イラストの修正にへこたれない、モチベーションの保ちかた【絵で食べていきたい/第24回】
イラストレーターにとって「修正」は避けて通れない作業ですが、つらいと感じる人は多いと思います。修正でモチベーションを下げずによりよい制作ができる方法はあるのでしょうか。
修正と聞いてへこむ前に
「どんなイラストレーターと仕事をしたいか」と質問したとき、「修正を嫌がらない人」と答えた編集者さんがいました。イラストレーターは修正を嫌がると感じているからでしょう。そういう私も「修正」と聞いただけでちょっとガッカリします。とはいえ、どんなに事前に打ち合わせをしても、さまざまな理由から修正は発生します。そのたびにやる気をなくしては効率が悪くなります。
今回は、修正が入った際の気持ちの切り替えかたを考えたいのですが、その前に、どういうタイプの修正があるのかを整理しておきます。
①自分のミスによる「修正」の場合
まず、こちらのミスによる修正があります。たとえば着物の合わせや描き文字(手書きで描かれる装飾文字)の間違いなど。このような場合は、ミスを見つけてもらったことに感謝してすぐに直すだけです。
②「修正」ではなく「描き直し」の場合
こちらのクオリティや進行に問題がなかった場合に起きる「描き直し」を「修正」といわれることもあります。しかしこれは、「修正」ではありません。
たとえば、企画内容そのものが変更になったり、仕上がったイラストを見て「これができるならさらにこうしたい」と別のアイデアが湧いたりして、修正を求められる場合です。これは「修正」ではなく「追加作業」ですので、新たに料金を提示するなどの対応が必要です。指示通りの内容は描けているのに、こまごまといつまでも修正を要求される場合は「これ以上の作業には追加料金がかかります」と伝えるだけで、ピタリと修正が入らなくなることもあります。
③それ以外の「修正」の場合
こういった、自分の明らかなミスや先方の都合による描き直しではなく、好みや認識の違い、予測不能な事情による修正なども多くあります。追加料金は請求できないけれど、なんとなく釈然としない、でも修正を断るほどの理由はない……。このあと詳しくお話しするのは、このようなケースです。
修正がつらい理由
最終的には修正を重ねてよりよくなることが多いとわかっていても、なぜ「修正」に対してネガティブな感情が湧くのか。たとえばこんな理由があると思います。
1 ゴールに着いたと思ったとたん距離を延ばされるようながっかり感
頑張って作品が完成した! と感じた瞬間に修正依頼が来ると、まさに切ろうとしたゴールテープが遠のいたような気持ちになり、燃え尽きそうになります。ラフの時点では何もいわれなかったのに、着色が終わってから修正が入ったような場合はなおさらです。
2 自分のアイデアやセンスを否定された気がする
特に自分が気に入っている部分への修正依頼は、アイデアやセンスを否定されたように感じ、創作意欲に影響を与えます。私の場合、面白いと思った描写に修正が入って、それでは面白くなくなると感じると、ガクンとモチベーションが下がります。
3 努力が否定された気がする
修正を求められると、努力が評価されず、自分の頑張りが否定されたように感じられるときもあります。実はたいていのガッカリ感のもとはこれではないかと思います。また、修正にかかる手間も軽く見られているように感じると、やはりやる気がそがれます。
修正そのものを減らすためには
修正なしで満足される絵が描けるのが一番いいのは明らかです。そのためにできることとしては、
・事前にポートフォリオなどで自分の作風を確認してもらうこと
・打ち合わせの段階で相手の意図をよく汲み取り、イメージをすり合わせること
・ラフスケッチの提出時にしっかり確認してもらい、修正はラフの段階でしてもらうこと
などが考えられます。
特にデジタル作画は、簡単に修正できると思われている場合があります。
基本的に修正はラフの段階で済ませて欲しい、と一言添えるだけでも、チェックをしっかりしてもらいやすくなるでしょう。ラフではわからない、色味などの希望があるなら先に教えてもらうか、軽く色を付けたラフを見てもらうなどの対応もできます。
