
右足を出す。次に左足。【さとゆみの今日もコレカラ/第 210 回】
落ち込んでいる。
いや、「込む」ほどじゃないか。でも、まあ、落ちている。凹んでいる、くらいか。
新しいことに取り組むのは面白い。取り組む前の可能性は無限大だ。きっといつか空も飛べるはずと思う。最初のうちは、どんどんうまくなる。そし て、ある程度技術がつくと、突然気づく。
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私、めちゃくちゃ下手じゃん!!
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これは何を学ぶにしても必ず陥るパラドクスのようなものだろう。
どんな物事も、ある程度学びが進み技術がつくと、逆に「自分のレベルの低さ」がはっきりと理解できるようになる。
言い換えれば、「半人前だとわかるくらい、一人前になった」のだから間違いなく成長しているのだが、渦中にいるとこの時期が、一番キツイ。あそこがゴールだと思って登ってきた山が、まだ1合目であったことに気づくような感覚だ。
挑戦する前は、「まあ、大きなお山!」としか見えていなかった山が、登ってみると 100m 級から 3000m 級まであって、上にはまだ全然上があることを知って、途方もない気持ちになる。もう全然、「空も飛べるはず」なんて歌えない。あの無邪気な日々よ、カムバック。
登る山が見えているときは、まだいい。この道を進めばいいとわかるのであれば、まだ足は動く。でも、「これを続けていて、本当に上手くなるんだろうか」とか「この道は実は下山しているのかもしれない」などと思い出したら、足が止まる。
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以前、さとゆみゼミを受講してくれた優子さんという方がいる。仕事がら文章を書く必要があるのだけれど、苦手意識が拭えない。書く勉強がしたいと講座を受けてくださった。
彼女はトレイルランナーでもあり、40 代になってから始めたマラソンにハマった結果、私の講座に通っているときは年に何度も 100 マイルレースに出ていた。現在 50 代。昨年はトレランの世界で最高峰と言われる海外のレースも完走している。
その彼女が、「100 マイル(160 キロ)走るよりも、さとゆみゼミの課題の 2000 文字を書くほうがよっぽどしんどい」と言っていた。え、嘘でしょ? と問い返すと、彼女はこう言った。
「走るのは前に進めばいいだけだから。疲れはするけど、足を出せば、前に進むから。だけど、ペンは握っても文字が出てくるとは限らない」
その言葉に私は、「それだけ長い距離を走る筋肉をつけられる優子さんだったら、文章を書く筋肉もちゃんとつきますよー」と、無邪気に答えていた。
でも、今になって、優子さんが言っていた言葉が、ブーメランになってバチコン自分にぶっささっている。
本当に毎日書くだけで筋肉はつくのか?
もっと時間をかけて1本1本書くべきなのか?
そもそも、筋肉を鍛えれば面白い文章が書けるようになるのか?
っていうか、書く筋肉って、どの筋肉だ? 指差し確認できるのか?
……etc.etc.
走るのと違って、書くは前に進んでいるのかどうかわからない。
走るは走っただけゴールに近づくけれど、書くは、書いたあとに全部消してしまうことだってある。
それでも今日の「書く」は前に進んでいるのか? 本当に?
いろいろぐちゃぐちゃ考えながらも、でも今日も、右足を出す。次に左足を出す。辛い時は上り坂。右足。左足。右足。左足。
右足。左足。
【この記事をおすすめ】
さとゆみ:優子さん、ゼミ中に 100 マイルのトレイルランニングのレースを完走されていましたが、「100 マイル走るより、このゼミの方がきつい」と言ってらっしゃったし。
優子:だって、走るのは前に進めばいいだけですから(笑)。疲れはするけど、前足を出せば、前に進むから。だけど、ペンは握っても文字が出てくるとは限らないんですよね。


