
スランプなんて、ないのです【さとゆみの今日もコレカラ/第296回】
アーティスト、田名網敬一先生の訃報を聞く。CORECOLORでインタビュー記事を公開させていただいたばかりだった。報道で、この記事の公開日にお亡くなりになっていたことを知る。
「先生」と書いたのは、取材中にライターのしのぶさんが、ずっと先生と呼んでいたからだ。田名網先生は、しのぶさんの学生時代の恩師だった。
取材の申し込みをする際、しのぶさんは「もちろん、私が先生に聞きたいことがたくさんあるんですけれど、さとゆみさんにも、先生に会ってほしくて」と言っていた。絶対好きになると思うというその言葉の通り、2時間の取材は、忘れられない2時間になった。
私は、公開が終わった取材の音声はクラウドに移して端末からは消すのだけれど、このときの音声は消さずに持ち歩いていた。きっとこの先、何度も聞き直す日がくると思ったからだ。
先生の言葉はどれも刺さったのだけれど、そのうちのひとつ。
「スランプなんて、道を極めた人だけが言ってよい言葉だ」という話をいま、思い出している。身の程を知っている自分にはスランプなんてない。粛々と描くだけなのだよと。
一度お目にかかっただけの方だけれど、ずいぶん強く影響を受けたので、訃報を聞き昨日は一日ぼんやりとしていた。だけどきっと、こういう日も先生なら描くのであろうと思い、昨日も書いた。
あの日、私は先生に、「死ぬのは怖くないですか?」と聞いた。
描くのが楽しい。88歳の今が一番楽しいとおっしゃった。でも、毎日描き続ける先生にも、いつか描けなくなる日がくるはずだ。その日を想像するのは怖くないですか。失礼な質問かと思ったけれど、どうしても聞いてみたかった。
先生は「怖くない」と、即答された。
明日死んでもいい。今日僕がやろうとしていたことは、すべて終わっているわけだから。
毎日描き、毎日描き、毎日描いた人のその言葉を、私は、一生忘れないと思った。
先生に出会ってはじめて、歳を重ねることを希望でしかないと思った。生まれてはじめて、長生きしたいと思った。
先生の、88年の太く長い人生の、後ろから数えて最後の3ヶ月のところで。お話をお伺いすることができて、本当によかった。出会わせてくれたしのぶさんにお礼を言いたい。先生の言葉が、しのぶさんの筆で今も読めることにも、本当に感謝している。何度も何度も読み返すだろう。
✳︎「今日もコレカラ」は毎朝7時に更新し、24時間で消滅します。今日もこれから良い一日を。
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【この記事をおすすめ】
──長く活動されてきて、「これだけはやっておきたい」ことはありますか。 田名網:そういうのはない。
──アーティストとしてこの年齢がいちばん楽しかった、というのは?
田名網:今がいちばん楽しい。そうじゃないと、描き続ける意味がない。過去の名声なんかにしがみついてもしょうがないよ。