こうした対策をしても避けられない修正はあります。その場合は、もう気持ちをどう持つかという話になってきます。できるだけ意欲を落とさず、気分よく修正できるように、私が心がけていることをシェアします。
修正のつらさを減らすには
1 画力を上げる
簡単にいうなと思われるかもしれませんが、これが一番の解決方法でしょう。絵を描きはじめたころは、1本の線をうまく描くにも時間がかかったはずです。できあがってから、何かおかしいなと思っても、やっと描けた絵を消すのが惜しくてなかなか描き直せない。ポーズや構図の引き出しも少なく、1つのお題に対して描ける絵のバリエーションはとても少なかったのではないでしょうか。
そこから練習や勉強を重ねて画力が向上した結果、ラフを何案も思い付き、納期までに描けるようになったのです。クライアントの修正希望に応えたら絵のバランスが崩れそうな場合も、描く力が高ければ、要望にも応えつつバランスもとれる、より良い選択をできるようになります。たいていの修正には対応できる余裕が生まれれば、心理的負担も下がります。無理難題をいわれたらむしろ燃えるぐらいの力量を得られれば怖いものなしでしょう。最終的に目指したいのはここです。
2 自分は相手の仕事に対してどう感じているかを考える
修正によってセンスや努力が否定された、という気持ちになってしまう場合。たしかに絵を描く苦労は同業者以外にはわかってもらいにくいものです。「デジタルソフトは、ラフを取り込めば自動的にペン入れしてくれるんじゃないの?」と勘違いされている場合さえあります。簡単にできると思っているから、必要とはいえない修正まで要求してくるのではないか? と疑いたくなる。そんなときはこう考えてみたらどうでしょう。
「自分自身は相手のセンスや努力を充分認めているか?」
自分も、他者の仕事は簡単にできると思っていないでしょうか。恥ずかしながら仕事をはじめたころの私は「編集者さんって何をしているの? 文章はライターさんが書くし、絵は私が描くし、写真はカメラマンさんが撮るよね?」と思っていました。あるいは、自分には難しい仕事でも、相手はその道のプロで才能があるのだから、そこまで苦労せずにできるのだ、と思っていないでしょうか。
そもそも、お互いプロで、相手の能力を信頼しているからこそ、指示通りのことができて進行がスムーズにいくのが当たり前だと感じるし、不備があれば直すようにいえるのです。イラストレーターから発注者に何かを修正してくれということはないでしょうが、進行や指示内容について要望を出し、交渉することはあるはずです。そのたびに向こうがいちいち嫌がり、落ち込むのではと心配して、いいたいこともいえないのでは困ります。立場は異なっても、お互い様なのです。
3 「やる」と返事してからすり合わせる
これはちょっとしたテクニックですが、まず「修正します」と返事をしてから、意図の確認や、そのまま修正したらおこりそうな不具合を説明し、代案があれば提案します。先に相手を安心させ、落ち着いた状態で話を聞いてもらうのです。「でも」といい返すより、「わかりました。それでは……」とはじまる会話のほうがスムーズにいく気がしませんか。どんなに面倒でも、ほとんどの場合、修正は受けることになるので、先に「やります」と伝えればこちらの覚悟も決まります。その上でしっかり話し合えば、結果としてよりよい落としどころに落ち着きやすいように思います。
ここに書いたことは、他人を巻き込むような大きなトラブルに比べたら、自分がどう感じるかという、些細なことに過ぎません。でも絵の仕事をするときに、こういう小さな引っ掛かりが地味にストレスになることもあります。
ネガティブな感情自体はどうしようもありませんが、そのまま相手にぶつけずにフラットに受け止める。その上で、こちらの事情や必要な要望はしっかり伝えて最善の策をとる。それを繰り返すことが信頼につながり、関係を長続きさせてくれるのだと思います。
文/白ふくろう舎
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