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暇なときには手を打つな【絵で食べていきたい/第20回】

日々の仕事をこなしながら、次の手を考えて地道に営業や発信を続け、新しい畑も耕している。それでも暇になってしまうことはもちろんあります。そういうときは誰でも不安です。今回は、私なりの不安や焦りの乗り越え方や対策を書きました。

売れっ子にも不安や焦りがある

駆け出しのころの話です。当時50歳ぐらいのベテランコンテライターの先輩がいました。コンテライターとは、テレビCMなどの完成イメージを共有するための絵コンテを描く人です。

その先輩はひっぱりだこ状態でいつも忙しそうでした。その人が雑談中に、「3日も新規の依頼がないと、もう自分はダメなんじゃないかって不安になるね」と言ったのです。私は「こんなベテランの売れっ子でも、たった3日依頼がないだけでそう思うんだ!」と驚き、「だったら私が暇になって焦るのは当然だし、こういう気持ちはこれからもずっと続くんだな」と覚悟しました。

どんなベテランでも暇になるし、暇だと不安になる。どうしようもないことだと覚悟はしていても、仕事が途切れればやはり焦ります。しかも焦りを覚えるのは暇なときだけではありません。

・営業を続けてもなかなか最初の仕事がとれない
・ある程度安定してきたが、そこから仕事が増えない
・連載をもつ、雑誌の表紙を飾る、取材してルポマンガを描くなど、やりたい仕事に手が届かない
・新しい場所(仕事先や講座など)にチャレンジしても門前払いされる
・イラストエージェンシーの審査に落ちて登録できない
・コンペに立て続けに落ちる

そしてこういうときほど同業者の華々しい活躍が目に入って、さらに落ち込みます。ポジティブになろうと自分にいい聞かせても、焦りはなかなか消えてくれません。

焦りのあまり、やらなくていいことに手を出して後悔したこともあります。

ここでは、私の経験から、焦ったときにすべきでないこと、逆に暇なときにこそしたほうがいいことについて書きます。

焦るとやりがち、だけどしないほうがいいこと

不安で焦っていると、何か急いで成果をあげねば! とか、イラストですぐに変化が起きないなら、別のことでもいいから稼がなければ! 成功しなければ! と心がゆれることがあります。

以前友達と話していたときに、この精神状態を表現する「フラワーアレンジメント講座問題」という言葉が生まれました。もちろんフラワーアレンジメント講座に問題があるという意味ではありません。そのころ流行っていた、おしゃれで人気の新しい職種全般の代表例です。こういう職種の講座の広告などが目に入ってきて、「この資格をとったら人生が変わるかな……」と、気持ちがよろめいたりする、そういう心の状態を指します。

私は仕事が停滞したとき「テーブルコーディネーター講座」のサイトをぐるぐる回って見たことがあります。もともと食器にもインテリアにも興味がないのに。「サロネーゼ」という言葉が流行ったころでした。一方友人は、経理が大嫌いなのに「会計士の資格をとろうと思う」と言い出しました。

他にも、ネットオークションやフリマサイトで稼ごうとしたり、気がつけばアフィリエイトブログや、SNSで集客して大儲け、といった広告を読みふけったりしました。おかげでああいう広告に人が引き付けられるのはどんなときか、またどんな言葉が魅力的に響くのか、よくわかります。

もちろんこれらの仕組みが悪いのではありません。フリマサイトで物を売れば、臨時収入になり、部屋も少しすっきりします。新しい資格をとれば役に立つこともあるでしょう。

でも、そのきっかけが「うまくいかないことへの焦り」で、行動の目的が「問題からの逃避」や「現状の一発逆転」である場合は、取り組むことが何であれ結果はあまりよろしくないことが多いのです。

こういう心理状態のときは逃避先にも歓迎されないものです。まったく自分の好みではないのに「ここなら採用されそう」と応募した案件に落とされたりします。相手もしっかりこちらを見ているのです。

邪魔をしているのはプライド?

仕事を続けていれば、うまくいかない時期は必ず訪れます。波があるのは当然ですが、自分が原因を作っている可能性もゼロではありません。

逆の立場で考えてみましょう。一時はよく利用していたお店が気づいたら閉店していて、残念に思いながらも「そういえば最近行ってなかったな」と思った経験は私にもあります。そのお店に不満があったわけではありません。本当に、単に行かなくなった、思い出さなかっただけです。

この「なんとなく忘れられていた」はよくあるだけに怖い状態です。自分の存在を思い出してもらうために、年賀状でもニュースレターでも、SNSの発信やイベントのお知らせでも、とにかくちょこちょこ「相手に顔をみせる」努力が必要ではないかと思っています。

しかしそれでも暇になり、しかもその停滞期が長引くとき。原因の一つに「無駄に高くなったプライド」があるのではないかと思います。その結果こんな状態になります。

・すでにある程度の仕事をしているのだから、いまさらまた持ち込みや営業などする気持ちになれない。もし断られたら立ち直れないから。

・以前よりも、仕事相手から大事にしてもらえていない気がする。安い仕事を頼まれるだけでなんだか腹が立つ。

・忙しさを理由に仕事相手への配慮が知らず知らずのうちに欠けていた。
・自己評価と他者からの評価のバランスがとれていない(自分では求められているスキルや実績が十分あると感じていても、相手からはそう見えていない)。

