
あの人の推し本【さとゆみの今日もコレカラ/第 316 回】
青山ブックセンターさんの、「330人が、この夏おすすめする1冊」のフェアで、わたしも選書をさせていただいた。
先日、やっとお邪魔することができて、その330人分のおすすめコメントが全部のっている冊子を手に入れたのだが、これそのものが一冊の読み物のように、面白い。

読んでいると全部欲しくなってしまう。付箋の山。こんなに短い文章でずばりと表現できるのだなと思ってしまう。
たとえば、このCORECOLORでちゃんめいが書いてくれた原稿がすごく面白かったマンガ『ダイヤモンドの功罪」。歌人の上坂あゆ美さんは、こんなふうにおすすめされていた。
青春野球漫画に見せかけた「天才の存在によって周囲はどのように狂わされるか」という話。主人公・綾瀬川があまりに優しい良い奴であることがだんだん恐ろしくなってくる。人が希望を持つのはいつも春で、絶望するのはいつも夏だ。夏の絶望は、私たちをまた一つ大人にさせる。
(上坂あゆ美・選 『ダイヤモンドの功罪』)
お題が「夏に読みたい本」だったので、夏について触れられているのだと思うけれど、夏は暑いだけじゃなくて、夏は絶望。この観察がすごい。
えずさんがレビューしてくれて思わず泣いた『無人島のふたり』は、岡藤真依さんによってこんなふうに書かれている。
最後の一文の衝撃。著者は最後の最後まで魂のあらんかぎり作家であったのだな、と打ちのめされた。描くことから逃げ出したくなる時、私はきっとこの本のラストページを読み返す。
岡藤真依・選『無人島のふたり』
つい、手元にある本をもう一度開いてしまうよね。
わたしも何度も読み返している『言語表現法講義』は、近内悠太さんが、こんなふうに書いている。
書くという行為には、考えることと感じることに対する責任が宿っている。自分の「こころ」に誠実になる必要がある。だから自分自身に誠実になれたとき、書くことが始まる。書くとはどういうことか。それを僕に教えてくれた本です。言葉が軽くて困ってる、すべての人へ。
近内悠太・選『言語表現法講義』
最後の「言葉が軽くて困ってる」のあたりで、ぐさりきますね。
過去にわたしが書評を書いた『さみしい夜にはペンを持て』は、写真家の幡野広志さんが推薦していた。
ちょっとこの本を手にとって90ページをひらいてみてください。『出来事ではなく「考えたこと」を書く』とあります。日記って出来事を書きがちですよね。考えたことを書くんです。目からウロコですよね。これ、じつは写真も同じです。出来事を撮りがちですよね。感じたことを撮るんです。目からレンズキャップですよ。
幡野広志・選『さみしい夜にはペンを持て』
目からレンズキャップ。ずるい。
自分が読んだことのある本を、いろんな人がどんなふうに紹介しているのかを読むのも楽しいし、自分が好きな作家さんが誰の本を紹介しているのかを読むのも楽しい。
私は、というと『怪物と出会った日 井上尚弥と闘うということ』を選書させてもらった。
勝ち続ける物語より、「負けるほう」の物語こそ、私たちの人生と重なる。試合に負けて人生に勝つもの。試合に負けて人生に躓くもの。ボクシングを知らずとも、すべて自分ごとになってしまう。圧倒的没入ノンフィクション。
佐藤友美・選『怪物と出会った日』
この本は、「無敗のボクサー井上尚弥に負けた、敗者のほうにインタビューする」ことで、井上尚弥の強さを炙り出すノンフィクション。読んだ友人たちがみんな面白いというので読み始めた。
ボクシングにまったく興味のないわたしが一気読みしてしまうほど、没入したのは書いたとおりだけど、ライターとしてはどう取材したのか、どう構成したのか、どれくらい時間がかかっているのか、あの部分はどうやって書いたのか……そういうところがすごく気になった。
それで無謀にも、書籍にも登場する担当編集者の阪上さんに「めっちゃめちゃ面白かったです。森合さんに、お話を聞かせていただけないでしょうか?」と連絡をしてみたら、まさかのOKをいただいた。
そういうやり方でインタビューしたんですね! とか、そんなに推敲を? とか、執筆スピード速い!! とか、聞くことすべてが面白かったのですが、なによりも、森合さんと奥様とのやりとりに心を打たれました。オンラインの編集である阪上さん、書籍の編集者である鈴木さん。そして奥様は、3人目の編集者のような存在だったのだなあ、と感じました。
さとゆみのnoteで公開です。よかったら、ぜひ読んでくださいませ。


