
本さえあれば。あなたさえいれば。【さとゆみの今日もコレカラ/第456回】
本をこよなく愛する先輩と、壁一面ずらり本が並ぶレストランで。やはり本についての話などしながら、美味しいお料理とワインをいただいていた。
店に置かれた書籍は古いものが多い。古本屋のような佇まいのお店では、客の声も紙に吸収されていくのかもしれない。ここで話すと、自分の声も相手の声も優しく響く気がする。
還暦を過ぎたその先輩は、それまで数多くの文学作品を世の中に送り出してきた編集者でもある。
昨年は、本を読むための時間を意識的に作ったという。一年で100冊以上の本を読んだ。そしていまは、百人一首を覚えようとしているんだけど、昔のようになかなかスラスラとは覚えられないねえとおっしゃる。
一年で100冊読むとして、私たちはいま、このレストランにある本すら、読みきれずに死ぬのだなあと思う。
読みたい本を読むだけでも、人生は全然足りないのだ。
そして、人生は、読みたい本を読むだけで終わっても良いのだ。
最近そんなことをだいぶ真剣に考えている。
読みたい本を読めるだけの収入があり、読みたい本を読めるだけの健康があり、時折本について語れる友人がいたら。
それ以上、あまり望むことはないなあと、最近本気で思っている。
本さえあれば。あなたさえいれば。
そろそろお開きにしようかと話をしていた時、カウンター席のほうから、ある書籍のタイトルが聞こえてきた。それは、先輩が担当した書籍だった。子どもがその本を大好きでと話す店主としばし、先輩はその本が生まれた時代の話をしている。
本が読めて、健康で、本について語れる友人がいて、そして自分が関わった本が世の中に残り、誰かがそれを読み、語るのを聞く。
こんなに素敵なこと、ある? と思った夜でした。
東京23区の片隅で。
アニー・ディラードのような一日。
かっこう。
ーーー
【「今日もコレカラ」が1冊になりました】
毎朝7時に更新して24時間で消える「今日もコレカラ」の1年分がZINEになりました。ご希望の方はこちらからご注文可能です。もうすぐ重版分が刷り上がる予定なので、刷り上がり次第お送りさせていただきますね。
【この記事もおすすめ】
私も本のある場所を守り続けたい。


