進化する図書館について熱く語る フリーライブラリアン・広瀬容子【CORECOLORメンバーリレー連載/第2回】
CORECOLORは、さまざまな業界に深く入り込んで取材をしたり偏愛を追求したりする個性豊かなメンバーで運営しています。
ここではその業界に精通したメンバーならではの、業界あるある面白話や、知っておくとお得な情報を、現場からお届けします。
第2回は、図書館業界で仕事をして35年、フリーライブラリアン広瀬容子さんが、知っていそうで知らない今どきの図書館基礎知識を教えます。
こんにちは。フリーライブラリアンの広瀬容子です。「フリーライブラリアン」というのはこの業界のごく少数の人が勝手に使っている肩書なのですが、図書館(ライブラリー)で働いてはいないけれど、司書の資格を持ち、そのスキルを使って多方面で仕事をしている人とご理解ください。
大学で図書館・情報学を専攻してからはや35年。私は図書館をとりまくマーケットでずっと仕事をしてきました。図書館とひと口に言ってもその種類はいろいろ。おそらく多くの人が思い浮かべるのは、町なかにあって誰もが原則無料で入ることのできる図書館、いわゆる公共図書館ではないでしょうか。今日はその公共図書館について、業界の人には当たり前、でも一般には意外に知られていない情報をお伝えします。
ここだけの話① 公共図書館の本、その予算はどこからくるの?
公共図書館はタダで入館できる上、タダで本やCDが借りられ、イベントもタダ、もしくは実費だけで参加できる。なんとなく公営の娯楽施設のようなイメージがありますが、実はれっきとした社会教育施設です。所管は一部例外もありますが、各自治体の教育委員会。本を買うお金は「社会教育費」の中の「図書館運営費」の中の「資料費」から支出されます。その額は自治体の規模や政策によってピンキリです。都道府県立の図書館でも上は年間3億から下は1700万円と幅があり、市区町村立図書館の約5割は予算100万円以下。しかもこの資料費には本だけでなく、雑誌やCD、貴重書、郷土資料なども含まれる。ですから、ほとんどの図書館は予算的に厳しいのが現実です。
ここだけの話② 公共図書館の本、誰がどうやって選んでいるの?
限られた予算で必要な本を選んで買う、これを「選書」と呼びます。この選書に関連して時折議論になるのが、何百人もの予約人数に対応するため、人気の本や話題の新刊、文庫本などを複数冊購入する「複本」。実は多くの公共図書館ではこの複本の扱いも含め、明文化した収集方針をウェブで公開しています。「収集方針×〇〇図書館」で検索してみると、「担当職員で構成する選書会議で選定し、館長が決定する」「複本の基準は別に定める」「図書館員の個人的な関心や、好みによって選択しない」といった具体的な記述が見つかりますよ。
選書の方法はいくつかあります。たとえば、まだ購入が決まっていない本を実際に手にとって検討することがあります。これは、「見計らい」といって、書店が新刊本を定期的に届けてくれるシステムです。購入しない場合はそのまま返本可能。
とはいえ、全ての本をひとつひとつ吟味するのは非現実的ですよね。そこで公共図書館の多くは、民間企業が提供する選書用リストでの”カタログ注文”を併用しているんです。実はこれ、かなり至れり尽くせりのサービス。契約にもよりますが、注文した書籍は、ラベル貼りや表紙のコーティング、管理バーコードの付与など、図書館の書棚に並ぶまでに必要な装備が全て終わった状態で納品されます。さらには本を検索するためのデータもセットでついてくる。このほか、お勧め本を分野ごとに見繕ってリスト化し、在庫切れを起こさずタイムリーに納品するオプションなども用意されています。選書も含め、昔は司書の仕事とされていた仕事は民間サービスに移行し、司書の業務内容は変化しつつあるのです。
ここだけの話③ 司書ってなに? どうやったらなれるの?
