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「私なんか」のメンタルブロック【さとゆみの今日もコレカラ/第 182 回】

書くのは好きだ。でも、自分には伝えたいことがとくにない。

世の中にあまり不満はないし(いい時代に生まれたと思っている)、毒親に育てられたり病気で生死をさまよったり DV 男と付き合ったりした経験もない。中流の家庭で苦労せずのほほんと生きてきた。怒りや悲しみといったエネルギーが私の体の中にはほとんどない。世に訴えたいことが、まるでない。だから人の話を聞いて文章にまとめるライターは天職だと思っていた。自分の名前で自分の考えを書く日がくるイメージは全く持っていなかった。

加えて、自分の原稿に対するコンプレックスがあった。

私の原稿は読みやすいと思う。ジャンルを問わず「生まれて初めて書籍を 1冊読み切りました」と言われた経験が 50 回くらいある。多分、わかりやすく書くことは得意だ。でも、「本当に面白い原稿を書く」人たちから「さとゆみの原稿はわかりやすい “だけ”」と言われているのは知っていたし(直接言われたことも何度かある)、客観的に見て私もそう思っていた。私は上位 10%の書き手ではない。だけど書いて生きていきたいと思っていたので、

「わかりやすいだけでも生き残れる術」を磨く方向で仕事をしてきた。

「ママはキミと一緒にオトナになる」の連載をスタートする前、実は2度、メディアさんから「note に書かれている子育てブログを、エッセイにしませんか」と聞かれている。両方とも「私なんかに、エッセイは到底無理です」と即答した。お声をかけてもらったのは嬉しかったけれど、本当に私には無理と思っていた。これが、2019 年の話だからわりと最近である。

今となっては、名刺に「ライター・エッセイスト」と刷るほど厚顔無恥になったし、夏からはエッセイの書き方講座もスタートする予定だし、人間とはわからないものである。

「私なんか」のメンタルブロックが外れたのには、いくつかの理由が重なった。

・尊敬している書き手の方に「もう少しさとゆみ自身の文章を読んでみたい」と言われたこと。多分、これが一番大きかった。その1ヶ月後、kufura さんで「子育てエッセイを書きませんか」と言われたとき、私は3度目の正直でその仕事を受けることにした。最初のうちはその方に読んでもらうことだけを考えて書いていた。

・ママキミを書き始めたころ、ある編集者さんに「一緒に仕事をしませんか?」と声をかけてもらった。「コンプレックスや怒りを立脚点にするエッセイストは多いけれど、それがまるでないさとゆみさんの文章が面白い」と言われた。作家になるにはあまりに屈託がなく明るすぎてヘルシーすぎる自分に劣等感があったので、この言葉がお守りのようになった。

・これは以前 note にも書いたのだけれど、エッセイ投稿サイトを運営している編集長に「ライターは原稿が上手い必要があるけれど、作家(エッセイスト)は必ずしも原稿が上手くなくてもいい」と言われて驚いたこと。私はライターの中で特に原稿が上手い上位数%が作家になれるのだと思っていたので、これは衝撃だった。作家に必要なのは文章力よりも着眼点だと言わ

れ、価値観がひっくり返った。

これ以外にもいくつかの出来事が次々と積み重なって、「私なんか」のブロックが外れていった。40 代も後半になる頃だ。

そしてそのブロックが外れてみてわかったのは「なんだよ、私、本当は書きたいこといっぱいあるじゃん」だったし、「下手だろうが浅かろうが自分の言葉で書くことは楽しい」だった。

そして、もっとよくわかったのは、どうせ人口の 99.999%は私の文章を読まないのだから、メタ認知して自分の立ち位置を測って遠慮することがいかに無意味かということ。

もっと早くに、できればもっと体力のあるうちに気づけばよかったなあと思う。飛び込んでしまえば、そこは怖い場所でもなんでもなかったし、誰かに「あんな下手くそが物書きやってんじゃないよ」なんて、言われることもない(ときどきあるけど、もはやどうでもいい)。

同じようなコンプレックスや悩みを持っている人には、迷ってる時間がもったいないからジャンプしちゃいなよと言いたけれど、こういうのは自分で気づいたタイミングでしか多分、飛べない。

私も「もっと早くに気づけばなあ」と思ったこともあるけれど、こうやって時間をかけて気づいたからこそ、今、書くことが本当に楽しいし幸せだなあと思うし生半可で諦めないんだろうなと思う。歳取りの醍醐味である。私にとっては、40 代がそのタイミングだった。無駄な歳月はどこにもなかった。

【この記事をおすすめ】

実際、紙に印刷されたものを読んでみると「私は、こんなに文章が下手だったのか」と、がく然とした。ふだん私が読んでいる本とレベルが違う(比べるにも及ばないと思うけれど、ベストセラー作家と比べています)。

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