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田中裕子と佐藤友美【さとゆみの今日もコレカラ/第 202 回】

小学館の支払い先リストに「佐藤友美」という名で登録している人は東京在住だけで7人いるそうだ。「サトウ・トモミ」「サトウ・ユミ」の別はあるにして  も、あまりにもよくある名前である。SEO 対策的には非常にイケていない。

そういう話をすると、「田中裕子もたいがいです」と、裕子さんが言う。このエッセイで「私が日本の宝だと思っているライターの……」と枕をつけて語っている人は、田中裕子さんのことである。

そしていつも「ブックライターに相応しい黒子感あふれる名前だよね」に落ち着く。

裕子さんとは、12 年前に上阪徹さんのブックライター塾で出会った。

ともに1期生で、私はファッション誌のライターからブックライターに、裕子さんはダイヤモンド社の編集者を辞めブックライターになろうとしていた時期だった。10 歳年下の彼女は、独立して半年でバトンズ(古賀史健さんが代表のライターズ・カンパニー)への参加が決まっており、当時の私にはキラッキラのサラブレッドに見えていた(そして実際そうである)。

名実ともに道産子である私は、そのキラッキラに吸い寄せられていた。  

彼女の言語センスは射るようである。当時の私は、天才なのだと思っていた。すごいな、こんなふうに恵まれた人もいるんだな、と。だから大好きではあったけれど、あまり近づきすぎないようにしていた。眩しい光を見つめすぎると目が潰れるぞと思いながら、だけど同期にこんな才能があるということを誇らしく思ったりもして、今考えるとやや屈折した感情があったのかもしれないかもしれない。

彼女に出会わなければ、私は「文章力じゃないほうで勝負しよう」とは思わなかっただろう。圧倒的な才能を目の当たりにすると、「じゃないほう」へのアンテナが高くなる。

ところが、いつの頃からか「ひょっとして、彼女は天才ではないのかもしれない」と思うようになった。だいぶ時間が経ってからのことである。

いや、才はそりゃ素晴らしい。その印象は今もまったく変わらない。でもそれ以上に彼女を形作っているのは、圧倒的時間をかけ圧倒的に考え抜いて圧倒的にやり直している、水面化のバタ足だと知ったのだ。

以前彼女は文章を推敲することを、「鉋(かんな)をかけるように」と話していた。何度も何度も鉋がかけられ、すべすべになった完成品を見ていると天才の所業に見えるのだけれどしかし、そこに至るまでの過程は、およそ「与えられた才だけで生きています」とは、ほど遠かった。

2015 年に、裕子さんにインタビューをさせてもらったことがある。

裕子:私、最近、原稿の書き方が変わった気がするんです。

さとゆみ:お〜、それ、ぜひ詳しく聞きたい! 前と変わったことってどんなこと?

裕子:対談原稿で言えば、現場の空気やリズムが伝わるように意識して書くようになったんですよね。そして、その場では語られていないことを読み取って変換して伝えようとするようになったこと。こっちのほうがより大きな変化かも。

さとゆみ:変換するというのは、その人が実際には発していない言葉に変えるってことだよね? 私、対談だと、実際に発してない言葉に変換するのが怖いと感じることも多いのだけれど……。

裕子:わかります。でも、やっぱりライターの仕事ってテープ起こしとは違うと思うんです。いまこうして話をしていても、言葉って選び抜いて発しているわけじゃないですよね?  だから忠実に再現することが必ずしもいいわけではなくて、話した人が意図したことを汲み取って翻訳して表現することが大事だな、と。

「田中裕子さんへの 53 問 53 答」 さとゆみの note より

この時、私は裕子さんの言っていることを、本質的には理解できていなかったと思う。だけど、それから 10 年近く経って、私も心底原稿と向き合う時間を経て、やっとこの時の話がわかるようになった。10 歳年下の人の思考に10 年遅れでやっと追いついたのである。

✳︎

『本を出したい』を書いたあと、この本を裕子さんに読んでもらえたら嬉しいなと思った。裕子さんだったら、この場合どうするだろう。10 年前に聞いた話から、どれくらい書き方を変えているのだろう。それを聞いてみたいと思った。

そんな我欲丸出しのインタビューが実現しました。

全部で3時間話し、原稿ができたあとも4時間くらいチャットで話した。もう、本を書いたご褒美ここに極まれるといった至福の時間であった。10 行に1回くらい名言がある。

昨夜読み返していて、裕子さんが語った「(私は)田中裕子の名前に恥じない一般性を持っている」の一文がじわじわきている。天才だと思っていた彼女が天才に見えた理由が、こういうところにあると思った。

「書く」を仕事にしているあらゆる人たちに、「読む」を愛するすべての人たちに読んでもらえたら嬉しいです。

【この記事をおすすめ】

私、書くときに、色を決めているんです。

私たちの長い長いおしゃべりを根気強く聞いてまとめてくれた、ライターの梢ちゃんにも心からの感謝を。

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