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「幸せの配当」を生む時間とお金の使い方をすると、人生はより豊かになる。『DIE WITH ZERO』

2023年1月。私は3年ぶりに国外に飛び出した。行き先は、マルタ共和国。イタリアの下にある小さな島国だ。

私は、海外に行くときに本を1冊か2冊持っていくと決めている。積読の本ではなく、旅先を思い浮かべピンとくるものを持っていく。私の人生の師匠が「旅先では、その旅のテーマ曲と合わせたセットリストを作り何度も旅の間に聴く。すると何年経っても、その音楽を聴くとその旅を思い出すよ」と言っていたのがきっかけで習慣化した。

今回は、尊敬する女性経営者からいただいた本『DIE WITH ZERO』を持参した。最近、円安や値上がりもあり投資をはじめ“どう稼ぐか。どうやってお金を増やすか”の情報を目にすることが増えた。この『DIE WITH ZERO』は、逆だ。お金の得方ではなく、使い方に振り切って書かれている。

あなたの年収が350万だとする。もし500万円残して死ぬのなら、あなたは500万円分の経験を逃してしまったことになる。言ってみれば1年半タダ働きしたのと同じだ。生きているうちに金を使い切ること、つまり「ゼロで死ぬ」を目指してほしい。

え? 1年半タダ働きしたのと同じ……? 

電撃が走った。20代から、いっぱい稼ぎたい! と頑張ってきたけど、この本もしかして人生変える出会いかも、と感じた瞬間だった。

筆者は言う。

人生の最後に残るのは思い出だ。金を払って得られるのはその経験だけではない。その経験が残りの人生でもたらす喜び、つまり記憶の配当も含まれているのだ。

記憶の配当……新しい概念だ!

昨年は、子連れで日本全国いろんな場所を訪れた。特に印象的だったのは、ライターの師に誘われ長崎県・五島列島でのワーケーションに参加したことだ。五島があまりにも魅力に溢れた島で、美味しくて、楽しくて、どれだけ口コミしたかわからない。新しい出会いもたくさんもあったし、ワーケーションに参加したことが仕事にも繋がった。一つの経験からこんなに副産物が得られるとは、旅に行く前には全く想像していなかった。半年以上経った今も、「五島でね……」と話している自分がいる。伝える度に、幸せな時間を思い出す。この経験に投資したことで複利的に得られる記憶の配当は、私がこの旅の記憶を失うまで続くのだ。

この「記憶の配当」。なんと、お金をかけずに得ることもできる。元々、私は両親とマメに連絡を取るタイプではない。出産後も、遠方の両親が息子の成長を感じられたら喜ぶだろうな、と思いつつ、たまに写真を送る程度だった。でも、本を読んだ今、日課のようにせっせとテレビ電話をかけている。この電話が“いつか共に得られる記憶の配当”に繋がるって面白い! と考えが変化したのだ。画面越しにケラケラと笑い合う両親と息子を眺めると自然と笑みが溢れる。記憶の配当は、もっというと「幸せの配当」かもしれない。

時間をつくるために金を払う人は、収入に関係なく、人生の満足度を高めることがわかっているのだ。言い換えれば、金で時間を買うメリットを享受するのに、金持ちである必要はない。

この一文を読んだとき、思い出した出来事がある。

私が20代後半の頃、70代の女性経営者のお宅に伺ったとき彼女に言われた一言だ。

「あなたにしかできないことに時間を使いなさい」

大きな窓の外には国立公園の豊かな木々が広がり、リビングに置かれたグランドピアノで、ピアニストが生演奏を披露してくれた。彼女は「食べることは、自分の身体を作ることだから料理は私の仕事。でも、片付けはやらないのよ」と言っていた。そのときの私は、「へー。外注できたらいいけど、それはあなたにお金があるからできるんですよ~」となんとも浅はかな考え方をして終わっていたのだ。

このときの私の頭をぺシンッ! と叩いてやりたい。彼女が言いたかったのは、そんなことではない。自慢でもなんでもなく、「今のあなたにしかできないことは、なんなのか?」と自分と向き合って考えなさい、そしてアウトソーシングするという発想を持ちなさい、と言いたかったはずだ。

2023年は「自分しかできないことに、いかに時間を使うか」を実践してみることに決めた。パッと思いついた「インタビューのテープ起こし」と「家の掃除」をプロにお願いした。まだ数回だが、自分が感じてなかったストレスが減っていくのを感じている。

同時に、いかに自分が「損か得か」の世界の住人だったのかを知り、残念で寂しい気持ちにもなった。つまり、(気はすすまないけど)私がやればお金がかからないモノ・コトにお金を払うことを「損だ」と定義していることに気づいた。

ただやってみてわかったこともある。例えば、家事代行も当日まで「これ、自分が掃除したらタダじゃん! もっと収入を得てから使うサービスじゃない?」という気持ちが消えなかった。でも、支払ったあとに「勿体なかったな」とは思わなかったのだ。むしろ、プロがやるから私よりも短時間で美しく、特に水回りは新品みたいにピカピカになって感動した。これからも頼めるように働こうと誓った。

これが自分の時間を作り出し“人生の満足度”を高めることなのか!

お金がなくても時間を買って得られる豊かさは、スポットで経験できるものもある。そんなふうに自分の幸せを感じられることにお金を使うから、後に収入もついてくるのかもしれない。

『DIE WITH ZERO』には、「少しでもこれからのともちんに役立つことがあればうれしく思います」と美しい字で書かれたメッセージカードが添えられていた。

きっと、この本の話をする度にマルタの真っ青な空と海、そして先輩経営者を思い出すだろう。ということは、本をプレゼントすることでも「記憶の配当」が生まれるのか!

大事な友人の誕生日は、その人にピッタリな本を贈ってみよう。

文/本間 友子

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