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ちゃんめい

「小学6年生男子が〇〇について自然と学べる作品は?」なら『BEASTARS』を読んで意見を交わしてみて【連載・あちらのお客さまからマンガです/第2回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、仕事や人間関係、恋愛……などのお悩みに対して、おすすめのマンガと共にアドバイスをお届けします。

第2回目はしのぶさん(仮名)からのお悩みです。

“マンガ好きの小学6年生の息子がいます。お気に入りは、『カムイ伝』『ブラック・ジャック』『火の鳥』『PLUTO』『進撃の巨人』あたりのようでよく読み返しています。マンガ自体が好きなようで、最近私の本棚にあるマンガも読むようになってきました。ただ、親的には性的な描写など、どこまで見せてよいのか悩んでしまいます。私もマンガからアレコレ学んできたことを思えば、そうするのが自然のような気もしていて、親が教えられてない分いっそ学んで欲しいとも思っています。でも今って、マンガによっては過激すぎる表現もありますよね?そこで、いわゆる「性教育」として売られている教育マンガではなく、小学6年生男子が読んでアレやコレが自然にすっと入っていけるようなマンガを紹介してほしいです!”

おぉ。小学6年生にして愛読されているマンガが骨太な名作揃い! 白目むきながら「おそろしい子!」と身震いしたくなります。どの作品も生と死を巡る普遍的な問いのようなものが根底にあるので、このラインナップなら我が人生のベストマンガである荒川弘先生の『鋼の錬金術師』も読んでみてほしい〜〜! そして、ぜひいつかお互いの好きなマンガについて語り合いたい!!

すみません、話が逸れましたが(笑)ご相談いただいた件はいつかどこかで語りたいなと思っていたテーマでした。なので、お悩みをお送りいただきありがとうございます。

マンガにおける性的描写。どこまでなら見せても良いのかと悩んでしまうのは、それが息子さんにとって悪影響を及ぼさないかどうか、という心配からくるものだと思いますが……ここから少しだけ私の昔話にお付き合いください。

マンガの性的描写を意識したのはいつだろう

私がマンガの性的描写を意識したのは小学3年生の時。当時、クラスでは藤井みほな先生の『GALS!』やCLAMP先生の『カードキャプターさくら』が流行っていました。

『GALS!』の蘭ちゃんに憧れて100円ショップでネイルチップを買ってせっせとデコレーションしたり、なれないとは分かっていても『カードキャプターさくら』のさくらちゃんに憧れてバトンを振り回したり(笑)。どちらも性的描写なんて言葉とは程遠い作品で、何の違和感を覚えることもなくマンガそのものを楽しんでいました。

ですが、ある日クラスメイトが持ってきたマンガが私に衝撃を与えました。年の離れたお姉さんがいるというその子は、明らかに対象年齢が小学3年生ではない……女性向けマンガのなかでも性的表現に特化したティーンズラブ(TL)のマンガを持ってきてみんなに見せてくれました。今、振り返ると「高校生(大人)の間ではこれが流行ってるんだって!」みたいな好奇心による行動だったように思います。

クラスメイトが持ってきた見慣れないマンガを見て「いつも見ているマンガとはまた違う! なんて綺麗な絵なんだろう!」とうっとりしたのも束の間。1巻から早々に描かれる、めちゃくちゃ嫌がるヒロインとそんな彼女に容赦無く迫るイケメン、そして無理やり服を脱がされていくヒロイン……といったティーンズラブ特有の過激なラブシーンは、性行為の「せ」の字も知らない女児にとってはかなり衝撃的でした。

ティーンズラブの衝撃から学んだ“現実とフィクションとの区別

そのマンガを読んで以来「あのシーンはどういう意味だったのだろうか、大人になったらみんなああいうことをするのだろうか」と、なんとなく親に聞くこともできずに悶々とする日々が続きました。ですが、ある日、小中学生向けの某ファッション雑誌を読んだことをきっかけにそのモヤモヤが一掃されます。

その雑誌には、編集部の方が読者から寄せられたお悩みに答えるといったコーナーがあったのですが、まさに私と同じような疑問を持っている読者からのお悩みが載っていたのです。

質問者は当時の私よりも少し上の小学校高学年の子。ティーンズラブ(TL)の性描写を見て、セリフに登場した“痛い”とはどういうことなのか、そして大人になったらみんなこういうことをするのか……? という、まさに私と似たようなモヤモヤを抱えていました。

