ボジョレー・ヌーボーとじゃがいも【連載・炭田のレシピ本研究室/第21回】
毎日の料理は、ほぼレシピ本頼り。年間100冊以上のレシピ本を読んでいるフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本を紹介する連載。 今回は、10年に一度の当たり年と言われている「じゃがいも」をおいしく食べ尽くします。
並外れて素晴らしい出来栄え
今年のボジョレー・ヌーボーは歴史に刻まれる味わい! とかなんとかワイン好きたちが盛り上がるのを、毎年指を咥えて見ている。なぜなら私は酒は好きだが大して強くないし、悲しいことに年々弱くなっている。そして我が家の残りのメンバーは、下戸1(夫)、未成年1(娘)で構成されているので、買ったところで飲み切れない。実に切ない。
しかしながら、今年は北海道産の「じゃがいも」が当たり年らしい。ボジョレーは無理でも、じゃがいもなら私でも存分に味わえる! 「ここ10年で最高の味」とか「北海道の大地が育んだふくよかさ」とか「実にテロワールを感じる」とか言ってみたい。そうとくれば、じゃがいもレシピの出番だ。
じゃがいも愛をすごく感じる
まず選んだのは、坂田阿希子さんの『じゃがいも・ブック』。この本は、マンションのベランダでじゃがいもを栽培するところから始まり(薄紫色のじゃがいもの花が可愛らしい)、レシピはベイクドポテトの焼き方が5種類、ポテトサラダの味付けが5種類、みそ汁が8種類などバリエーションが豊富で、じゃがいもを使った「おやつ」まで紹介されている。とにかくじゃがいもへの情熱がムンムンで、じゃがいもを楽しむためにこれ以上ない1冊だ。

私がこの本で好きなのは、作るのがだいぶ面倒なところ。コロッケのように作る前から「大変だよね」と想像がつくような料理以外も、そこまでするのか! というひと手間、ふた手間が掛かっている。
例えば、フライドポテト。私が好きな「角切りにしてフライ」というレシピは、揚げ油が「サラダ油とオリーブオイルを半量ずつ」と指定されている上に、塩は「粗塩」だ。サラダ油だけで揚げて、赤いキャップの食卓塩を振るのではダメなのである。定番の「肉じゃが」も、ラードで牛肉を炒めて、糸こんにゃくは太めのものを使うなどいちいち細かい。
でもフライドポテトも肉じゃがも、レシピ通りに作ると目を引ん剝くほどおいしい。じゃがいもを愛する人が、意図を持って作り上げたレシピに従うからこそ出会える味が、この本にはある。当たり年の今こそ、面倒くささを乗り越えて手に取ってほしい1冊だ。
今年の秋に相応しい1冊
次に紹介するのは、レシピ本ではない。『dancyu2026年秋号』、雑誌である。
個人的事情だが、私は普段年間100冊以上のレシピ本を読むレシピ「本」愛好家を名乗っているので、雑誌を推薦するのは大変気が引ける。だが「2026年の北海道産じゃがいもが最高だぜ!」という旬な話をするならば、今回だけは今年の秋に発売された『dancyu』を推すことも“アリ”だと思うのだ。
なにより、じゃがいもという1つのテーマに対して、渋谷の酒場からジョエル・ロブションまで幅のあるレシピを繰り出せるのは雑誌ならでは。レシピ本ではないが、ちょっと大目に見てほしい。
それに、レシピ本では知ることができなかったようなレシピと出会えるのも雑誌のいいところ。鎌倉にあるイタリア料理店・オステリア コマチーナの亀井良真さんによる「豚角煮肉じゃが」が、まさにそんな一品だ。飴色に艶めく豚の角煮に、皮付きのじゃがいもがゴロンゴロン入った「和」の一皿は、亀井さんのお店ではまず出てこないだろう。
そんなレアレシピという理由で作ってみた、豚角煮肉じゃが。15分だけ煮込んだ皮付きのじゃがいもが、芋の風味を残しながら豚の脂をまとっていて実にうまい。3時間煮込んだほろりと崩れる角煮は、生姜がキリッと効いていて、芋→肉→芋→肉と食べる手が止まらず、なかなか白いご飯に行き着かない。私が酒飲みなら、ボジョレーと合わせてみたい味である。

誌面では他にも、日本一の酒に合うポテサラを求めて3日間のべ18名の審査員がじゃがいも15kgを使ってナンバーワンを決めたり、じゃがいも大国アイルランドの国民食である「食パンにポテトチップスを挟んだだけのサンドイッチ(クリスプサンド)」を取り扱う喫茶店が載っていたりして、隅から隅まで読みたくなる楽しさがある。子供の習い事の付き添いの度にちょこちょこ読み進めるのが、最近の楽しみだ。
10年後への神頼み
ところで我が子は現在10歳なので、あと10年すればお酒が飲めるようになる。夫に似て一滴も飲めないのか、私に似て飲めはするがさして強くないのか、はたまたウワバミのように強いのか。もしウワバミだった時は、ボジョレーもじゃがいもも「最高だったとされる2026年を上回る出来栄え」でありますように。五穀豊穣の神さま、よろしくね。
文/炭田 友望
【12/26(土)開催:今年もやります、味祭り!】
『炭田のレシピ本研究室』が、おかげさまで連載2周年を迎えます。嬉しくておめでたいので、「味祭り」というイベントを東京・神田で開催します。
去年、予約枠が即完売した「おいしさを言語化する会」が、さらにパワーアップ! 夜は秋葉原の香福味坊で「スパイシー忘年会」です。お一人でも、お友達と一緒でも大歓迎。お気軽にご参加ください。
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