
銃の重さは4.3キロ【今日もコレカラ/第895回】
「大輪のバス停まで」
とタクシーの運転手さんに言うと
「表参道から参拝?」
と、聞かれる。
秩父の三峯神社には、年に1、2度参拝している。普段は秩父の駅からバスで1時間半近く揺られていくのだけれど、その途中の大輪から、表参道を歩いて登るルートがあると聞き、今回は前泊してそのルートから登ることにしたのだ。
秩父観光協会のホームページを見ると、昔は誰もがこの道を歩いて参拝したとある。ハイキングではなく、700m登る完全な登山なので、ちゃんと装備して歩けと書かれている。
運ちゃんが「途中、橋が落ちてガレてるところもあるから、気をつけて」という。何時間くらいかかるのかと聞いたら、自分なら1時間40分かなという。
ホームページには2時間半くらいと書いてあったので、きっと慣れているのだろう。
「よく登るんですか?」
と聞くと
「自衛隊をやめてから、たまにね」
と言う。
ほおお。自衛隊ですか。
それから、彼は御殿場の陸軍演習所を皮切りに、全国各地で自衛官の訓練にあたった話をしてくれた。
教官になるには、福岡県久留米市の幹部候補生学校で訓練を受けるそうだ。
「へええ、訓練で一番大事なのって、何なの?」
と聞くと、運ちゃんは
「まあ、結局、心だな」
と即答する。
「人を救うにも戦うにも、大事なのは心なんだよ。苦しい訓練だから、心がないと続かない」
「心って、どうやって鍛えるの?」
と聞くと、ほら、それはまあ、そんな時代だからさ。今では考えられないような訓練していたよと話す。
きっと体に覚えさせる的なことだったのだろうと思う。
「いつも表参道から登ってるの?」
と聞かれたので、
「いや、月末に巡礼しようと思っているので、重い荷物を持っての登山の練習」
と答えた。
パソコンやカメラを入れたバッグは10キロ弱ある。
すると運ちゃんは、「自衛隊で訓練するときは、30キロのリュックを担ぐんだ」という。それに、銃がある。銃は4.3キロ。それに弾倉。タマって重いんだよね。20発入りで1つの塊を、4つ持つ。
銃の重さは4.3キロ。いまでも重さがすらすらと出てくるものなのだなと思う。
「どういう理由で自衛隊に入ろうと思ったの? しかも、大学を出て幹部になる訓練を受けて」
それまで澱みなく話していた運ちゃんが、しばらく考えていた。
「そういう時代だったんだよ。俺たちの時代は。ほら、三島が自殺してさ。そういう時代に学生だった」
「安保のころ?」
「そうそう。成田闘争とかあってね。あの時代の空気は、いまの若い人たちには絶対にわからないよ」
「いまのトランプのことを、どう思う?」と聞くと、「あれは、ライオンみたいなものだな」と運ちゃんは言う。「たった一人の指導者が変わるだけで、世界って変わっちゃうものなんだね」と私が言うと「そうだよな」と運ちゃん。
車は表参道の入り口についた。
「気をつけて」
と、運ちゃんは手をふってくれた。
時代の空気か、ライオンか、と思う。
【この記事をおすすめ】
※「今日もコレカラ」は朝7時に更新です。バックナンバーが読めるようになりました。