そもそも本当に自分に自信があるならば、他人の態度に一喜一憂することはないし、仕事をもらうために頭を下げることなど、ちっとも気にならないはずなのです。

ある友人は、仕事が減ってしまった上に急な出費が重なり、まとまったお金が必要になったとき、知り合いに一斉に状況を話して仕事をまわしてくれと頼んだそうです。おかげで受けきれないほどの仕事がきたけれど、こちらが頼んでまわしてもらった仕事だからと、すべてを受けて、相当無理をして仕上げたそうです。

この話をきいて、本当に困ったらこういう手をとればいいし、プライドがどうの、相手の態度がどうのとぐずぐずしていられるのは、まだまだ危機感がないからだなあと思いました。

そこまでできないならば、つまり心底困ってはいないのです。そんなときはむしろ、先に書いたような余計なことはしないほうがいいのです。

暇なときこそやるべきこと

というわけで、仕事がなくて暇になった、なんだか停滞していると感じたら、私は「遊ぶか休む」と決めています。

フリーランスは、仕事とプライベートとの境目がはっきりしません。また、突発的な予定変更にもよく振り回されます。「あ、その日に変更されてもできません」とサラっと言えない性分ならなおさらです。なかなかふらりと旅行などにも行けません(なのでどうしても行きたいイベントや旅行は、先にチケットを取り、予定を組んでしまいます)。

だからこそ、ふいに時間が空いたらそこで思い切り遊んだり、心置きなく休んだりするのです。焦ってじたばたするより、気になっていながら行けなかった場所や話題のスポット、やりたいことに時間をつかいます。もちろん絵を描いてもいいです。

そして新しい趣味にせっせと励んでいたら、周りから「それ、面白いですね」と興味を持たれ、結果的に仕事につながることもあるのがフリーランスの面白いところです。

実際、私も趣味のつもりではじめたことが仕事につながりました。簡単にできる「肉なしレシピ」を考えるのにはまり、ブログに書き続けたものはコミックエッセイとして書籍化されました。また、宝塚歌劇をきっかけにできた観劇仲間経由で、別の演劇の公演ポスターを依頼されたこともあります。

もちろんなんでも仕事につながるわけでも、いきなり大きな仕事が来るわけでもありません。でも、純粋に好きなことなら仕事にならなくてもまったく困りません。

そしてもう一つ大切なことは、暇になったらよく休むことです。忙しい山場を越えた後、心身は結構疲れています。新しいことに情熱がわかないのも当然です。そんなときは潔く休んで自分のメンテナンスをしましょう。

せっかくの「休める休日」に、ダラダラと何もせず、1日が終わってしまうことがよくあります。そんな日は、何もできなかったと落ち込むのではなく、休日らしくゆっくりしたと思うことにしています。

キャリアは上がっても、体力は落ちていきます。体調が悪くなってもフリーランスには有給もないし、代わりに引き受けてくれる同僚もいません(本当に必要なときは探しますが)。いざというときに少しでもふんばれるよう、自分を気遣ってあげるのもとても大切です。好きな仕事を長く元気に楽しく続けていられるように、堂々とお休みして、英気を養いましょう。

焦らないためにやっていること3つ

ちなみに、周りが忙しく見えて不安で焦ってしまうとき、すぐできることが3つあります。

1つ目は、情報をシャットアウトすること。SNSなどはあまり見ない。見なければ、他の人の華々しい活躍にも気づきません。

2つ目は、身近な同業の友人と話すこと。皆だいたい似たようなもので、同じ悩みを抱えています。今忙しい人もちょっと前まですごく暇だったとか、忙しく見える人も実は全くお金にならずに困っているとか、外から見える様子とは違う実情を教えてくれます。そして「大丈夫、すぐ忙しくなるよ」とか、「私も暇だから遊ぼうよ」などと言ってもらえば、だいぶ気持ちが落ち着きます。

3つ目は、自分の今の状態や気持ちなどを書きだすことです。ノートなどに日付を書いて、不安だとかもうダメだとか、弱音でもなんでもとにかく書きます。書いているうちに、本当はこれをしたいとか、あれはしたくないとか違うことを考え始めたらそれも書きます。

書いているうちに不思議とスッキリして気分が落ち着いてきます。このノートのいいところはそれだけではありません。一年前の同じ季節のページを見ると、似たようなグチを書いていた……など、自分の傾向とパターンが見えてくる場合があるのです。そういえば、前もこれを書いた後にすごく忙しくなったな、などと気づくとそれだけで少し冷静になれます。

自分の陥りがちなパターンを知って、不安と焦りのループを延々と繰り返さないようにする。これも長く仕事を続けるコツの1つかもしれません。

文/白ふくろう舎

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