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町の本屋という物語【さとゆみの今日もコレカラ/第 139 回】

鳥取市の街中に定有堂という書店がある。いや、あった。40 年営業し、昨年4月に閉店した。全国から本好きが集まる店だったという。

私が定有堂さんを知ったのは、三砂慶明さんの『千年の読書』を読んだからだ。その本屋の棚は、作家別でも出版社別でもなく、本のテーマによって分けられているのだという。だから、思いがけない本との出会いがあると書かれていた。

定有堂かあ。一度行ってみたいな。そう思うようになってから、立て続けにその名前を見かけるようになった。自分がフォローする著者さん、ライターさん、書店員さんのタイムラインにも、よく名前が出てくることに気づいた。みな「定有堂に行くと、つい大量に本を買ってしまう」と書いている。鳥取だよ? みんなわざわざ、行くのね、となる。

2022 年の秋、定有堂詣が叶った。広い店内ではない。ゆったりした作りでもない。光も差し込まない。

しかし、深く息を吸い込むと、森の中にいるみたいだと思った。本屋特有の紙の匂いがする。その匂いが、森林の匂いのようだと思った。たぷんとしていて、みずみずしい。肺に取り込まれた空気が、指先にまで満ちるのを感じる。指先が元気になる。ここにいる本は全部、生きている、と思った。

一昨日の毎日新聞の書評で、角田光代さんが「定有堂の本は、一斉に私を呼ぶ」と書いてらしたが、私もこの場所で、隣り合う本たちが楽しそうにおしゃべりをしているのを聞いた。

みながここを、「聖地」という理由がわかった気がした。

この場所に、自分の本を並べてもらえるような作家になりたいなあと、思った。このサイズ感の本屋で、自分の本を見かけることは、まず、ない。いつか、定有堂さんの棚に置かれるような本を書くぞ、と思ったそのとき、「思考は音韻的にコード化される」「伝える・伝わる」と書かれた棚に、『書く仕事がしたい』を見つけた。

近藤康太郎さんの『三行で撃つ』の横に並び、たどると平田オリザさんの『わかりあえないことから』や、『三島由紀夫レター』と同じ棚に置かれている!

勝 手 に撮ってすみません。私の宝物の写真。

この時の気持ちをなんて表現すればいいだろう。本の神様に、「書き続けていいんだよ」と、言われた気持ちになった。

もっと精進しなさい。さすれば定有堂の棚に君の本あらん。

御託宣を受けたような気持ちになった。じわじわと何かが身体の中に満ちてくる。涙になってぽろっとこぼれた。

記念に買って帰ろうかと思ったけれど、この本屋を訪れる誰かに見初めてもらえたらと祈って、棚に戻した。

かわりに、『三島由紀夫レター』をはじめ、8冊ほど本を買って、店を後にした。

定有堂さんが閉店すると聞いたのは、それからほどなくしたころだった。これから折りに触れて通いたいと思っていた時だったので、ショックを受ける。店主の奈良さんの講演会があると聞いたのは、閉店後のことだ。居ても立っても居られず、鳥取に向かった。

奈良さんは、本屋は焚き火であるという。火を起こす。暖を取りたい人たちが集まってくる。でも、それだけではいつか火は消えてしまう。そこで本を求めた人たちが、木をくべていくから、焚き火は燃え続ける。本屋は焚き火である。

だとしたら私は、あの日、定有堂の焚き火に魅せられて店に辿り着き、そして本を買い、木をくべて東京に戻った一人の読者であり著者だ。もっと読むぞ、また書くぞと思って、帰った。あの日あたたまった気持ちは、まだずっと消えていなくて、私は私の場所で小さく焚き火を始めようとしている。焚き火の飛び火。

講演後、奈良さんにご挨拶をさせてもらった。あの店に自分の本があったこと、とても嬉しかったんですと、お伝えした。奈良さんに一目お会いしたくて行ったので、鳥取滞在は4時間だった。でもやはり、行ってよかった。

後日、人伝てで、あの本、閉店前に売れましたよ、と聞いた。

昨日、その定有堂の歴史をまとめた書籍『町の本屋という物語』の刊行トークイベントに行ってきた。著者は奈良さん、編者はくだんの三砂さんだ。

場所は新宿紀伊國屋書店さん。日本の顔とも言える都心の大型書店で、鳥取の小さな本屋の話が語られる。不思議な気持ちになる。席は満席。スペースの後ろでも、立ち見する人たちで会場はパンパンだった。

奈良さんはお見えにならないと聞いていたのだけれど、途中サプライズでZOOM が繋がれた。奈良さんと三砂さんの、宝物のような会話を聞く。

定有堂と奈良さんに魅せられて、何度も店に通い何度もその話を書籍にまとめてきた三砂さん。その三砂さんに対して、「定有堂を継ぐ気はなかったのですか?」と質問されるシーンがあった。三砂さんの答えにも心打たれたが、奈良さんのメッセージも、すごかった。

「三砂さんは本屋を『継ぐ』人ではないです。三砂さんは、仕事をする人ではない。仕事を作る人です」

そのメッセージを聞いていた三砂さんの顔をじっと見ていた。たぶん涙をこらえていたと思う。尊敬する人に、こんな言葉をかけられたら、どんな気持ちだろう。会場の一番後ろで立見していた私たちにも、その感動の波動のようなものが伝わってきた。

三砂さんは、春から「本を書き、本を作り、本を売る」という講座をスタートさせる。私は、その講座のプレトークイベントで今月 27 日の夜、大阪梅田の未来大学さんで「本を出すこと」について、三砂さんと話をさせていただくことになっている。さて、奈良さん、三砂さんの話を聞く幸せに恵まれた私は、「本」ついて何を話そうと考えている。

仕事をつくる人、という言葉を反芻しながら会場を後にする。

私は奈良さんの店作りを一度しか見られなかった。でも、こうやってその歴史が本になったことで、その場所を何度も目に浮かべることができる。そしてその熱は、次の世代に伝播していく。これもまた、本を出すことの効用だ。

こんな時代に本を書き、本を出し、本を売ることはどういう行為なのか。焚き火にくべる薪を思い起こす。

27 日まで、『町の本屋という物語』をもう一度読みながら、ゆっくり考えたいと思う。

イベントはこちらになります。よかったらぜひ、遊びにきてくださいませ。みなさんと一緒に本を出すことについて考えたいです)

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