
読めば読むほど、読めなくとも。——2026年5月62冊の中の3冊【連載・月60冊読むkyoの「積んどかない」読書/第6回】
週末、夫と一緒に生活用品の買い出しに出る時は、決まって図書館に立ち寄る。最低でも月2回、2箇所を梯子する。そして借りた本を返却し、また新しく借りる。貸出数の限界である10冊まで借りる。滞在時間は30分以内。新刊コーナーをチェックし、目をつけていた本をサクサクと借りて、終了する。
夫はほとんど本を読まない。私の趣味にはとても寛容だが、積み上がっていく本の物量に関しては、安全面的にも睡眠時間的にも、日々心配を募らせている。とはいえ、この生活を変えるつもりなど微塵もない私をよく理解してくれているので、黙々と本棚増設と安全対策を提案してくれる。身勝手な私には勿体無い、よき理解者だ。
そんな夫は、文句も言わず図書館に付き合ってくれるのだが、ある時「図書館にいる時間が短すぎない?」 「どうやって選んでるの?」と質問してきた。
私にとって図書館や書店はアミューズメントのようなものだ。その気になれば終日滞在しても足りないくらいだが、そこはやはり、家族と過ごす貴重な週末なので。きっちり目的を持って、あれやこれやと目移りしないうちに最短で退館するルートを選んでいる。もはや自制です。脇見をすると、帰還できない沼に足を取られてしまいますので。
少し脱線したが、図書館では「読みたい本」ではなく、事前に準備した「目的の本」を探すことに徹するから、短時間で終了するのだ。
夫は「もっとゆっくり見てもいいのに」と言う。けれど、途中で切り上げる方が私には難しい。だからこそ、図書館では目的を決めて、探索する。
本の選び方には、個性が出る。
私の場合は、昔から寄り道がとても多い。
だから図書館では、なるべく寄り道をしないようにしている。
一度立ち止まると危険だからだ。
一冊読み終える頃には、関連する本が読みたくなる。
その著者が影響を受けた本が気になる。
作中に出てくる舞台や、それに近い世界の様子を見たくなる。
気づけば当初の目的地は見えなくなり、まったく違う棚の前に立っている。
効率が悪いかもしれない。けれど、その寄り道のおかげで出会えた本が、たくさんある。
興味は、まっすぐ伸びるとは限らない。
枝分かれし、思いがけない方向へ広がっていく。
5月に残った3冊も、そんな寄り道の先で出会った本たちだ。



最初に挙げるのは、小野木彩香さんによる『小さな家、ひと部屋からできる枝もののある暮らし』である。
5月は植物に関する本をいくつか読んだ。きっかけは、とても単純だった。よく利用する駅の改札前に、素敵な花屋さんがオープンしたことだ。仕事や送迎で駅に行く度、紫陽花や芍薬、スモークツリーなど、季節の花々が彩りを添える。人ごみの喧騒を、美しい植物が癒してくれる。
学生時代は盆栽に手を出すほど植物が好きだったが、切り花を日常的に飾る習慣はなかった。かぶれやすい私の体質とも、猫中心の暮らしとも、相性が悪い。飾れる植物にはどうしても制限がある。
そんな中で目に留まったのが、「枝もの」だった。花ほど華やかではない。けれど、確かな存在感がある。一本だけでも様になる。季節によって表情が変わる。葉が開き、色づき、やがて役目を終える。
その変化を眺めているうちに、もっと知りたくなった。
本書は、枝ものを飾るための実用書である。
どの枝を選ぶのか。どんな器に合わせるのか。どこに置くのか。
そうした植物やインテリアの具体的な知識が詰まっている。
けれど読み終えて残ったのは、暮らしの中で季節を受け取る方法だと思う。
枝ものは、切花ほど華やかではない。
満開になるわけでもない。
派手な色彩があるわけでもない。
それでも、昨日とは少し違う。
葉の向きが変わる。蕾がふくらむ。新しい芽が現れる。
その小さな変化に気づくようになると、部屋の中にいながら季節の移ろいが見えてくる。
読書も少し似ている。一冊読んだからといって、すぐに何かが変わるわけではない。けれど、気づかないうちに興味の枝が伸びている。別の本へ繋がり、思いがけない世界へ枝分かれしていく。そんなことを考えながらページをめくる。
植物について学んだはずなのに、読み終えたあとには、興味関心の育ち方について考えている。不思議な時間だった。

