
ここにしかない味を喰う【今日もコレカラ/第951回】
6月15日。
ESSEさんのヘア撮影、からの、書評を納品して、インタビュー取材を2時間、そして夜はアドバンス講座。
怒涛の1日であったことよ。
ESSEさんのヘア撮影は、2ヶ月に1回、4本どりしている。もう、200回を超える連載になったので、わたしの連載の中でも3番目に長い連載となった。
移動して講談社さんに。昨年、もっとも考えさせられた書籍の著者さんに、CORECOLORメンバーがインタビューを申し込んでくれたので、そこに同席。CORECOLORをやっていると、思ってもいない人への扉が開くのが幸せ。
帰り道に、ふと思い立って、護国寺から茗荷谷の駅まで歩いてみた。
というのも、駅前にある「札幌軒」がまだあるか知りたかったからだ。
「札幌軒」は私が大学生のときに、一番多く通った食堂だった
狭い店内は、床もテーブルも油っぽくてよくすべった。いつもだいたい満席で、近所のサラリーマンや拓殖大学の運動部の人たちの御用達だった。
有名だったのは、肉丼。70回くらい通ったけれど、65回くらいは肉丼を食べた。
当時付き合っていたボクサーが、減量が終わった時にも一緒にきた。ここの肉丼を食べることだけを支えに減量をするのだと言っていた。その時は、肉丼とチャーハンをWで食べて、うわ、チャーハンも美味しいんだって感動したけれど、やっぱりその後も肉丼にしてしまう。男くさい店だったけれど、私のように果敢に通う女子大生も結構いた。
12年ほど前、母校で講義をさせてもらうことになり久しぶりに茗荷谷の駅に降り立ったら、駅はぴっかぴかに綺麗になっていた。周囲も再開発され、小洒落たカフェやチェーン店がテナントに入っている。
ああ、「札幌軒」はなくなっちゃったんだ、と思ったら、なんだか青春が消えたみたいで悲しくなったのだけれど、なんと店はリニューアルして駅に隣接するビルに入っていた。
うわーーーーー!!! まだ、ある! まだあるぞ!!!
それに気づいたら、なんだかめっちゃ勇気がわいてきた。その時は予定がつまっていたから存在を視認するだけにとどまったけれど、いつかまた食べにこようと思っていたのだ。
なにもこんなに予定が詰まっている日に、とも思ったのだけれど、こんな日だからこそ、スタミナだ!!! 講談社から坂道をのぼって20分。
まだありますように。まだありますように。まだありますように。祈りながら歩く。
はたして、その店は、まだありました。
16時くらいの半端な時間だったので、店に客は3人だけだった。もちろん、注文するのは肉丼。
目の前に出てきたとき、ああ、これだよ、これ、となった。
厚みのあるジューシーな肉が、これでもかというくらいに重なっている。食べても食べてもなくならない。
ああああ、幸せの味だーーーー。

感動で手ブレした
帰り際、店の入り口にちょこんと座ったおばあちゃんが「ありがとうね」と声をかけてくれた。
その声を聞いて、あ、これはきっと、私が通い詰めた頃のおかみさんだと思った。
「25年ぶりに食べましたーー!」
と言うと、おばあちゃんは
「ああ、あの頃は汚い店だったよねえ」
と笑う。
「またきます」
と頭を下げた。
帰り際、入り口を振り返ったら
「どこにでもある味よりもここにしかない肉丼を喰う」
とあった。
ここにしかない味。
またくるよね。



