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10年続けられる人【さとゆみの今日もコレカラ/第286回】

13年前のこと。大阪だったか、名古屋だったか、美容師さん向けのセミナー会場で講義を終え、さて家に帰ろうと思って新幹線を検索していたら呼び止められた。私のあとにセミナーをする予定の美容師さんで、「僕、美容院のカウンセリングで使える絵の描き方を教えるのですが、よかったら参加してもらえませんか?」と言われたのだ。

当時私は妊娠中で、体調もあまりよくなかったのだけれど「絵の描き方」に興味があって受けて居残ることにした。

数時間の講義は、人の顔と髪型の描き方のレクチャーで、非常に有意義なものだった。その人はこう言った。

「既存のヘアカタログを見せながら、『どんな髪型にします?』って聞くのって変ですよね。だってそれ、自分が作った髪型じゃないんですよ」。

ああ、たしかにその通りだ。

「だったら、お客様の仕上がりはこんな感じになりますと、さらさら絵が描けたほうがいいですよね」と。

面白い美容師さんだなあと思った。私も、東京・表参道だけで作るヘアカタログに疑問を感じて全国を飛び回っていたところなので、共感した。

ただ、なにより面白いなと思ったのが、その講師をしている美容師さんの絵が、それほど上手くなかったことだ。いや、私の100倍くらい上手かったけれど、人に教えるほど上手くはなかった。ただ、教え方はわかりやすかった。「自分ができない人だから、人がつまずくポイントがわかるのだろうな」と思った。

帰り際、講義を受けていた人たちに「毎日描いていたら、絶対にうまくなります。でも、毎日続けられる人って、本当にいないんですよね」と言っていた。 おっしゃるとおり。私も、1日、2日家で練習してみたけれど、その後は辞めてしまった。

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絵を描くのは辞めたけれど、その美容師さんのSNSはフォローするようになった。東日本大震災の前である。TwitterもFacebookも黎明期だった。Instagramが流行する頃には、人物画ではなく風景画がアップされるようになっていた。美容師を続けながら画家になりたいという投稿も見た。

10年たったとき「大阪の富田林で個展を開くことになりました」との投稿がアップされた。コロナまっただなか、飲食店が21時までしか営業できなかった頃だ。

富田林どこよ?と地図で探す。師走の忙しい時期だったけれど、日帰りできそうだと目算する。その個展会場は絵を描く人の間で知られた場所だということもわかった。

初個展。見に行かなきゃと思った。10年ぶり、2度目ましての再会だった。

個展が決まってから3ヶ月で、50点描いたと言っていた。12月は美容院の繁忙期である。「こういう時に、絶対にやりきるのが美容師ですよね」と言っていた。決してアクセスがいい場所ではなかったのだけれど、次から次へとお客様がきていた。

「毎日続けられる人って、本当にいないんですよね」と、10年前の言葉を思い出した。

10年。あのときお腹の中にいた子が、小学4年生になるくらいの年月だ。

会場で、1枚だけ飛び込んでくるように、呼ばれた絵があって、それを買わせてもらった。聞けば、この個展のために用意した絵の中で、最後に描かれたものだったという。額装しないまま、ずっと家に飾っている。この絵と一緒に生活していたら、続けることの大事さを、毎日思い出せる気がして。

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そんな彼が、今度は「書くこと」に挑戦したいと、昨年ライティングゼミに応募してきた。これまた最初は全然うまくなかった。句読点のうちかたや、てにをはからのスタートだった。でも、たった3ヶ月で面白い文章を放つ人になっていた。ゼミの最中は、毎日ブログを更新して復習をしていたようだった。やっぱり毎日やる人なんだなと思った。

その間にも、絵のほうはどんどん知られるようになり、昨年は『NHK全国音楽コンクール課題曲集』の装丁画を描いたり、権威あるアートの賞にノミネートされたりしていた。

ゼミを卒業したあと、私のほうから「CORECOLORで連載してくれませんか」とお願いした。それから1年強。何本も(多分9回?)習作を送ってくれ、そのつどいろんな話し合いをしてきた連載「チェアリング思考」が、今日からスタートします。

シマさんの絵とともに、お楽しみください。

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