2冊目は、イギリスの人気パズル作家デュオ、ガレス・ムーアさん、ローラ・ジェイン・エアーズさんによる『キャット・パズル NYARDLE(ニャードル)』である。
私はもともとRPGやパズルゲームが好きなので、本で楽しむアドベンチャーゲームブックや論理パズルも好きだ。ページを行ったり来たりしながら考える時間や、少しずつ条件を整理して紐解いていく感覚が楽しい。正解にたどり着くことももちろん嬉しいが、それ以上に、考えている途中の時間が好きなのだと思う。
本書は、猫をモチーフにした論理パズルブックである。
実務教育出版さんといえば『ミステリー・パズルMURDLE(マードル)』シリーズが人気だが、これはその猫版だ。「NYARDLE(ニャードル)」というタイトルからして、すでに尊い。好きなものと好きなものの掛け合わせ。手に取らない理由は見当たらない。
肝心の問題はというと、猫好きホイホイな「あるある」ネタが詰まっている。個性あふれる猫たちがやらかす、75もの事件を、手がかりをもとに解き明かしていく。
難易度はそれほど高くない。いわゆる超難問に頭を抱えるタイプではなく、条件を整理しながら少しずつ答えに近づいていく楽しさが味わえる。だからこそ気軽に手が伸びる。一問だけ解こうと思ったはずなのに、気づけば次のページを開いている。
最近は「論理的思考力」を鍛える問題集が人気だ。本書もまた、条件を整理し、事実を積み重ねながら答えを導いていく論理パズルである。けれど、そこにいるのは猫たちだ。
お気に入りの場所を巡る騒動。
自由気ままな行動。
どう考えても見覚えのある失敗。
推理をしているはずなのに、途中で笑ってしまう。論理的思考と猫愛を同時に満たしてくれるところが、本書最大の魅力だと思う。
枝ものの本で暮らしの中にある小さな変化を眺めたあとで、この本を開くと、興味の枝はずいぶん自由に伸びるのだなと思う。
植物から猫へ。
暮らしからパズルへ。
静かな観察から、少しだけ頭を使う遊びへ。
脈絡がないようでいて、私の中ではどこか繋がっている。「気になる」という感覚は、たいてい理屈より先に動いている。
猫とパズル。どちらも、謎が多ければ多いほど楽しい。気づけば口角が上がっている。そんな一冊だった。

3冊目は、竺覚暁さんによる『図説 世界を変えた書物 科学知の系譜』である。
実は、この本を手に取る寸前、私は経営工学の専門書を読んでいた。そして、50ページほど苦しんだ結果、挫折した。
内容の良し悪しではない。むしろ興味はあった。けれど今の私には前提条件が揃っていないのか、全く楽しめなかった。恥ずかしながら序盤で力尽きてしまったのだ。
毎月それなりの読書量を積み上げていても、当然ながら読めない本もある。
そんな時、「もう少し手前から楽しみたい」と思うことがある。本書を選んだのも、そんな流れだった。
タイトルから受ける印象どおり、本書には科学史に名を残す数々の名著が登場する。
コペルニクス、ガリレオ、ニュートン、ダーウィン。
誰もが知っている、お馴染みの超有名人。深掘りする本は数多存在するが、その知識がどのように生まれ、どのように受け継がれてきたのかを考える機会は意外と少ない。
本書が面白いのは、科学そのものではなく、科学を伝えてきた「本」に焦点を当てているところだ。ある発見が生まれ、本になる。たくさんの人が読み、批判され、受け継がれる。そして次の知識へ繋がっていく。
私が脱落した専門書も、もっと他の知識を身につけ、別の流れで手にすれば、すらすらと読める日が来るかもしれない。今はまだ、実をつけるには枝が細いのかもしれない。
私たちが当たり前のように知っている知識も、そうした長い積み重ねの上に存在している。ページをめくっていると、人類の知的好奇心そのものを眺めているような気分になる。
なぜ空を見上げたのか。
なぜ測ろうとしたのか。
なぜ説明しようとしたのか。
その問いは、現代の私たちにもどこか通じている。
そんな寄り道の価値を、あらためて教えてくれる一冊だった。

興味を持つ。調べる。考える。そしてまた別の本へ向かう。
そう考えると、5月に選んだ3冊も少し似ている。
枝ものを通して、暮らしの中にある季節を眺めた。
猫のパズルで、思考を遊ばせた。
そして最後は、人類が積み重ねてきた知の枝葉を辿った。
最初から行き先が決まっていたわけではない。
本を読み終えるたび、目的地が増えていく。
気づけば、思ってもみなかった場所に立っている。
効率がいい読書ではないのかもしれない。
けれど、まっすぐ進むだけでは出会えない本がある。
まだ細い枝もある。
いつか実をつける枝もある。
こちらの意図に反してあらぬ方向に伸びる枝も、きっとある。
読書の楽しさは、無数に広がる枝分かれの中にあると思う。
5月は、興味が思いがけない方向へ伸びていくことの面白さを、あらためて実感する読書だった。
文/kyo
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