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ペットと避難できるわんにゃんハウスを設置したライダーハウスオーナーの思い。「飼い主が安心して前を向くために」【能登のいま/第11回】

能登在住の二角さんの連載『能登のいま』がきっかけで、CORECOLORライターのみんなと能登へ向かった。大きな災害が起きるたび、ペット同行避難に関する問題が浮上する。しかしそのような報道は避難所受け入れのタイミングでの取材が多く、その先の話をメディアで見かける機会は極めて少ない。普段、犬や猫に関する記事を中心に執筆している筆者は、「今、現地で話を聞きかなくては」と思う気持ちが強かった。

ペット同行避難はどこまで浸透しているのか。地震発生から7ヶ月過ぎた今、ペットと飼い主はどうしているのか。ライダーズハウス&カフェPEACEの中に、ペットと共に避難できるわんにゃんハウスを設置したオーナーの大場小都美さんに話を聞いた。(執筆/村田幸音)

「だったら自分で建てるしかない」

石川県能登町、越坂の海岸沿いに10棟のインスタントハウスが並んでいた。能登半島地震で被災した人が、ペットと共に暮らせるわんにゃんハウスだ。ペットが理由で避難所へ入れずにいる人のため、ライダーズハウス&カフェPEACEオーナーの大場小都美さんが開設した。

地震のあと、ペットのために半壊状態の自宅にとどまったり、車中泊を続けたりしている飼い主の姿を見て、大場さんはいてもたってもいられなかったという。

「役所に『ペットと安心して過ごせる避難所をつくれないか』と相談したのですが、すぐには難しいようで良い返事はもらえなくて。だったら自分で建てるしかないと思ったんです」

災害時、ペットを受け入れる避難所が限られているだけでなく、受け入れ可能であっても「避難所に入らない選択」をする飼い主は多い。
まず、鳴き声やニオイなどで迷惑をかけてしまうといった心配がある。加えて、ペットの性格によっては人が多い場所は落ち着かず、ストレスで吠え続けたり体調を崩したりするからだ。筆者の愛犬も、環境の変化が原因で嘔吐と下痢を繰り返し、半月ほど点滴で生きながらえた経験がある。平常時でさえこうなのだから、災害直後の混乱の中でペットと飼い主がどのような状況になるか、想像するだけで胸が詰まる。

PEACEは幸いにも家屋に大きな被害はなく、大場さんは3匹の愛猫と共に過ごしていた。断水した地域だったが、もともとPEACE内では湧き水を電気ポンプで組み上げて使っていたため、水は豊富にあった。湧き水を自動洗浄ろ過装置のある風呂場へホースで引き込み、ガスボイラーで温めて風呂を被災者に無料開放したのが1月4日。自衛隊の入浴支援がはじまる5日前のことだ。

多くの人が訪れ、長い時には4時間待ちにもなった。風呂の順番を待つ間、大場さんが無料提供するコーヒーを飲み、支援物資のおやつやラーメンを食べながら、みんなで話をする時間が多くの人の支えになっていた。そこで大場さんが聞いたのが、飼い主たちの悲痛な声だ。

ある家の猫は、車を走行中にブレーキをかけると座席から転がり落ちてしまったという。車中泊が続いて運動量が減り、踏ん張るための筋肉がなくなってしまったのだ。

「しかも、猫ちゃんなのに一気に座席に飛びのれないんですよ。低い場所から一段ずつのぼって、ようやく座席に戻れたと聞いてつらかったですね」

地震によるストレスは、人間だけでなく犬や猫たちにとっても重要な問題だ。食欲がなくなってしまう子や排泄ができなくなる子、物音や揺れに怯える子、筋力や体力が落ちてしまう子。最悪の場合、それらが原因で命を落とす子もいる。「なんとかしなくては」。仲間たちと相談し知人に声をかけ、つながったのがインスタントハウスの設置先を募っていた名古屋工業大学の北川啓介教授だ。

2月下旬には、ライダーズハウス敷地内のキャンプスペースに10棟のインスタントハウスが完成した。猫が爪とぎしても大丈夫なように内側の壁部分を板張りにして床にマットを敷き、入口には手作りのペットガードをつけた。安心してペットと暮らせる仕様に改装したわんにゃんハウスの誕生だ。飼い主とペットがリラックスして暮らせるように、入居するのは一棟に一組。テント内部は直径5m、約8畳強の広さがあり、ゆったりと過ごせる。

