
ファッション誌は形容詞、ビジネス書は数詞、小説は名詞、脚本は動詞【さとゆみの今日もコレカラ/第 123 回】
ファッション誌のライターから書籍のライターに転向した時、一番のカルチャーショックは「原稿に、形容詞使わないで」と言われたことだった。
ファッション誌は、「この商品、素敵」「この人、素敵」を、あらゆる形容詞と形容動詞を駆使して表現する媒体だった。
可愛い、綺麗、美しい、品がある、大人っぽい、個性的、若々しい、健康的、スイート、キュート、クール、セクシー……etc etc
当時、ファッション誌のライター歴 15 年だった私。こういった形容詞は、脳みそではなく、脊髄ですらなく、指の第一関節から先だけでもすらすら書ける。多分、100、200 くらいまでは一度も止まることなく書き出すことができた。
でも、ビジネス書では「すごく頑張った」とか「大きな成果が出た」などの表現は、基本的に NG だと教わった。
「すごく頑張った」→「1年間、プライベートの誘いを全て断って頑張った」
「大きな成果が出た」→「国内 30 箇所で導入される成果となった」
のように、数値化、見える化して提示しないとダメだというのだ。
「エフォートレスなワイドパンツで、大人の余裕を感じさせて」などと書いてた私からすると、ビジネス書の世界はまるで外国。雑誌は形容詞のコンテンツ、ビジネス書は数詞のコンテンツと頭に叩きこんだ。
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小説はどうだろう。
ある小説家さんにデビュー作について聞いたとき、「とにかく難しかったのが、名詞がわからないことだった」と話してくれた。普段よく使っているアレ、文章にするなら、何と表現するんだろう。それをひとつひとつ調べていたので時間がかかったという。
作家の森博嗣さんは「小説の全ては名前に集約される。後世に残るのは名前だけだ」と書いている。森さんの小説には未来型 AI 人間、「ウォーカロン(walk-alone)」が出てくるけれど、この呼び名を考えるのに数年かかったとか。
かつて乙女ゲームの脚本を担当していた時に感じたのは、「脚本は、動詞を知らないと書けないコンテンツだ」ということ。
当時何に一番苦労したかというと、ゲームのキャラクターたちを動かすための動詞を、私があまりにも知らないこと。
例えば、お姫様抱っこ。あれって、普通の動詞で表現すると、何て書けばいいの?
例えば、恥ずかしくてほっぺた両手で挟むやつ。あれ、何て書けばいいの?
例えば、あすなろ抱き(平成生まれのみなさんご存知ですか)。あれ、何て
書けばいいの?
……etc etc
読むのと書くのでは全然違う。普段、どれだけ本を読んでいても、自分がいざ書くとなると意外と書けない。
そして逆に、自分が書くようになって初めて、読んでいる時にもそういった表現が目に留まる。
【この記事をおすすめ】
書籍を読んでいる間「私もそれ、考えたことがある」と脳内で何度も呟いた。と同時に「そこまで考えたことはなかった」も同じくらい呟いた。