この司書という肩書、国の法律である図書館法上では「公共図書館で働く『司書資格』を持った職員」だけに使う肩書だということはあまり知られていません。公共以外の図書館では、司書資格は必ずしも必須ではないのです。司書ではなく、「図書館員」とか「図書館職員」といった肩書を使うことが多いですね。ちなみに英訳はどれもLibrarianです。
司書資格を取得するのに国家試験はありません。資格課程を設けている大学・短大が国内に190校ほどあり、ここで13科目24単位を取れば自動的に取得できます。講義の内容ですが、一般の人がイメージするような本の貸し出しや選書に関する内容はほんの一部。IT、資料保存、データベース、情報検索、レファレンス、著作権など多岐にわたります。しかし、時代の要請とカリキュラムの内容に若干ずれが生じてきていることも否めません。だからこそ司書さんは実際の現場で相当な経験を積む必要があります。カウンターで貸出業務や読書相談に応じるだけでは「貸本屋」のそしりを免れない。そこで住民の「困りごと」を解決できるようなサービスに力を入れる公共図書館が増えているのです。家族が病気になった、経済的に困窮している、お隣と訴訟になった等々、日々の困りごとは人それぞれ。もちろん図書館は病院でもなければ法律相談所でもありませんので、直接問題を解決するわけではありません。その代わりに信頼のおける情報ソースを示したり、専門機関や専門家についての情報提供を行うことで、解決の一歩を踏み出せるようなサービスを目指しています。
ここだけの話④ 公共図書館は今や本だけの場所じゃない。
このように、公共図書館は今や本を貸し出すだけの場所ではなくなりつつあります。民間企業やNPOが運営を任されるケースも増え、競争原理が働いたことで新しい価値創造への取り組みが各地でなされています。
今から10年前、佐賀県の武雄市にリニューアルオープンした武雄市図書館は、カルチュア・コンビニエンス・クラブの手掛けるスタイリッシュな空間やカフェと書店を導入した斬新なアイデアで、保守派の大批判も含め様々な議論を巻き起こしました。しかし今ではこうした居心地や本以外の価値を追求する公共図書館が全国に増えています。一方で、鳥取県立図書館のように司書の調査能力を最大の強みと位置付け、ビジネスパーソンや起業を目指す人向けの情報提供やセミナー、認知症予防ための音読教室など、従来の図書館のイメージを払拭するようなサービスも各地で展開されています。
ここだけの話⑤ どの図書館に何の本があるか、一発でわかる方法はこれ!
公共図書館には欲しい本がない、だから行かない。こう考える人もいるかもしれません。でも他館から取り寄せも可能。図書館は単独で活動しているわけではなく、全国の図書館、団体、関連機関と幅広く協力、連携しています。
では、どの図書館になんの本があるか一発で調べる方法はあるのでしょうか。はい、あります。国立国会図書館が公開している検索サイト、通称「NDLサーチ」がそれ(https://iss.ndl.go.jp/)。国立国会図書館をはじめ、全国のおもだった公共図書館・大学・専門図書館など、どの機関が何の本を所蔵しているかが一発でわかります。全国の図書館の蔵書情報と貸し出し状況を簡単に検索できるサービスもおすすめ。その名も「カーリル」(https://calil.jp/)。こちらは複数の図書館の所蔵を指定して横断的に検索できるサイトです。
公共図書館は税金を使って多様なサービスを提供するところ。赤ちゃんからお年寄りまで誰でも無料で利用できます。コロナ禍以降、電子図書館の導入も進み、家に居ながらにして貸出利用ができる図書館も増えてきました。ご自身の住んでいる地域や職場近くの図書館のホームページを一度チェックしてみるのもよいかもしれません。
フリーライブラリアンの広瀬容子でした。現場からは以上です。
広瀬 容子 フリーライブラリアン。学校司書を経て、民間企業で大学・公共図書館向けの日本語データベースの制作・営業を担当。2003年米国に留学、大学図書館でレファレンスライブラリアンとして働く傍ら、図書館情報学修士号を取得。帰国後は外資系情報サービスベンダーで大学図書館や政府系研究機関に向けた論文検索データベースなどを提供。2015年独立。公共図書館指定管理のアドバイザリー業務や研修、海外からの視察プランニングなどの取り組みを行う。著書に「ライブラリアンのためのスタイリング超入門:キャリアアップのための自己変革術」(2018,樹村房)など。