検索
SHARE

マルチタスクは存在しない。人生の目標から時間の投資先を考える。『神時間力』

子育てをしながら仕事をしていると、多種多様のタスクが発生する。仕事だけには集中できないし、育児だけにも集中できない。毎日を何とかこなしていくため、わたしはよくタスクをメモ書きしている。「請求書を作る」「娘の歯医者の予約を取る」「メールの返信をする」「国語のノートを買う、12マス」などなど。終わったモノから線を引き、消していく。そして1日の終わりにメモを眺めて、「今日こなしたタスクは5つかぁ」と振り返る。その後は明日のやるべきことに頭を巡らせ、またメモを書き足していくのだ。

もっと効率良く毎日を過ごしたい。そう思っているわたしの口癖は、「時間がない」だ。

会社に出勤していた頃は、娘のお迎えをして家に帰り、ごはん、お風呂、片付けに明日の準備をしていたら息子の宿題を見る時間がない。会社を辞めてフリーでライターの仕事を始めたら、子どもが15時前には学校から帰ってくるため仕事に使える時間がない。

会社員だった頃、娘は幼稚園の延長保育を嫌がって泣くことが多かった。わたしは仕事がしたかったので説得しながらやり過ごしていたが、小学生になるとさらに激しく学童を拒否。学校にも行かなくなりそうになったため、わたしは仕事を辞めた。ずっと自分を優先して娘の気持ちを押さえつけ、問題を先送りにしてきたツケが回ってきたのだと思った。

娘は徐々に落ち着いてきたけれど、今度はわたしが物足りなくなってくる。家でもできる、やりがいのある仕事はないだろうか? いろいろ考えた結果、フリーランスになろうと思った。ずっと憧れていた文章を書く仕事に挑戦し、時間の融通が利く働き方をしよう。自分のためにも子どものためにもなると思っていざ始めてみたものの、そう簡単にはうまくいかない。学校から帰宅した子どもに話しかけられて、仕事を続けたいわたしはイライラしてしまう。必然的に作業を中断することも多くなり、効率も悪い。仕事も育児もどちらもできるようにと始めたけれど、どちらも中途半端になっている気がして焦っていた。もっとうまく時間を使えるようになりたい。ライターとしてお金を稼げるようになりたいし、子どもたちと向き合う時間も大事にしたい。うまく回らない毎日を少しでも改善したいと思い、わたしは星渉さんの『神時間力 時間を使いこなせば人生は思い通り』を手に取った。

本には心理学や科学的に証明された、タメになる時間力が全21章で綴られている(星さんが、時間術ではなく時間力だと強く主張している)。中でも、仕事と家庭のバランスに悩むわたしが一番気になったのは、「マルチタスクなど存在しない」という章だ。

脳は結局1つのことしかできず、同時進行で複数のことをやっているように見えても、何度もスイッチを切り替えているだけらしい。このタスクスイッチングの回数が増えれば増えるほど、脳は疲弊してパフォーマンスも落ちてしまう。それを避けるためには、似たタスクをなるべく集めてスイッチングの回数を減らすこと。例えば会社員なら、外回りをする日と事務作業をする日を分ける。今日の午後はA社に関する仕事だけをする、と決める。頭の中を切り替える頻度をなるべく減らすことで、集中力も上がり、効率の良い時間の使い方ができるという。

この話を参考にして、わたしは家事や育児に関する用事を、子どもの帰宅時間後になるべくまとめることにした。掃除機や食材の買い出し、ごはんの準備や洗濯物などもここで一気に片付ける。家事をしているときなら、子どもに話しかけられてもイライラせずに対応することができた。仕事の続きをしたくなったりもするが、そこは我慢して気持ちを切り替える。家事が早く終わると自分の時間も増えるし、仕事はそのときにまとめてすればいい。すると以前より集中できるようになり、効率が良くなったように感じた。細かいスイッチングを繰り返して仕事と家事育児を同時に進めるより、気持ちもスッキリして軽やかに過ごせるようになった。

また、時間の単位を変える「デイリー・メトリクス」も面白かった。例えば、「試験まであと3ヶ月」と考えるより、「あと12週間」、さらには「あと84日」と単位を小さくした方が、人はリアルに残り時間を体感しやすく、行動レベルが上がるというものだ。

ちょうど、子どもたちの夏休みが「あと1ヶ月もあるのか……」とうんざりしていたわたしは、この方法を応用できるのでは? と考えた。日数を数えてみると、残り25日。たしかに「あと1ヶ月」と考えるより、近くなったように感じる。さらに夏休み終了までのカウントダウンをX(旧Twitter)に毎日投稿すると、着実に歩みを進めているようで気持ちが前向きになった。結果、グッタリと疲弊した去年よりも、ずっとラクに過ごせたように思う。何より今後、子どもの夏休みを憂鬱な気分で過ごさずに済む! と思うと、目の前が明るくなり爽快な気持ちになった。

本には他にも、「多くのタスクをこなせる人が、時間の使い方がうまいわけではない」なども指摘されている。最初は「え? 違うの?」と不思議に思った。しかし、「人生の残り時間を、大量のタスクをこなすために費やしたい?」と続いていて、「確かにそうか……」と矛盾に気付く。わたしに限らず、そんな人はいないはず。日々の積み重ねが人生になるのに、人生の目的と毎日の目的がズレているのはおかしいと思った。

「時間の使い方がうまい」=やりたいことがやれて、思い通りに生きられていること。そのためには、「時間を資産と考え、お金のように使えばいい」とのことだ。まずは24時間を軍資金だと考える。株投資の場合、軍資金をどの株にベットするかで将来の資産額が変わってくる。時間もいっしょで、何に投資するかで人生の結果はどんどん分かれていく。ムダに時間を消費しないためには、得たい結果は何なのかをハッキリさせること。その時間の使い方(投資先)で、得たい結果が本当に得られるかどうかを意識して過ごすこと。これだけで、毎日が全然変わってくるという。自分の目標を考えてみたとき、今はやはり仕事と家事育児のバランスを取りたいと思った。わたしは母であり妻であるけれど、自分自身も大事にしたい。何かを犠牲にしたり諦めたりして後悔するのではなく、納得して生きていきたい。どちらかにフルベットはできないけれど、どちらもわたしにとって必要だからそれでいい。子どもはいずれ大きくなるし、そのうちわたしの自分時間も増えてくるだろう。そうなったときはまた『神時間力』を読み直し、目標を更新していこうと思っている。

文/いしげ まやこ

【この記事もおすすめ】

writer