
おいしいセルフケアと、怖くない老いの話。【炭田のレシピ本研究室/第14回】
年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本を紹介する連載。2026年は個人的に「セルフケア」に力を入れていきたい気持ち。健康第一でおいしく食べ続けるために選んだ2冊を紹介します。
胃腸炎になると、ご飯が食べられません!
去年、つまり2025年の年明けのこと。年末年始の暴飲暴食が祟ったのか、クリスマスから続く娘の看病で疲れが溜まっていたのか、胃腸炎になった。確か15年ぶり、人生二度目の胃腸炎だったと思う。そこで痛感したのが、己の食い意地。
ちょっとでも調子が良くなると、味を感じたくてすぐに食べ物を口に入れてしまう。そして気持ち悪くなる。おかしいなぁと思いながら食べて寝て4日ほどふせっていたら、そんな私の姿を見た私よりお腹を壊し慣れている夫に「僕はそういう時、3日は水しか飲まないよ」と言われた。……マジで?
私は40年近く生きてきて、この時はじめて「お腹の調子が悪い時は何も食べずに体を休める」のだと知った。そのあとは大人しくおかゆ、うどん、OS-1のコンボで徐々に回復。結局、いつもの食事ができるまで1週間以上を要してしまった。
もう新年早々、胃腸炎にかかりたくない。かくなる上は、セルフケアである。今年の私は、ひと味違います。とくとご覧あれ。
なぜだかこの1冊がぶっ刺さってます
まず紹介したいのは、長谷川あかりさんの『わたしが整う、ご自愛ごはん』。私が長谷川あかりさんを知ったのは、私より食いしん坊なのにかつて全く料理をしなかった友人が「あかり神(しん)のおかげで料理するようになったの!」と、興奮気味に教えてくれたのがきっかけだ。ちなみにこの友人は、パートナーの海外留学に帯同した時、周りの妻たちがせっせとお弁当を作る中、自分のパートナーにはタッパーに詰めた白飯とお茶漬けの素を渡していたそうだ。お湯は大学で注ぐらしい。「あったかくておいしいよ♡」と、言っていたっけ。そんなどこまでも料理を避けて生きてきた友人が料理をするだなんて……あかり神、何者……? と思ったことをよく覚えている。
だがここだけの話、私はこれまで長谷川あかりさんが作るレシピにピンときていなかった。お茶漬け弁当を作っていた友人が勧める本を買って、SNSでバズった長谷川さんのレシピも何品か作ってみたものの、材料と材料の味がするなぁという感想に終始してしまう。その度に、今をときめく料理家さんの魅力を理解できない己のセンスを嘆いていた。
ところがどっこい『わたしが整う、ご自愛ごはん』は私のハートを射止めた。「ささみときのこのシンプル炒め」は、登場する材料全員が“白い”ので見た目があまりにも地味だが、その薄ぼんやりしたルックスに反してうまみがすごいし、「ささみといんげんの梅バジル和え」は和洋折衷の新たな扉を開きつつもヘルシー&お洒落。「ニラとひき肉の台湾風ラーメン」はアミエビの出汁が染みたスープがほっと落ち着く。なによりどれも食べていて「体にいいもの、ちゃんと食べてる~!」という多幸感に包まれる。忘年会とクリスマス、各種パーティーで荒れた私の胃袋に、本のタイトル通りの『ご自愛ごはん』がそっと寄り添ってくれるのだ。

でも困ったことに、これまでの長谷川さんのレシピとこの本の何が違うのか、どこが自分に刺さったのか、よく分からない。なんとか捻り出した答えは、友人のすすめで長谷川さんのPodcastを聞き、YouTubeを見始めたこと……?
それまで私は、彼女のことを「丁寧な暮らし系の人が提案する、時短料理」を作る人だと認識していた。でも声や実際に動く様を通して意外とお転婆な一面や、レシピへの合理的な向き合い方を知ったことで、彼女が生みだすレシピへの理解が深まったっぽい、と睨んでいる。恐らくだけど彼女は丁寧な暮らし村の人ではなく、根が面倒くさがり故に合理性を突き詰めた村の人。優し気なルックスから勝手に丁寧さを感じていたけれど、料理に対するマインドは徹底的に無駄を省く勝間和代さんのスタイルに近いのではなかろうか、などと考えている。
合理的なレシピ+手作りの楽しさ=長谷川あかり……? 令和の新星、誕生……的な? まだまだ全然読み解けないので、今年はあかり神の魅力をさらに探求していきたい所存だ。
迫りくる老いを知識で迎え撃つ
セルフケアをテーマに選んだ2冊目は、白央篤司さんの『はじめての胃もたれ』。「もう若くないなあ」からはじめるセルフケア、という帯の言葉にグッとくる人は、私以外にもいるはずだと思い紹介する。
この本、前書きからいい。見てみぬふりをしていたけれど、ひたひたと確実に忍び寄る「老い」の予感。それに対し「ちゃんと現実を見なさい!」と叱咤するのではなく、著者の白央さんが「わかるよ、僕もそうだったから。怖いよね」と優しく寄り添ってくれるのだ。そして、これから上手く付き合っていけば、今までとは違う新しい食の楽しみだってあるよと教えてくれる。たった4ページの前書きなのに、ほっとして、嬉しくて、これまでなら「とりあえずビール!」と注文していたところを爽健美茶にして、白央さんと膝を突き合わせて語り合いたくなる。

読み進めていくと「お茶漬けをジャスミン茶で作ると、さっぱりしてイケるよ」とか「野菜は生もいいけど、発酵もこれまたいいんだ」とか「ケーキもいいけど、和菓子にも目を向けてみない?」みたいな提案がたくさん出てくる。そしてその提案に乗って試していくうちに、なるべくなら遠ざけた方がよくて、出来るものならバーン! と元気よく跳ね返した方がいいと思っていた「老い」に対して、自分の人生に増えた新しい相棒みたいな気持ちになってくるのだ。そりゃあカルビを5人前イケちゃう胃袋の若さは良いもんだけど、自分の変化に合わせて味の道を探索するのもいいもんだよね。
レシピ本ではなくコラムなので料理の詳細な分量は書いていないが、日常的に料理をする人なら問題なく作れるはずなので、老いがちょっと怖いと感じている私のような人に、ぜひ読んでほしい。
セルフケアの幕明けじゃ
料理が好き、毎日でも苦にならない、食べるの最高。とはいえ確実にある、気分じゃない日、ままならない日、やってられっかの日。そんな日に自分を労わる方法をたくさん知っているのが、セルフケアの入り口なのかもしれないと、選んだ2冊を読んで思った。
今年はセルフケアを我が物にして、もうちょっと落ち着いた魅力も漂わせていきたい。中年、バッチ来ーい!
文/炭田 友望
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