
人からは見えない【さとゆみの今日もコレカラ/第 215 回】
その人にとって何が幸せなのかなんて、はたから見ていてもわからない。
先日久しぶりに、学生時代の同級生に会った。上場企業で華やかな部署を転々としてきた人で、誰もが知っている商品の開発に関わったり、CM 制作をとりまとめたりしていた人だった。
「実は、今、子会社に出向してるんだけどね。これが最高におもしろくて」と話す。みんなの意思決定が、そのまま会社の方針になる。小さくトライして大きく伸ばす。うまくいったらみんなでハイタッチする。祝杯をあげに行く。
「ほんと、仕事してるなあって気持ちになる」と、その人は言う。
子会社への出向は、出世ルートを外れたとみなされるらしい。だから本社の人たちには左遷されたと思われている。でも、自分は今までで一番楽しく仕事できているし、このまま子会社勤務を続けたいと希望を出していると話していた。
はたから見て華やかな仕事をしているとか、目立つ功績があるとか、そういうことが人生の充実感と比例するわけではない。周囲の相対評価よりも自分の絶対評価のほうが、よっぽど自分の幸せに直結している。そんなことを考えた。
✳︎
先日、ゼミメンバーのゆりちゃんに連れられて、世界的なアルピニスト、花谷泰広さんの取材に同行した。登山界のアカデミー賞と言われるピオレドール賞を受賞した花谷さんは今、甲斐駒ヶ岳の登山道を修復する事業に携わっているという。
取材が始まってすぐ花谷さんは、「山をなおす」ことが、どれだけエキサイティングで、わくわくすることかを前のめりで語ってくれた。「人生で初めて、フルコミットできることに出会えた」と花谷さんは言う。
「プレーヤーとしての道は 20 代のときに見切っていた」と花谷さんは話す。登山の世界では、絶対にトップに行けない。生涯をクライミングに賭ける人たちのようにはなれない。そう思ったのだという。
そんな花谷さんが、人生を賭ける場として選んだのが山の保全活動だった。「エベレストに登るよりもエキサイティング。エベレストに登るよりもずっとグローバル」と公言する花谷さん。
取材時間は2時間。ずっとしびれっぱなしの2時間だった。
自分が心躍ることにフルコミットすることの清々しさ。花谷さんの話を聞いている間ずっと、シャワーを浴びているようだった。
そう、そのシャワーが本当に気持ちよかったのだ。つるんと皮が向けたような気持ちで、東京に戻った。こういう「はたから見ているだけじゃわからない」楽しさや幸せに触れられるのが、インタビューの醍醐味だよなあと思いながら。
ゆりちゃんの原稿を読んでいる間も、ずっとあのときの清々しさを思い出していた。日曜日の朝にぴったりの文章だと思うので、みなさんにも読んでもらえたら嬉しいです。
【この記事をおすすめ】
ずっと、未踏峰だ未踏ルートだっていうのに挑戦していたわけで、つまりそれは誰もやっていないことへの挑戦です。今の活動も同じ。今まで誰もやっていなかったことに挑戦しています。


