接人と会うこと」、中でも「持ち込み」を選択肢に入れてほしいと思うのです。特に、私のような「画力は足りない。けれど、それ以外の能力を足した総合力で勝負」と思っているタイプの人なら尚更です。これから私が最初に仕事をとるまでにやったことと、その上で何故持ち込みをすすめたいのかという話をしたいと思います。

はじめて仕事をもらうまでに経験ゼロの私がやったこと

これからは、絵で食べていきたい。絵を仕事にしよう。そう決めた時、私が「営業活動」としてやってみたのはこんなことです。

1:イラストレーターとして自分のホームページとブログを作る
2:様々な「イラスト募集案件」に応募
3:グループ展に参加して作品発表
4:新人イラストレーターのコミュニティを見つけて同業者と交流
5:ポートフォリオを作成して出版社へ持ち込み

SNSでの活動がないのは、当時はまだTwitterもInstagramも、mixiさえも存在しなかったからです。

さて、これらの中で、最初の仕事をもってきてくれたのは、4で交流した同業者からの紹介と、5の持ち込みでした。

最初の仕事なのに2つあるのか、と思われそうですが、はじめての仕事は同じくらいの時期に重なって入ってきたのです。営業活動をはじめて、半年くらいたった頃でした。それまでは自分なりに色々あがいたなあと思います。

はじめのうちはとにかく思いつくまま、雑誌やネットで見つけたイラスト募集案件に応募したり、ホームページやブログにイラストをアップしたりしていました。でもなかなか結果が出ず焦っていた頃、インターネットで「新人イラストレーターの合同ポートフォリオ持ち込み」を企画しているコミュニティを見つけました。一回目の「合同持ち込み」は、あいにく私が見つけた少し前に終わってしまっていましたが、次の企画に参加表明したことで、自分と同じような、イラストレーターの卵や、すでにバリバリ仕事をしている先輩と知り合いになることができました。

イラストレーターや、業界に全く知り合いがいなかった私にとって、実はこのコミュニティが最初の「コネ」となりました。この話はまた稿を改めます。


ここで交流しながら、お互いのポートフォリオを見せ合ったり、オンラインで先輩の話をきいたりすることで、「絵で食べていこうとしている人」「実際食べている人」が結構いることがわかったのはとても心強かったです。とはいえ、いざ持ち込みをするとなると、なかなか勇気がでません。「もっとうまくなってから……」「まずは合同持ち込みで様子をつかんでから……」とぐずぐずして、最初の一歩を踏み出せずにいました。

そんな時、ふと手にした本で、ある大御所イラストレーターが書いた、新人時代の売り込みの話を読みました。その人はなんとしても絵で稼ぎたくて、ポートフォリオに自分よりうまい友人の絵まで入れて、持ち込みをしたというのです。

もちろん、ほめられたことではありません。でもその時の私は、

「こんなハングリーな人たちと競い合うのでは、私なんかモタモタしていたら一生デビューできない! それに、私の絵は下手だけど、少なくとも自分で描いた絵だ。それだけでも、この人よりは恥ずかしくないはずだ」

と、謎の奮起をしたのです。

その勢いで、最初の電話をかけた先は、SFやファンタジーの文庫を出している出版社でした。運よくアポイントをとることができ、見てもらったのがはじめての持ち込みです。こんな経緯があるので、その大御所イラストレーターには今も勝手に感謝と尊敬の念を抱いています。すっかり売れっ子になってから、そんな新人時代のエピソードをわざわざバラさなくてもいいのに、書いたことで私に勇気を与えてくれたのですから。

学べることが多すぎた「はじめての持ち込み」

さて、すっかり長くなりましたが、ここからようやく持ち込みの日々がはじまります。

まずびっくりしたのは、はじめての持ち込み先で、編集さんがポートフォリオを開いたとたん、「これはダメだ!」と私が感じたことです。まだ何か言われた訳でもないのに、精一杯作ったつもりのポートフォリオが、急にアラだらけに見えたのです。

今思うにそれは、他者からの視点に対する配慮が全く足りていなかったことに、はじめて気づいた、ということなのだと思います。

さて、ポートフォリオを一通り見てくれた編集さんは、言葉は優しかったものの、この絵では表紙を依頼するのは難しい、もう少し密度や完成度、そして「今っぽさ」が欲しいと思っているのがわかりました。

でも、その出版社では割と古い感じの絵柄の人もつかっていたはず。「あの、〇〇さんの絵などは……」と、当時表紙を描いていた漫画家さんの名をあげると、「あの人はもう著名でファンもいますから」との言葉。当たり前のことですが、もし同じような絵が描けたとしても(もちろん私の絵は全く及ばないのですが、傾向の話です)、「誰が描いたか」ということも大事なのです。そんなことさえ、実感としてわかっていなかったのが当時の私でした。

