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別の人生の黒目の位置【さとゆみの今日もコレカラ/第 175 回】

先日、ライター仲間とご飯を食べている時、中の一人がコーチェラから帰ってきたばかりだったので、その話題になった。フェス好きの人が「気温はどれくらいなの?」と質問したので、私も「どんな服装だった?」と聞いた。その人は長袖でもちょっと寒いくらいだったけれど、向こうの人たちは半袖もノースリーブもいたと答える。

そんな何気ない会話だったのだけど、次の日、グループにメッセが入った。

僕が Coachella の気温を聞いた時に、すかさずさとゆみさんが「どんな服装でいたの?」と聞いて、あー、これがその時の場面や情景、シチュエーションを聞くってやつか、気温聞くより服装聞いた方が一発で想像しやすいもん

な、と生で勉強させてもらいました。

たしかに私はいつも、話を聞きながらその人がいた場所にトリップしようとする。その時のその場の様子を聞き出し映像を思い浮かべる。インタビューでは意識的にやっていることだけれど、プライベートでも無意識にやっているのだなあと気づく。

以前、息子がお腹の中での記憶を語り出したことがある。3歳の時だった。夜ご飯を一緒に食べたオープンカフェに、犬を連れたお客さんがいたのがきっかけだと思う。

家に帰って布団に入ったとき、それは突然始まった。

「りゅうのすけは(以前飼っていた犬の名前)可愛かったよねえ。優しいワンワンだったよねえ」と、息子が言う。

「龍之介のこと、覚えてるの?  何色だったか覚えてる?」

「うん、黒かったよ。りゅうのすけは優しいワンワンだったよ」

そこまで聞いた私は、これはチャンスかもと思って、質問を重ねてみた。

「ねえ、ママのお腹の中にいたことは覚えてる?」

「覚えてるよう」

「ママのお腹の中は何色だった?」

「白かった」

「お腹のなかで、どんな感じだった?」

「パパとママがお話ししてたよ」

「へええ。パパの声、聴こえたの?」

「うん。ママの声も聴こえたよ。パパとお話してたよ」

「お腹の中は寒いの?暖かいの?」

「お腹の中は暖かいんだよ。ちゃぽちゃぽするんだよ。ぼく、泳げるよ」

「お腹からでてきたときのことは覚えてる?」

「うん。覚えてるよ。涼しかったんだよ。ぼく、カンガルーさんみたいに、ぴょーんって出てきたよ」

「最初に誰に会った?」

「パパに会ったよ」

「ママより先にパパに会ったの?」

「うん、パパに会ったの。あと、可愛いスカートをはいたお姉さんがいたよ。それから、ママに会ったよ」

「お姉さん、スカートはいてたんだ。何色だったか覚えてる?」

「うん、ピンクのスカートだよ。お姉さんたちは、ベッドをカッコよく準備してくれたんだよ」

「へええ、そうなんだ」

「あと、ママ、お友達いっぱいいたよね。ママのお友達、みんなおっぱいあげてたよ」

龍之介は黒いワイヤーダックスだったし、出産した病院の看護婦さんは、ピンクの白衣を着てたし、生まれて最初に対面したのは私じゃなくて夫だった。病棟には授乳室があって、同じ時期に出産した母親たちは横一列に並んで授乳をさせていた。

後日その話をライターの友人にしたら、「それ、龍之介の色を聞いたところがポイントだったね」と言われた。色を思い出すことで、記憶が喚起されたんじゃないかな、と。そうか、このときも無意識だったなと思った。

その人の目の玉に自分の目の玉を合わせて、その人が見た景色を見たい。背伸びしたり、膝を折ってしゃがんだりして、黒目の位置を合わせる。自分じゃない人の人生を、ちょっとだけ生きる。そうやって一度しかない人生の寿命を増やしている。

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