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平和のために『ウォーフェア 戦地最前線』で戦争を感じる

Writer hanata.jp

自分の顔にガラスの破片が飛び散ってくる。弾が飛んでくる時は「ぱちぃーん!」という音が聞こえる。本当の銃撃戦で聞こえる音は「バーン!」ではなく「ぱちぃーん!」なんだ。飛んできた弾が顔の近くの窓ガラスを割り、破片が壁にぶつかるような音。音の一つひとつが、理にかなっている。割れるガラスの音は耳の近くで鳴っているから、銃声より大きく聞こえる。その場にいる感覚をつくるために、音がこんなにも重要だったなんて。音声の作り方に、まだこんなに可能性が残されていたなんて。見終わった後、自分の顔の表面がヒリヒリしている気がした。自分の頬から、血が出てはいないだろうか。

『ウォーフェア 戦地最前線』は『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を監督したアレックス・ガーランドさんによる、新作だ。米国では2025年4月に公開され、海外の映画情報を扱うポッドキャストなどでは去年から話題になっていた。日本ではいつ見られるのかと、心待ちにしていた。

僕はこの映画を、日本公開に先立って見ることができた。試写会の抽選に当選したのだ。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では現実と地続きの設定があり、映画鑑賞として新しい感覚があった。今回も新しい体験となるのだろうか。でも、映像技術が進んだ今の時代、まったく新しい体験に出会うことは難しいのかもしれない。しかし、僕のそんな思い込みは大きな間違いだった。

司会の前説で「この映画以降、戦争映画が変わるかもしれません」という言葉があった。「銃器一つひとつの、音が違うんです」とのこと。そんなに細かくこだわっているのか。そして、そのリアルさを実現したとして、鑑賞にどんな影響があるのだろう? 僕の中で、その理由に対しての好奇心が開演直前に急上昇した。

この映画は実話がベースになっている。2006年、イラクの危険地帯に配属された米軍の小さな部隊。アルカイダ幹部の監視活動の最中、銃撃戦が突然はじまる。味方にとって都合の良い展開など一つも起こらずに、叫び声や怒号が飛び交う。米国の軍隊には似つかわしくない、劣勢の現場だ。仲間の体は真っ二つに引き裂かれる。誰かの片足が、ちぎれて地面に転がる。

多くの戦争映画では大砲の音にもひるまずに、隊員たちは応戦する。その中で主に注目されるのは、作戦が成功するかどうかだと思う。しかし『ウォーフェア 戦地最前線』は、一人ひとりの表情にカメラを向け、その戸惑いや混乱をじっくりと見ていく。体も心も強靭であるように見える隊員も、銃弾の嵐の中でいつしか限界を超えてしまう。生きて帰れるかわからない現実を前にして、誰しもがテキパキと行動できるわけではない。

そんな彼らを見て、軍人でも、みんな人間であることに変わりはないのだと気づく。自分のすぐそばで破裂音を鳴らしている一つひとつの弾は、自分を目がけて飛んできている。すべての銃弾は、間違いなく自分を殺そうとしている。この最悪の状況を、トレーニングの中で精神面から準備して対応することは、不可能なのかもしれない。

隊長はいつの瞬間からか、ボーっとしている。プレッシャーの限界を超えてしまったようだ。彼の顔の前で手を叩いたら意識が戻るだろうか? と僕は一瞬おもうが、そもそも隊長は呼びかける声に反応もできなくなっている。隊長は、他の隊員よりも実戦経験が豊富なはずだ。

銃声や爆発音は、スクリーンから聞こえてくる感じがしない。頭のすぐ後ろを、弾が空気に穴を空けながら飛んでいく。自分の体を包む空気ごと、その場にいる感覚。「リアルだなぁ」なんて、思わなかった。リアルさのその先まで追求し、観客がその場にいるような状況を作り出すことで、焦りと恐怖が共有される。

至近距離で爆弾が爆発し、隊員の聴覚がしばらく失われてしまうシーンがある。隊員はなんとか起き上がるが、四方八方がホコリで覆われていて、自分がどこにいるのかわからない。仲間は近くにいるのか? 生きているのか? それすらもわからない。そんなとき、敵が自分を狙って弾を撃ってくるとしたらーー。仲間を守れるだろうか、作戦は遂行できるのだろうか。どっちに向かって走れば身を隠せるのかもわからないのだ。

味方のジェット機が、”威嚇飛行”していく音。ジェット機が爆弾を落とすフリをすることで、敵の銃撃がしばらくの間だけ、止む。それが”威嚇飛行”だ。そのフリをするために、手を出したらぶつかってしまいそうなくらいの至近距離でジェット機が飛んでいく。その音は、ほぼ爆発音だ。この音を聞く度に、ショックでしばらく動きが止まってしまう隊員。怪我をしているからではない。単に、この爆音が胸にこたえてショックで、動けないのだ。この映画で再現される音を聞けば、ショックの理由がわかる。大きすぎて肌が裂かれてしまうようなこの音は、ただの恐怖でしかない。でも、この音を立てているのは威嚇飛行をしてくれている味方なのだ。

戦争とは、そういうことなんだ。どの状況も異常で、一度も経験したことがないこと、人間に不可能なことを、連続的に、数分間の中で処理することを強いている。頭がおかしくなって当然ではないだろうか。

この映画をたくさんの人に見てほしい。僕がそう思ったのは、試写会場にいた関係者の言葉を聞いたからだ。「この映画は戦争体験者の方も見ています。戦地の極限の状態を知ってもらうことで、気持ちが少し楽になるとおっしゃる方もいるそうです」。この映画を見て彼らを理解する人が増えれば、戦争を減らすためのアクションや理念につながるかもしれない。そう思った。だから、見てほしい。

アレックス・ガーランドさんは『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では国家の分断を描いた。『ウォーフェア 戦地最前線』では、戦争という大きな国家間のうねりによって、小さな人間の小さなこころが壊されていく、その道程を見せてくれた。軍隊に入隊しなかったという理由だけで、私たちは彼らの精神的な犠牲に対して無関心でいいのだろうか。顔のスレスレを飛び交う銃弾の中で、あなたは何を考えるだろう。

文/hanata.jp

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