一方、自分でイケていると思った絵ではなく、「こういう絵も好きな人がいそう」と思って、いうなれば他者の目を意識して描いてみたイラストの方は、編集さんの反応が良かったのです。「あ、ホラこういうのはすごくいいですね。かわいいし、好きな人がいると思います」と、ちょっと意外なほど好評でした。

結局、はじめての持ち込みは、仕事にはつながりませんでしたが、得られた収穫は大きなものでした。何より、発注する側の真剣な目にさらされることで、はじめて「他者からの視線」を意識できたように思います。

自分が「こう見せたい」「こう思ってほしい」と思ったことが、実際には相手から自分はどう見えているのか、どう思われるのか。自分が「強み」と思っていることは、本当に他人が評価してくれることなのか。

この持ち込みの後、改めて作り直したポートフォリオは、我ながら大分良くなったと思います。もちろん、絵が急にうまくなるわけではありませんが、意識が変わったことで見せ方が変わりました。「私はこういう者で、あなたにこういうものを提供できます」ときちんと示せるようになったと思います。そんなことは当たり前なのですが、実はこれまでのポートフォリオは、例えるなら「だれか私の良いところを見つけて」と突っ立っているくらいに、自分中心だったのです。

はじめて「持ち込み」で仕事を得る

その後も、ポートフォリオを改善しつつ、持ち込み先を探してアポイントをとることを続けました。なかなか会ってもらえないことも多く、同業の先輩には「ファイルだけ郵送して、と言うところは、後回しでいいよ。あまり新人を発掘する気がないから」と言われたりもしましたが、折角なので郵送も続けました。

はじめて仕事をもらうことができたのは、「C」というギャル雑誌に持ち込んだ時でした。

当時30歳の私は、ギャルとは全く縁がなかったのですが、少し前に、同業の先輩が別会社の「E」というギャル雑誌の編集部を紹介してくれて、持ち込みをしたのです。でもその時は「うちはサブカル寄りだから、もっとメジャーな感じの雑誌に持ち込んだらいいと思うよ」と優しく断られていました。その後しばらく持ち込みを受け付けてくれるところがなく、どうしようと途方にくれていた時に思いついたのが「C」誌でした。

実は「E」誌に持ち込むポートフォリオを作るために、その雑誌を買おうとしたのですが、あいにく品切れで、せめて似たものを、と思って買ったのが競合のギャル雑誌「C」だったのです。それまでに基本のポートフォリオは数パターンできていましたが、ギャル誌に持ち込むのははじめてでした。なのでそこに好まれそうなイラストを描いたり、構成を考えたりするために、雑誌を見て研究しようと思ったのでした。

「C」誌をみてつくったポートフォリオなのだから、そこに持っていけばいいんじゃないか。電話してみると、会ってもらえることになりました。

ポートフォリオを見てくれた編集さんは、中のイラストを見て、「これ、うちの〇〇(読者モデル)を描いてくれました?やっぱり!」と、すぐ気づいて喜んでくれました。良い感じで見てもらった後、「でもうちはこういう1枚絵より、カットの仕事が多いんですよね。カットも描けますか?」と言われたのです。しまった、この時は、描きおろしに夢中になって、見栄えがいいと思った1枚絵ばかり入れていました。

「描けます! むしろ、カットの方が得意です。今日は、折角見て頂くならと思って大き目のイラストを持ってきましたが、帰ったらうちにあるサンプルをお送りします!」

とっさにそう答え、家に帰ってから、買った「C誌」の読者ページや記事を参考に、いかにもそこにつかわれそうなカットを数時間でいくつか描き、すぐ編集さんあてに、今日のお礼と一緒にファックスしました(メールでは、あまり重い画像を添付できなかった時代です)。

そして、編集部のファックスからその絵が流れてきたところに、ちょうど別の編集さんが通りかかり、「この絵いいじゃない。誰?」と、気に留めてくれ、その時持っていた企画のカットを1点、発注してくれたのが、私が持ち込みでもらったはじめての仕事なのです。

「総合力派」にとっての「持ち込み」のメリット

さて、最初の「持ち込み」で仕事が得られたのは、イラストを気に入ってもらったから、それに雑誌研究やポートフォリオの工夫が功を奏したから……と言いたいところですが、実はそれだけでもなかったようなのです。

「C」誌の編集部には、はじめての仕事をもらってから、すぐにリピートで依頼を頂き、それからは毎月のように描かせてもらいました。しばらくして、「あの時、ろくに実績もなかったし、沢山の持ち込みがあったでしょうに、すぐに仕事を下さってありがとうございました」と伝えたところ、その編集さんに「白さんは、すぐ仕事を頼んで大丈夫だと思いました。絵もうまかったし、すごくちゃんとしていましたから」と言われたのです。