それに対して編集部の方は「まず、相手が嫌がっていることを無理矢理するのは絶対にあってはならないこと」とキッパリ。さらには性行為とは何なのかと丁寧に説明をした上で「そもそもそのマンガは対象年齢じゃないよ」と。最後は「マンガに描いてあったからといってそれが本当だと思わないで」というような文脈で締めくくられていました。

改めてこの質問コーナーの全文を読み直したいなと思う今日この頃ですが、この出来事をきっかけに、当たり前のことのようで実は理解できていなかった“現実とフィクションとの区別”を明確に意識するようになりました。

アレやコレを自然と受け入れる上で欠かせない、他者との介在

その後、「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」といった少年誌の世界に足を踏み入れることになりますが、そこでは性的な部分を強調した女性キャラクターの描写など、少女マンガとはまた毛色の違う表現と出会いました。

でも、その時に私の脳裏をよぎったのは、あの日、偶然手に取ったファッション雑誌で自分の中にインストールされた “現実とフィクションとの区別”。だからどんなにエロかったりグロかったりしても「まぁ、マンガだし」と。マンガとちょうど良い距離感を保ちつつ、しのぶさんが仰るようなアレやコレを自然と受け入れて学ぶことができたように思います。

マンガは一人でも楽しめる最強のエンターテインメント。ですが、やっぱり他者の介在がなければ、マンガで描かれるアレやコレを歪んで受け取ってしまう可能性があると感じています。その他者とは、私の場合は顔も名前も知らない雑誌の編集部員の方でしたが、人によっては親や兄姉、友達、あるいはSNSで繋がったフォロワー、はたまたネットで運命的に出会ったレビュー記事かもしれません。

というわけで、小学6年生の男子にマンガだけ渡して性的描写を良い感じに理解してもらうのはかなりハードルが高い……という回答になってしまうのですが。それを踏まえた上で板垣巴留先生の『BEASTARS』という作品を紹介させてください。

肉食獣と草食獣が繰り広げる青春群像劇『BEASTARS』

物語の舞台は肉食獣と草食獣が共存する世界。キャラクターは全員擬人化された動物たちで描かれていて、主人公はハイイロオオカミのレゴシという少年です。ある日、彼が通う高校で草食獣であるアルパカの生徒テムが肉食獣に殺されるという”食殺事件”が起きてしまいます。レゴシが大型の肉食獣であること、また彼の性格が災いして食殺事件の犯人だと疑われてしまうのですが、果たして真犯人は誰なのか……? 食殺事件を軸に動物たちが繰り広げる青春群像劇を描いた作品です。

この作品のユニークな点は、クラスメイトたちは友達であると同時に「食う」「食われる」という歪な関係性の上に成り立っているところなんです。本能的に考えると肉食獣にとって草食獣は捕食対象であるけれど、友達だから食べてはいけない……。そんな一瞬で崩れてしまうような危うさを孕んだ世界を舞台に描かれるのは、動物たちが対立したり、反対に種族を超えて友情や愛を育む様子。息子さんがお好きな『カムイ伝』『ブラック・ジャック』『火の鳥』『PLUTO』『進撃の巨人』と同じように強烈な生と死の匂いを感じる作品なのできっと刺さると思います。

そして、『BEASTARS』には生と死だけではなく性的描写も登場します。

本作には、草食獣であるドワーフウサギのハルというヒロインが登場するのですが、彼女は常に明るく品行方正に振る舞う一方で、性に対してかなり奔放で学園内の色々な種族の動物と体を重ねている……という一面を持ちます。

どうしてハルは誰かれ構わず体を重ねているのでしょうか?

そして、レゴシはそんな彼女に段々と心惹かれていくのですが、肉食獣と草食獣……。

異種族の間で本能的な“食欲”を凌駕するほどの愛を育むことは可能なのでしょうか?

『BEASTARS』では、性的描写はもちろん、全てのシーンやセリフがまるで“真実を映す鏡”のよう。肉食獣と草食獣が共存する世界で描かれる命懸けの異種族交流は、実は私たち人間の中にある隠しきれない欲望や本性をじわじわと炙り出します。

「あのシーンどう思った?」「私はこう思うんだけど」と、読み始めたらきっと誰かに語りたくなる……。自分ではない他者を介在させたい、いやせざるを得ない、それが『BEASTARS』です。

マンガを通して他者と意見を交わす。その積み重ねによって、アレやコレが歪むことなく自然に入っていくようになるのだと思います。

文/ちゃんめい

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