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よそもの、わかもの、ばかもの【さとゆみの今日もコレカラ/第 249 回】

3歳くらいの女の子がお尻を左右にふって踊っている。隣の男の子は、太鼓の音に合わせてぴょんぴょんとジャンプしている。私の横にいたおじいちゃんは、すーっと目を細め、太鼓を叩く人たちの後ろの海を眺めていた。漁火(いさりび)をともした漁船が数隻見える。

しばらく披露されていなかったという漁火太鼓の復活に、誰かが「ああっ」という低い感嘆の声をあげていた。「なつかしいねえ」というしわがれた声は、もうずいぶん暗いのでその顔は見えないけれど、地元に住む年配の方だろうか。

長崎県五島市、ここは魚津ヶ崎公園。次の日からここで始まる「五島 ひと夏の大学」の前夜祭が行われていた。

『ライフシフト』のリンダ・グラットン氏、『倫理的資本主義』のマルクス・ガブリエル氏、日本のテレビでもおなじみのミチオ・カク氏、そして私も非常に興味のある分野、『言葉の力』を上梓した心理言語学者のビオリカ・マリアン氏。ちょっと脳がバグるスケールのメンバーが、この「五島 ひと夏の大学」に登壇する。

ホームページにはこのイベントの主旨がこう書かれている。

「100 年後」を他人事ではなく当事者として捉え直す。

自分が生きてはいない未来のことを、他人事としてではなく、当事者として学び、考え、語り、そして未来のために行動する。

それが「五島、ひと夏の大学」が定義する「Good Ancestors(よき先祖)」です。

前夜祭のステージでは、次々と五島の伝統芸能が披露された。神楽、書道、ちゃんここ……。並ぶ出店も、地元の人たちの手作り感にあふれている。そ  うか、もともとあった地元のお祭りの日に前夜祭をぶつけたのだなと思っていたら、そうではなかった。実行委員の鈴木円香(まどか)さんが地元のメンバーに「せっかく多くの人が来島するから、五島の伝統芸能をみてもらいたい」と話し、地元の人たちを口説いてまわってもらったのだと聞いた。え、それでこんなにも人が集まるものなの? と驚く。

用意された出店の食事はどんどんと売り切れ、後半には「完売です」の札ばかりが並んだ。みな、こんなにも多くの人が集うとは想像していなかったのだろう。あちこちで「久しぶり」「元気にしてた?」「ママもきてるよ」「じいじはあっちにいる!」などの声が聞こえる。一方で、「どこからきたの?」「福岡です」「東京です」「わたしは今日、京都の IVS から」といった名刺交換も行われている。

長崎県の離島、五島市は日本の過疎地でも数少ない、市内への転入者が市内からの転出者を上回る「社会増」を実現している市である。そして私は 3年連続でこの五島市を訪れている。なぜか。円香さんが誘うからだ。

円香さんは、五島市の人ではない。初めて五島を訪れたときに、こんなに美しい島をみんなが知らないなんてもったいないと、五島に関わることを決めた。五島でイベントを開き、五島の廃校を改装して宿泊施設を作り、「過疎化する五島こそ、『未来』だと思うんだよね」とワークショップを開き、今年は前述した世界のスーパースターたちの講義を五島で実現しようとしている。

町を変える人、そして歴史を変える人は「よそもの、わかもの、ばかもの」だとよく言われる。円香さんは「よそもの」で、今も五島には住んでいないけれど、円香さんを通じて私たちは五島とつながっている。

円香さんに誘われて五島を訪れた仲間たちは、次はもう、自力で五島に遊びにくる。東京にいても五島を感じている。浜松町の五島料理の店に通い、高島屋で五島のサンゴのピアスを買い、五島うどんを見つけたらそれも買う。今回家を出るとき、息子には「かんころ餅をありったけ買ってきてほしい」とオーダーされた。もう我が家も立派な五島の「関係人口」である。

そして、五島の人たちも、円香さんを通じて五島以外の人たちとつながっている。たまたま同じテーブルに座った女性2人は地元に住む姉妹で、「円香さんに誘われてきたの」と言っていた。

なんでも、円香さんが初めて五島を訪れたときに出会っているそうで、それ以来の付き合いだという。私と一緒に五島にきたライターのまいちゃん(彼女も2度目の来島だ)が、車を運転できないと話したら「最終日は私が車を出して島を案内してあげる」と言ってくださる。そんなことってある?  円香さんの知り合いだもんね、というだけで私たちを歓迎してくれる。

そろそろ宴もたけなわというときに、「さとゆみさん、ようこそ」という声が聞こえた。後ろを振り返ると、五島市役所の庄司さんだった。「ライフ・シフトする前に、フライト・シフトしちゃいましたねえ」などと冗談を言ってくる。ここにくるためのフライトがキャンセルになって右往左往していたのを SNS で知っているので、それを受けてのギャグだろう。

庄司さんは、2年前に五島を訪れたときに初めて出会った。市役所近くの美味しいお寿司やを「必ず 11 時半までに行ってください。12 時なったら混みます」と、教えてくれた。というか、そのときしか多分会っていない。でも、島を離れてからも SNS で近況を知っているから、最近どう?  みたいな感じになる。

それもこれも全部、小さくて華奢で、飄々とした、全然大きな声を出さない、だけど目標必達の精神は誰よりも強い一人の女性のせいだ。この人がいたから、この場所にこんなにも多くの人たちが集まってきているのだ。

「じゃ、また明日!」と颯爽と去っていく彼女の白い腕を見ながら、こんな細い腕で、町をごそっと動かしちゃうんだもんなあと思っていた。たった一人の静かな熱狂が、こうやって歴史を変えていく。じゃあ、わたしは何ができる? 100 年以上先の未来に?  今日はそのヒントを探しにいく。

CORECOLOR で企画して度肝を抜かれた円香さんのインタビューも、ぜひご覧ください

【この記事をおすすめ】

――五島でのプロジェクトは何が面白い?

鈴木 東京のビジネスの世界ではできない挑戦ができること。

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