その編集部では、持ち込みしてくるイラストレーターの数はさほど多くなかったようです。でも、それまでに来た人たちは、いきなり椅子の上に立って演説をはじめたり、自分の作った占いを突然はじめてみたり、かなり自由と言うか、突飛なタイプだったらしいのです。

これを聞いた時はびっくりしましたし、さすがに今はそんな人はいないのでは、と思います。もしかしたら「一芸入試」のように、インパクトを狙うというその人たちなりの戦略だったかもしれません。ただ、やはりいきなり仕事を依頼するのはためらわれるだろうな、とは思います。このように、ポートフォリオだけではわからないことがあるから発注側は慎重になるし、逆に会うだけで信用してもらえることもあるのかなと思いました。

これは極端な例かもしれませんが、「持ち込み」には、ほかにも色々なメリットがあると思います。

以下、私が実際持ち込みをして良かったと思うことです。

・一人で考えているより客観的な視点を得やすい

とにかく「他者の目にさらす」「発注者の目にさらす」ことでこちらの意識も変わります。

・事前に持ち込み先を研究できる

毎回新しいポートフォリオを作る必要はないと思いますが、選ぶ作品や並べ方を持ち込み先が興味をもってくれそうなものにするのは大事だと思います。

・自分一人の絵をじっくりみてもらえる

ずらっと並んだ応募作を比べるような、コンペなどではそうはいきません。

アポイントメントをとるのは大変ですが、その時点で一歩アドバンテージをとれたことになります。

・相手の求めるものをリサーチできる

事前の研究とはまた別に、フィードバックをもらったり、こちらから質問したりすることで、より細かい要望を聞くことができます。よく「この絵を描くのにどのくらいかかりますか?」ときかれますが、逆に「ご依頼いただけるとしたら、だいたいどれくらいの日数を頂けるのでしょうか」とこちらから聞くこともできるのです。

・画力以外のところも見てもらえる

特殊な能力ということではなく、普通にコミュニケーションがとれるか、時間にルーズではないか、やる気はありそうか、など、会ったら予想がつくことは意外と多いです。

・縁をつなげやすい

一度持ち込みさせてもらったら、終わった日のお礼メールをはじめ、うるさくない程度に新しいポートフォリオを送ったり、季節のあいさつとしてポストカードを送ったり、縁をつなぎやすくなります。

とはいえ実際に会ってもらうのは大変です。当時でも、何十件、何百件と電話をして、持ち込みを受け付けてもらえるのはごくわずか、という感じでした。

そういえば、私の持ち込んだ「C」誌を出している老舗出版社でアルバイトしていたことがあるという友人に、最近になってこんな話をききました。その友人は「C」より歴史のある、人気雑誌の編集部にいたのですが、社員の人から「持ち込みの電話が多いから、基本的には断って。どうしても会ってほしいという人だけ、電話をつないで」と言われていたそうなのです。

今思うと、その出版社の中で「C」誌は新しく、またギャル雑誌ということで、ほかのイラストレーターが目を付けていなかったのでしょう。それで持ち込みが少なく、会ってもらえたのかもしれません。期せずしてそこがブルーオーシャンだったのも、幸いでした。

今の時代はその頃よりも一層、会ってもらうことは難しいかもしれません。でもなんとかあがいていれば、糸口はみつかるものです。貴重な機会を縁にできるよう、それこそ持てる力を総動員です。

とはいえ、「持ち込み」がすべてではない

さて、ここまで「持ち込み」を推してきましたが、実は同業の友人には一定数、「持ち込みってしたことがなくて……」というタイプの人たちがいます。一体どうやって仕事をとってきたのかと聞くと、例えば「居酒屋で隣に座った人が新聞の記者で、仕事をもらった」などと言うのです。これはもう私からしたら「コミュ力おばけ」と呼びたいような力技です。これもまた、画力とは別の強力な武器と言えると思います。

ここまではできないとしても、「知人に紹介してもらう」「知り合いの手伝いをする」なども立派な営業です。実際に、私の最初の仕事には、「持ち込み」のほか、「同業イラストレーターの紹介」と、「先輩イラストレーターの手伝い」がありました。こういう話をすると、「自分には紹介してくれるような人がいない」と思われる方も多いかもしれません。でも、特別な状況でないかぎり、いきなり「絵で食べていこう」と思ったら、誰でも最初は何の「コネ」もないはずです。次回は、人とのつながりで仕事をもらう話をできたらと思います。

文/白ふくろう舎

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