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オレたちのスマホのピンチ【さとゆみの今日もコレカラ/第 172 回】

20 代の頃勤めていたテレビ制作会社は、会社に寝泊まりするのが日常茶飯事だった。ソファで寝るか、パイプ椅子を3つ並べて寝るか、寝袋で寝るかの争奪ジャンケンがあった。私はよく本棚から本やビデオテープを取り出して、その棚にすぽっとおさまって寝ていた。

まだ、ブラック企業という言葉すらなく、リゲインが 24 時間闘えますかと歌っていたころである。

そんな生活をしていると、お風呂に入るのもままならなくなる。ときどき編集室のあるビルの給湯器で髪を洗うのだけれど、そのとき知ったのは、「髪は、4日洗わないとシャンプーが泡立たなくなる」である。頭皮の脂のせいだろう。1度目のシャンプーでは全然泡立たず、2度目か3度目洗いでやっと泡が立ちはじめる。そんな生活をしていた私がそのあと、ヘアライターなんて仕事をするようになるのだから、人生わからない。

その頃の記憶が鮮烈で、「4日髪を洗わないと、シャンプーは泡立たない」というのが私の認識だったのだけれど、つい最近、わけあって 10 日間髪を洗えないときがあった。

11 日目にシャンプーをしたとき、「何度目洗いで泡立つかな?」と、ちょっと実験クンな気持ちでいたのだけれど、予想に反してシャンプーは一発で泡立った。マジか。最近のシャンプー成分の進化ってすごいのねなんて思っていたら、あっさり美容師さんに否定された。

「それ多分、頭皮の脂が減ったからですよ」。

若い頃は新陳代謝がよく皮脂も多かったから、数日髪を洗わないとシャンプーが泡立たなかった。でも、めっきり潤いのなくなったおいらの頭皮は、シャンプーの泡立ちを阻害するような皮脂が分泌していないということだろう。

「だから歳とると、頭の匂いって気にならなくなるんですよね。シャンプーの回数も若いときほど必要ないはずです」と、たたみかけられて、それはラッキーなのかどうなのか、複雑な気持ちになる。

✳︎

また別のある日のこと。

メディア関係の人たちと老化について話をする機会があった。私が一番歳下だったのだけれど、みんな口々に老眼がやばいと話し出す。

夜に紙の本を読むのはきついよね。うんうん。スマホで文字を拡大して読むほうがよっぽどラク、などと話をしていたら「いや、最近スマホも辛い」と、御大がおっしゃる。

え、どうして?  と尋ねると「歳とると、スマホの画面操作ができなくなるんだよ」と、その方は言う。指先に脂がなくなるからだと思うんだけど、ピンチで画面を拡大しようと思っても全然反応しないんだ、と御大。

「えええ、そんなことあるぅ?」と訝ったら、別の席の女性に「あるある!  さとゆみもそのうちわかるよ」などと言われ、「あの広告を消す小さい『×印』も反応しないよねえ」「あああ、わかるーーー!  無理無理」「今度年上の人に会ったら、まだスマホのピンチはできますか? って聞いてみなよ」なんて盛り上がった。

人生には未踏の領域がいっぱいあることよ。

2024 年 4 月 20 日。48 歳。シャンプーはよく泡立ち、暗い場所で本を読むのは厳しく、スマホのピンチはまだ反応する。備忘録。

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ビジネスエリートとして活躍している人たちは、体のメンテナンスも手を抜かない。

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