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仕事も家庭も持つ大人たちが20代に戻って踊りまくる。『岡村靖幸 2022-23 AUTUMN-WINTERツアー「アパシー」』千秋楽を観て

人生で5回は岡村靖幸のライブに誘われてきた。「行く」と答えてからやんごとない仕事が入ってしまったり、もともと別件が入っていたりして、どうにもこうにも参加するチャンスがなかった。それが2022年7月20日、友人に誘われるままに赴いたLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)の『岡村靖幸 2022 EARLY SUMMERツアー 美貌の彼方』で、私はエンタメ土壺にハマってしまう。ライブが終わった頃には、ひとりでにこんなことを言っていた。「もしも岡村ちゃんのライブが毎週末あったら、多分全部行ってる」。「岡村ちゃんのライブがあれば、もうフジロックに行かなくていいかも」。

音楽に身を委ねて、夏にひと踊りしないと、年の後半を生きられそうもない。FUJI ROCK FESTIVALが開催されてからというもの、重度の夏フェス依存に陥っていた私が「フジロックより岡村ちゃんがいい」と言う。理由はフロントマンの岡村靖幸がスーツ姿で私よりも遥かに踊っていて、フロアのベイベ(ファン)を本気で踊らせにかかっているから。岡村ちゃんを迎え撃つベイベたちも、「デート」という設定の彼のライブに気持ちいいくらいにハマりに来ているから。MCはほぼなく、岡村ちゃんのお着替えタイムも、タイトでグルーヴィーなバンドメンバーがソロパフォーマンスでその腕を見せつけるから。そして岡村靖幸のギター弾き語りあり、珠玉の洋楽カバーありと、ディナーショーの要素まで兼ね備えているからだ。

ファン同士の同調圧力もなく、ベイベたちは思い思いに踊っている。ダンサー2人を従えた岡村ちゃんは、車掌さんの指差し確認みたいなタイトなダンスをやたらキレッキレで魅せている。踊りながらでもものすごく声が出ているし、色気、可愛さ、ちょっとエッチな要素をファンクやダンスビートに乗せて、蝶の鱗粉のごとく客席に振りまいている。しかも『だいすき』『家庭教師』などの往年の代表曲はいつもアレンジが凝っていて、「はー、今日はそう来たのか!」とライブに来るたびに唸らされる。

岡村ちゃんのライブ初参戦から半年。中野サンプラザで行われた1月31日の『岡村靖幸 2022-23 AUTUMN-WINTERツアー「アパシー」』の千秋楽は、マスクを着用しながらのファンの声出しがついに解禁となった。

最初のナンバー『新時代思想』が流れると、私も含めベイベたちは一斉に叫ぶ。「ぎゃああああああ!!」。溜まりに溜まったコロナ禍2年分のファンのエネルギーが、舞台上の岡村靖幸をダイレクトに射る。歓声を受けた岡村ちゃんがキレッキレで歌い踊る。会場の空気が循環する。今年7月に閉館してしまう「中野サンプラザ」の会場名を、何度も何度も彼が口にする。曲が終わる。女性ファンの歓声の中、野太い男性ベイベの「ヤスユキーーーーー!!」が突き抜けていく。

新型コロナウイルスの度重なる感染拡大とウクライナ侵攻で、新しい情報に対して徐々に無関心になっていった私たちファンの日常。岡村ちゃんは無気力という意味の「アパシー」をツアータイトルに冠しながら、最終日の会場で世相と真逆の光景を見せた。コロナ前の当たり前をベイベたちが取り戻しているからか、充実した表情で歌い踊る岡村靖幸の牽引力がいつもより強いからか、中野サンプラザには得も言われぬ一体感があった。岡村ちゃんは50代で、ファンも40〜50代が中心。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた世代が、日常の煩わしさをいったん忘れ、喜びを爆発させながら好き勝手に踊っている。そうだよ、去年になって急にどハマりした理由は、岡村ちゃん個人の魅力だけじゃない。このベイベたちの自由で気ままな空気が好きで、私はこの仲間に入りたかったんだよ。

夏フェスでもなかなか味わえないアーティストとファンたちの濃密な気の交流。この雰囲気、会場ごとジップロックに入れて持ち帰りたいなと思ったら、本編ラスト『Super Girl』のソロダンスタイムで、なんと57歳の岡村ちゃんが側転!! それを見て、今日一番の金切り声が出てしまう。「いやーーーーーっ、私も痩せるーーー!!」

ついにアンコール。「今日はスペシャルゲストが来てくれているよ。この曲でギターを弾いてくれた人だよ」との岡村ちゃんの声に促されて彼の横を見ると、Corneliusがいた。彼の長年のファンである私は、喉の血管がブチ切れそうなレベルで叫んでしまう。ナンバーは『成功と挫折』。五輪のあれやこれやですっかり痩せた小山田圭吾が、攻撃的でディストーション増し増しのギタープレイで魅せる『成功と挫折』。なんの因果だ、これ。あんなに攻撃的にかましたのに、最後は岡村ちゃんとバンドメンバーとベイベたちに「戦前の日本人かよ!」ってくらい深々とお辞儀をして、小山田圭吾は黙って帰っていく。2曲後の『ア・チ・チ・チ』の間奏部分、「今日のスペシャルゲスト、どうだった?」の後に「スペシャルだったねぇ〜?」をもう中学生の「ためになったねぇ〜」のトーンで言う岡村ちゃん。叫んだり驚いたりニヤニヤしたり。人間の持つプラスの感情がこの2時間半のライブで、私、全部出たよ。

2回目のアンコール、ラストナンバーの『ビバナミダ』が終わると、岡村ちゃんとツアースタッフ全員が会場のファンをバックに写真を撮る珍しい流れになった。長い写真撮影が終わると、下手に捌けていこうとする岡村ちゃん。帰ってほしくなくて、彼の名前を連呼する私。ベイベたちの様子を見て、中指と薬指と小指をヒラヒラと動かして上品に手を振る岡村靖幸。下手の前から5列目というかぶりつきの席で観ていただけに、今日こそ岡村ちゃんと目が合ったと思うんだけどなあ。絶対私を見てたと思うんだけどなあ。無数のベイベたちに勘違いさせる岡村ちゃんはやっぱりジゴロだ。そして会場2200人の寵愛を1人の男が一身に受け、ラストナンバーで舞台上から溢れんばかりの投げキッスを会場の隅から隅まで浴びせかける。お寺の常香炉で線香の煙を浴びるように、気づいたらもう、岡村ちゃんの投げキッスを頭に浴びる仕草をしているのだから、本当に生まれながらのジゴロは恐ろしい。

ライブの興奮が冷めやらぬベイベたちは中野駅前でダベったり、中野サンモール商店街の飲食店に吸い込まれたりする。普段はみんな、家庭や仕事がある真面目な人たちなのだ。でも岡村ちゃんのライブの後は、20代のときと同じような行動をしている。それもこれもフロントマンである岡村靖幸が飽くなき音へのこだわりと探究心を持って、57歳になってもなお、青春真っ盛りの瑞々しさを継続させて生きているからだ。コロナ禍でもいろんなライブに行ったけれど、「大人として日常のやるべきことはやりつつ、時には20代の頃のように沸き立つ感情を思い思いに爆発させてもいいんだ」と思えたライブは岡村ちゃんのところだけだった。ベイベの皆さん、次は6月からの『岡村靖幸 2023 EARLY SUMMER ツアー』でお会いしましょう。それまでしっかり働きましょ!

文/横山 由希路

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