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私の普通は本当に普通か【さとゆみの今日もコレカラ/第395回】

テレビ番組のADをしていた時代にめちゃくちゃ怖いディレクターがいた。男のADだとすぐに手が出ちゃうので、よく私が組まされた。

その先輩と、北海道の廃校になる小学校でロケをすることになったときのこと。北海道出身の私に、「子どもの頃、おにぎりの具は何だった?」と先輩が聞いた。

「おにぎり……ですか? そんなの、普通ですよ」

と、私は答える。

「普通って?」

「鮭かイクラです。夏なら筋子」

そう答えた瞬間に、デスクをバンっと叩かれ、「お前の普通が世間の普通じゃないんだよ!」と、フロア中の人が振り返るくらいのデカい声で怒鳴られた。

知床半島出身の私は、離乳食の白身魚といえば、鮭か金目鯛だった。冷蔵庫にはいつもイクラを漬けたビンがあった。親は公務員で、決して裕福ではなかった。が、スーパーでは新鮮な魚が安かったし、漁師の方からのお裾分けもあったように思う。だから、それが漁師町で生まれた私の「普通」だった。

渾身の大声で怒鳴られたこともあって、私はこの経験を忘れまいと誓った。

「自分の普通は世間の普通じゃない問題」に「鮭とイクラのおにぎり問題」という名前をつけ、心に刻んだ。

✳︎

昨日、エッセイ投稿サイト「かがみよかがみ」の編集長・伊藤あかりさんと「面白いエッセイを書くためには」という30分のスペーストークをさせてもらった。

私は「エッセイにつけるべきタイトル3パターン(つまり、エッセイになりうる3パターン)」がすごく勉強になったのだけど、この日シェアラウンジで会ったライター仲間のしのぶさんは、別の部分が面白かったという。

伊藤さんは、「面白いエッセイを書くためには、普通のことを言っているだけではダメで、普通や常識をひっくり返す必要がある」と話してくれた。でも、そのためには、「自分の普通が、本当に普通かを疑うことが大事」になる。その部分が刺さったという。

しのぶさんは、今年お亡くなりになった、アーティストの田名網敬一さんのインタビューをCORECOLORで書いてくれた。田名網先生は、しのぶさんの大学時代の恩師でもある。

この記事は今もとてもよく読まれている。そしてしのぶさんの元にも、かつての同級生や先輩から、「あの記事読んだよ」という連絡が時々くるそうだ。

ところが、しのぶさんの友人たちがこの記事にどうやって出会ったかという話が面白かった。SNS経由で読んでくれた人はいなくて、ほぼ全員が「検索」で記事にたどり着いているのだという。

いま、「田名網敬一 インタビュー」で検索すると、CORECOLORの記事が最初にヒットしてくる。その検索結果を見て、しのぶさんが書いた原稿だとは知らずにクリックし、読んだという人が多いのだという。

「その人たちに聞くと、誰一人、X(Twitter)をやっていないんです」と、しのぶさんが言う。こういうリアルは、日々、X(Twitter)の住人をやっていると気づかない。

しのぶさんは「全然違う国に住んでいるみたいですよねえ」と言い、私は「人の数だけ地球があるみたいだよねえ」と答えた。

SNSが世の中に生まれたとき、「自分のタイムラインは世界で1つしかない。その人だけにカスタマイズされたタイムラインだ」ということに興奮した。でも、いまやそのタイムラインは、バイアスのかかりまくった「私だけの」世界である。

そのあと、「私の普通は普通ではない」に気づくには、どうすればいいのだろうと、ひとしきり話した。バイアスやエコーチェンバーから逃れるには?

伊藤あかりさんが教えてくれた方法のひとつは「書店で新書棚を片端から眺める」だった。だけど、それだけでは足りないだろう。

アメリカや兵庫県の選挙結果を見ても、世界の分断はますます深まっているように思える。全く違う2つの世界が同時に存在しているようだ。

2024年年末。鮭とイクラのおにぎり問題は、最もクリティカルな問題のひとつになっている。

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この状況が想像の範囲になかった自分の感覚を恥じた。平和ボケしているぞ、自分。

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