
「ひとり暮らし」をしたことがない大人って、そんなにダメですか?【炭田のレシピ本研究室/第16回】
年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本を紹介する連載。今回のテーマは「ひとり暮らし」。27歳までぬくぬく実家暮らしからの、結婚して二人暮らし。人生で一度も「ひとり暮らし」をしたことがない炭田なりに選んだ、おすすめの2冊をご紹介します。
イマジナリーひとり暮らし
夫とケンカをした。内容はもう忘れたけど、その時に言われた言葉が1ヶ月経った今もまだ頭の中に居座っている。
「まぁ、ひとり暮らししたことない人には分かんないかもね……」
ガーン! そ、そういう責め方ないよね?! 確かに私は電気とか水道とかインターネットの手続きをしたことがない、甘ちゃんだけど。でもそれは引っ越しのたびに君が全部やってくれたからで(ありがとう)、今更言われても……!
夫婦歴は10年を超え、子供が小学生になり、私もすっかり大人だわ〜と思っていたところに降って湧いた「ひとり暮らししたことない人」のレッテル。事実だけど、もうどうしようもないじゃん。
とはいえめそめそするのは性に合わないので、自分がひとり暮らしすると仮定して、おすすめのレシピ本を選んでみる。夫もすなる「ひとり暮らし」といふものを、妻の私もしてみむとてするなり、だ。こんちくしょう、見てろよ!
ひとり暮らしの台所は狭いらしい
聞くところによると「ひとり暮らし」は台所が狭いらしい。で、コンロは我が家のように3口なんて無い上に、まな板を置くスペースがあるかどうかもあやしい。シンクも狭くて、洗い物もままならない。そんな極狭キッチン、とっても料理がしにくそうだ。そんな時は、この本の出番。きじまりゅうたさんの『極狭キッチンで絶品! 自炊ごはん』。
実はこの本、元々持っていたのだが「ハサミで食材を切ったり、ポリ袋で漬け込んだりとか、手間を省く系のレシピかぁ。なるほど、ひとり暮らし向けによく出来てるなー」とパラパラめくるだけで満足していた。だが実際に作ってみると、あらびっくり。料理を作り終えたあとの台所が、普段に比べて超キレイなのだ。
例えば、青椒肉絲。調味料を混ぜ合わせ肉に揉み込んで、片栗粉でとろみをつけ、中華料理なのでなんだかんだコンロが汚れるなど、洗い物や油跳ねで微妙にめんどくさいイメージがあると思う。だがこの本のレシピに沿うと、切ったピーマンは盛り付け用の皿の上に置くから余計な洗い物が出ないし、肉は入っていたトレイの上で調味するから出番が終わったらポイっと捨てるだけで済むし、弱めの中火で炒めるからコンロが汚れない。アメージング! 台所、全然散らからない! もちろん他のレシピも同様だ。

もしかすると夫は、今までの私の「料理が終わったあとの台所の荒れっぷり」を見て、これだからひとり暮らしをしたことがない奴は……と思っていたのかもしれない。なんたって彼は、私が自分ひとりだけのために料理をしたあとのフライパンも、いつの間にか洗っているようなキレイ好きだ。きっとこれからの私は、ひとり暮らし経験者のような「段取りの良いお料理」ができる気がする。首洗って待ってろよ、ダーリン。
なんと野菜も溶けるらしい
ひとり暮らしと言えば、かつて会社員だった頃、同僚が「もやしがまた溶けた」とよく嘆いていたことを思い出す。信じられないことだが、ひとり暮らしをしていると買った野菜が使い切れずに溶けて液体になるらしい。彼が教えてくれた「最速で液体になる野菜TOP3」は、もやしとキュウリとニラだったっけ。じゃがいもから芽が出る、なんて可愛いもんだ。
幸い私は野菜を溶かしたことはないが、溶けるのも分かる気がする。スーパーに並ぶ野菜たち、どう見たってひとりで食べるには多過ぎる。だが、これを解決する1冊があるので紹介したい。市瀬悦子さんの『炊き込みベジごはん』だ。
サラダ、煮もの、炒めもの、といつも似たような食べ方になる野菜を「炊き込みごはん(=ベジごはん)」にしちゃいましょう! という本。これなら、使い切れなかった野菜を調味料と一緒に炊飯器に放り込むだけで、これまで溶けてしまっていた野菜たちを救済できる。しかもボリュームが減るから、一度にたくさん野菜を食べられて、体にいい。

ひとり暮らしではない私だが、特に頼りにしているレシピが2つあるので紹介したい。1つ目は、丸ごと買うもののいつも最後はお好み焼きか餃子にするしかないキャベツを使った「キャベツとじゃこごはん」。一度にキャベツを200グラム消費できるのが熱いし、じゃこは大抵冷蔵庫にあるのですぐに作れて助かる。小学生の娘は、じゃこの塩気につられてなんだかんだキャベツも食べている。
2つ目は、これまた1本買うものの最後は大根おろしにして鍋に添えるしか用途がなかった大根を使った「大根とたこの葉っぱだしごはん」。うっすら出汁の味が染みた大根がじゅんわりおいしい上に嵩増しにも一役買い、お米の食べすぎ防止にもなる。最近ダイエット中の夫にもピッタリだ。
お惣菜に頼りがちなひとり暮らしも、この本があれば少しは野菜摂取率の向上につながるはずだ。
妻はダメでも娘はいいのか?
ひとり暮らしをするわけでもないのに、日夜せっせと「もしするなら……」とイマジネーションを膨らませていたのに、夫がこんなことを言い出した。
「やっぱり女の子は、ずっと実家で暮らすのがいいと思う」
なんだって!?
「いや、物価も高いし、防犯上の理由もあるしさ」
へぇ~? ひとり暮らし未経験、私のような甘ちゃんに育ってもよろしいんか~? と思いながら聞いていたら「もし娘が北海道大学に進学したら、僕も北海道についていく」と言うではないか。
東京に住んでいる上に、親類縁者がいる訳でもないのに飛び出してきた北海道に、奴の本気を感じる。娘にはとことん甘い、夫である。あなたの妻も、女の子なんですけどね。
文/炭田 友望