「わんちゃんが思い切り遊んだり、猫ちゃんが自由に動き回ったりできる、飼い主さんと落ち着いて一緒にいられると思うと嬉しかったですね。ペットが元気になると、飼い主さんも安心してやっと前を向けるようになるんです。だって、大切な家族ですから。ペットを助けることは人を助けることになると感じました」

PEACEを元気発信基地に

現在、ペットと共に避難生活をしていた人たちは仮設住宅に移ったが、大場さんはわんにゃんハウスをそのまま残している。必要最低限の荷物だけで暮らしていたテントでの避難生活と違い、仮設住宅は基本的な家具が設置されて手狭になる。そのため、ペットが自由に動き回れるほどの広さを確保できないケースも多い。ペットのたてる物音や鳴き声を気にして気兼ねなく遊ばせられない飼い主もいる。

「仮設住宅に住んでいても、いつでもここで思い切り遊べるようにハウスの中はそのままにしてあります」

大場さんのこうした心遣いが、どれほど飼い主の不安を和らげていることだろう。ハウスの玄関部分には、「◯◯ちゃん(ペットの名前)外泊中」と書かれたプレートがさがっていた。

5月には、大場さんが代表となり、地元住民と奥能登で活動する県内外のボランティアでつくる団体「奥能登わんにゃんサポート」を設立した。迷子捜索やTNR(野良猫を捕まえ“Trap”、手術し “Neuter”、元いた場所に戻す“Return” 繁殖を防ぐための活動)実施のほか、ペット用品の支援物資提供やトリマーによる完全無料トリミングなどのイベントも行っている。

「私ひとりの力でやっているわけじゃないんです。みんなの力を借りて、応援してくれる人もいて、だからいろいろなことができる。お風呂の無料開放をした時に支援物資を配れたのも、早い段階からライダー仲間が物資を届けてくれたから。ライダーってやんちゃでとっつきにくい印象がありますが、めっちゃ団結力があって助け合いの精神に溢れているんですよ」

大場さんは、現在も定期的な炊き出しのほか、化粧品サンプルの提供やプロによる腰痛や肩こりのセルフケア講座なども行っている。

「PEACEに来た時は笑顔になってほしくて、いろいろ企画しています。楽しく生活できないと、つらくなってしまうでしょう。今は前しか向かないと決めています。私は、人のため、猫ちゃんわんちゃんのため、PEACEを元気発信基地にしていきたいんです」

能登へ笑顔と元気を届けてほしい

PEACEのカフェは、時短営業を続けている。ランチタイムには、日本一周中のライダーや近所の常連さんなど、多くのお客さんが大場さんの料理を求めて来店していた。目の前に180度広がる海を眺めるテラス席で愛犬と食事を楽しみ、支援物資を受け取って帰るお客さんの姿もあった。

「能登の海、きれいでしょう。今日は少し波がありますが、ここは内浦だからベタ凪で、いつもは湖みたいにキラキラしているんです。派手なスポットや観光地はないけれど、この景色と大自然が能登の魅力です。

以前のように『観光を楽しんで』とはまだ言えませんが、来てくれる人には今の能登を見てほしい。能登のシンボルとしても有名な軍艦島こと見附島は、今回の地震で崩れてほぼ半分の大きさになってしまいました。そういった地震の爪痕をしっかり見て、そしてその場所で力を振り絞って生活している私たちに、ぜひ、笑顔と元気を届けてほしいですね」


【編集後記】東日本大震災当時、ペット同行避難は自治体にも飼い主にも周知されていなかった。避難所に入れず自宅に残されたペットやペットの様子を見に行った飼い主が、家屋倒壊や津波の犠牲になった事例も多い。この経験を踏まえ、環境省が同行避難を推奨するようになったが、自治体により対応が異なるため課題は多い。豪雨の中、ペットの居住スペースが屋根の無い屋外のみだったケースもある。能登半島地震では「ペットも同室で避難できた」「ペットと一緒に入居できる仮設住宅がある」との報道を見て、災害時のペット問題が大きく進展したと感じていた。しかし現地で話を聞き、進展はしても安心して暮らせるための体制の整備にはまだ遠いと再認識した。家族であるペットとその飼い主が、1日でも早く穏やかな日常に戻れることを心から願っている。

文/村田 幸音

PEACE riders marine base

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