
誰が教えてくれるのか【今日もコレカラ/第687回】
1年くらい前のことだっただろうか。
40代、50代であれば、誰でも知っているようなヒットドラマを手がけてきた先輩とお食事をご一緒する機会があった。
一緒に飲んでいた人に、「ネットフリックスとか、U-NEXTみたいなところから引き抜きがきたりしないの?」と聞かれた彼は、「そういう話は何度もきたけれど、自分はテレビ局に残るつもりだ」と答えていた。え? でもテレビって斜陽じゃない? いまのうちにネトフリみたいなところに移籍しておいたほうがいいんじゃないのと驚いたその人に、先輩はこう答えていた。
「ネットフリックスのような場所は、すでにディレクター(監督)として活躍している人が引き抜かれていく場所なんだよね。で、そういう人たちって、テレビ局で育てられた人たちなんだ。いま、ゼロからディレクターや監督を育てる仕組みはテレビ局にしかない。その体力があるのは、テレビ局しかなくて、そこが下の世代を育てるのをやめてしまうと、未来の作り手がいなくなると思っているから」
その言葉と覚悟に、じーんときた。
たしかに「番組を作る」技術はオンラインセミナーやカルチャーセンターなどで教えられないタイプの技術だ。放送に耐えられるレベルの撮影や音響、編集の機材も個人で気軽に買えるものではない。それらを保有する組織が育てなければ、作り手は減っていくだろう。
なぜその話を思い出したかというと、昨夜、ドキュメンタリー映像の監督とご一緒していて、やはりその方も「映像知識はテレビ局勤務時代に叩き込まれた」とおっしゃっていたからだ。
そしてこれ、出版業界も似た構造だなと思った。
出版、とくに雑誌業界はいま、非常に厳しい。だけど、雑誌編集の技術は、基本的に雑誌編集の現場で教わるしかないから、勢い「紙の編集」ができる人が減っている。
ライティングができる人は多くても、「紙モノの編集」ができる人はほとんどいない。そして、それを教われる場所も、もうほとんどない。
「紙モノの編集」、とくに、写真やイラストを含む編集は、webで10年書いてきた、ディレクターしてきたからといってできるわけではない。Webの編集とはまったく違う技術だからだ。
テレビを見る人が減ったとは言っても、「動画」産業はどんどん大きくなっている。
雑誌を見る人が減ったとは言っても、「印刷物」はなくならない。「紙モノの編集」ができる人は仕事の幅がぐんと広がる。
昨日は、NHKさんで紙モノの編集講座をさせていただいた。
これまでの生徒さんに、「紙モノの編集ができるようになりたい」というご要望が多かったので、NHKさんと相談して「ちょっとビジネス講座っぽくて特殊だけれど、やってみますか」という話になったのだ。
普段のエッセイ講座やライティング講座とは全然違って、もう、情緒もへったくれもなく、「とにかくコンテを描いて描いて慣れてもらう」を体験してもらいました。参加してくれた方々がみんな「頭から湯気が出そう」と言っていたけれど、いつもとは違う脳を使うよね。
でも、楽しいよねー。編集できるようになると、自分の仕事や趣味の幅がぐんと広がる。できることが俄然増える。
ライティングに対する意識もまったく変わる。上流工程を知ると、ライターに何が求められているのかもわかるようになる。優れた書き手は編集経験がある人が多いと感じる。
講座はあと3回。楽しんでいきましょー!
※「今日もコレカラ」は朝7時に更新です。バックナンバーが読めるようになりました。
【この記事もおすすめ】
「時間を資産と考え、お金のように使えばいい」


