検索
SHARE

人生で一番応援できた日【さとゆみの今日もコレカラ/第 74 回】

ずっと文章を書いて生きてきているけれど、2011 年の夏にプライベートで書いた文章ほど、誰かの人生を応援できたことはなかったと今でも思う。

その年の夏、ソフトテニスの中体連の全国大会があり、私の母校の選手たちは北海道から奈良の明日香に遠征していた。私の父はそのチームのコーチで、「今年は団体で全国優勝を狙っている」と言う。出産したばかりの私は、当日どうしても応援に行くことができず、東京で応援団から届く速報をメールで受け取ることになっていた。

ところが、団体戦の前日。

大将、副将、3将、4将の4チームが出場した個人戦は大将チームのベスト16 が最高で、残りの3チームはすべて1回戦負けだった。

その報を東京で聞いたとき「ん?  何があった?」と思った。私も何度か練習を見ていたけれど、全国で勝てる実力は十分あったはずだ。「飲まれた」のかな、とも思った。「飲まれる」とは大きな大会の雰囲気に圧倒され実力を発揮できないことだ。

いてもたってもいられず、後輩の選手たちに手紙を書き、宿泊先にファックスした。

当麻中学校ソフトテニス部の皆さんへ。今日の試合はいかがでしたか?

スコアしか聞いていませんが、きっと自分の普段の力を発揮できないまま終わってしまったという人もいたのではないでしょうか?

私も、中学2年生のときの全国大会は、わけもわからず終わってしまいました。試合に負けたあと、勝ち残ったチームの試合を見て、すごく悔しい思いをしたのを覚えています。

どのチームもそりゃあうまかったけれど、まったく歯がたたないって感じじゃなかった。負けたことよりも、自分が練習してきたことがこれっぽっちも出せずに終わったことのほうが何倍も悔しかったのを覚えています。だから、それから1年間、今度こそはそんなに簡単に負けないぞと思って練習をしてきました。

皆さんは、今日、試合が終わったあと、どう思いましたか?  悔しかったですか?  あのボールが入っていたら、あのポイントが取れたら……。そう思う場面がいくつかあったのではないでしょうか。

そして、もう少し試合が長引いて、もう少しだけ粘れて心が落ちついてきたら、ひょっとしたら勝てた試合だったかもしれない、そう思ったかもしれません。

でも、良かった。今日は皆さんの最終日ではありません。

皆さんが目標にしてきた団体戦は明日なのです。皆さんには、まだ1日チャンスが残っています。そして、それは、きっと皆さんが、この1年間ずっと目標にしてきた日です。

試合の前にはひとつ大きな深呼吸をしてみてください。一度目をつぶって、今まで練習したことを思い出してみてください。一生懸命頑張ってきたことを思い出してみてください。

それから、一度、ベンチのほうをみて、仲間の顔を見てください。そして、笑顔で、自分たちらしい試合をしてください。

テニスは、相手選手よりも、たった1本だけ多く、相手のコートにボールを返したほうが勝つスポーツです。

たった1本だけです。

ラリーが続いて苦しくなってきたら、そのことを思い出してください。このラリー、相手よりも1本だけ多くボールを返したほうがポイントできるのです。たった1本です。心が負けそうになったら、そのことを思い出してください。

私は今年 35 歳です。人生の中で一生忘れないと思える日は、35 年生きてきても、数えるほどしかありません。そんな素晴らしい日に、皆さんが、明日出会えますように。

応援にいけないのは残念ですが、東京から応援しています。

佐藤友美(旧姓・安藤友美)

次の日、チームのメンバーは強豪を次々と倒して決勝戦に進み、ファイナルゲーム・タイブレイクの大接戦の末、惜敗して準優勝となった。歴史に残る白熱した決勝戦だったと聞く。

取材に帯同した北海道新聞の記者は、「前日の1回戦負けから、どうやって心を立て直したのですか」と、コーチの父に聞いた。記者は「団体優勝を狙っていると言っていたけれど、これではとうてい無理だろう」と思っていたそうだ。

「会場にいた誰もがその新聞記者と同じだったと思う。選手も応援団もみんな、お通夜のように暗い顔をしてた」

と、後日父は私に言った。

「でも、その夜、宿に戻ったらゆみからのファックスが届いてて。ミーティングで、ゆみから届いた手紙を読んでいるうちに、少しずつ選手の目に輝きが戻ってくるのがわかってね。読み終わったときには、選手全員から試合に向かう闘志を感じた。だから、ミーティングのために用意していた話を全部カットして、ゆみの手紙を読んだだけでミーティングを終えたんだ」

父は私に「手紙ありがとう」と言い、そしてひとりごとのようにつぶやいた。

「文章の力って、すごいんだなあ」

✳︎✳︎✳︎

あの時、私も、父にありがとうと伝えておけばよかった。

書く、が誰かを応援できることを教えてくれてありがとう。よく考えたら、それが今の私を根っこのところで支えてくれている。

_______________________

【この記事をおすすめ】

2度目のエンドロールを眺めながら、私にできることは「書く」ことだ、書くことで誰かの力になりたいと思った。

writer