
アキラの予言【さとゆみの今日もコレカラ/第 109 回】
「先生、私、挫折をしてみたい。何すればいい?」
高校2年生の時、職員室で担任のアキラに聞いた。アキラはぷっと吹き出した。
「挫折がしたいって…‥。また、どうして?」
アキラが椅子をこちらにくるりとむけて聞いてくる。
「いろんな小説に、若い時代の挫折の経験が大事だって書いてある」
「したことないの?」
「ないと思う」
「一度も?」
「多分」
アキラはちょっと考えてから言った。
「お前、こないだ世界選手権の予選で靱帯切っただろう。あれは?」
「あれは、とは?」
「あれは、挫折してないの?」
「うーん、まあ、どっちにしても今年の世界選手権は無理だったと思うし。部活できなくなって成績上がったから、靭帯切ったのは割とよかった」
「……。うーん、じゃあ、あれは? お前、こないだフラれてただろう?」
「なんでアキラが知ってんの?」
「それくらい見てればわかる。あれはどうよ。落ち込んでないの?」
「落ち込むに決まってんじゃん」
「おお」
「でも、まあ、フラれてよかったんじゃないかな。私、傲慢なところあるし性格悪いから、仕方ないなあって思った。これを機にちょっと性格直した方がいいと思う。それって挫折?」
「……多分、違うだろうね」
「どうすれば、挫折できんの?」
「うーん……。お前多分、挫折しないんじゃね? だいたい、挫折したいですって言ってくるようなやつは、一生挫折しないんじゃないかと思うよ」
「えええええ」
「なんで? いいだろうよ。オレなんて人生挫折の連続だぜ。挫折しない方がいいだろうが」
「うーん、でも、挫折を経験しないといつか困る気がする」
「いつかって?」
「たとえば、作家になりたいと思った時とか。挫折を知らない作家はきっと、表現の幅が足りないってなるんじゃない?」
「それは、先生は知らん。そうかもな。でもまあ、その時は挫折できるんじゃね?」
最近よく、アキラの言葉を思い出す。失敗は数知れずたくさんやらかしたけれど、47 歳の今、まだ挫折とは何かわからない。2回離婚したし、病気もしたし、彼氏が死んだし、親も死んだけど、折れずに病まずに生きている。
そして、物書きでいるには、私は明るく朗らかすぎる気がする。書く文章に
も影が潜まない。だいたい日向だし、ぽかぽかしてる。表現の幅がたしかに狭い。
でももう、これはこれで仕方ないのかなと、最近思っている。陽キャは陽キャなりに書いていくしかないのだろう。挫折することよりも、書くを続けることのほうが圧倒的優先事項になっている。
ねえ、アキラ。
アキラの予言は半分あたって、半分外れたかもしれないよ。
私はまだ挫折を経験してないみたいだし、でも挫折していないことに挫折はしないみたいだよ。
この先は、どうなるんだろう。
もう私の先生じゃないけれど、アキラにもう一回、この件話してみたいなと最近思う。
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私は何をしたいのだろう。 私は何を書きたいのだろう。私は。
私は。
何度目の思春期だよ。


