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その笑顔の遺影【さとゆみの今日もコレカラ/第541回】

先日、還暦を超えた先輩とご飯をご一緒した。昨年、大病をされたことはSNSで知っていたのだけれど、聞けば病院に行くのがあと一日遅れていたら命がなかったそうだ。

退院したあと、いろんなものを手放したのよ、と先輩は言う。

世にも名誉なさまざまな役職についていた先輩だけれど、家業だけを残して、それらのほとんどを辞したという。

それでどうですか? と聞くと、もう本当に楽になった、と言う。

「最近、どんなことをしているんですか?」と尋ねると、「いろんな場所に旅行に行ってる」とおっしゃる。

そして、「ちょっと話が違うんだけど聞いてくれる?」と、お亡くなりになったお父様の話をしてくれた。

お葬式で選んだお父様の遺影は、会う人会う人から「これ、いつの写真?」と聞かれるほど、素敵な笑顔の写真だったそうだ。

そして、その写真は先輩のご両親とお子さん、三世代6人で行った香港旅行のときの写真だったらしい。

なかなか家族揃って旅行できる機会なんてないと思った先輩は、一念発起してペニンシュラホテルのお部屋をとり、空港にロールスロイスのリムジンの送迎をお願いした。

6人だから2台でよいかと思ったけれど、ホテル側から安全を配慮して1台に2人ずつにして欲しいと言われ、引くに引けず、わかりました3台でと答えたという。

飛行機を降りた瞬間、タラップにビシッと制服を着たペニンシュラの職員が迎えに来て荷物を持ってくれた。そして、イミグレを抜けたらまた、別の職員が出迎えてくれる。目線の先には、3台のロールスロイスが並んでいる。

お父様の最高の笑顔の写真は、その時撮られたものだったと教えてくれた。

ああ、素敵な話ですねと私が言うと、「確かにお金はかかったけれど、そんなお金のことはすぐに忘れちゃうのよね。そしてそのときの話は、あとから何度も何度もできるのよ」と、先輩はにっこりとした。

経験にお金を使うのって、そういう複利がありますよねえなんて話をした。『DIE WITH ZERO』の「記憶の配当」という言葉を思い出す。

私もこれからの人生、いい時間といい経験に、お金を使いたいなあ。

頑張って稼いで、稼いだぶんちょっきり使いつくしてさよならできたら、いいなあ。

なんてことを思ったよ。

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人生の最後に残るのは思い出だ。金を払って得られるのはその経験だけではない。その経験が残りの人生でもたらす喜び、つまり記憶の配当も含まれているのだ。

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