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あなたの隣にいるかもしれない!? 「山伏」の世界を御覗きください【CORECOLORメンバーリレー連載/第3回】

はじめまして、キャリコン山伏の渡辺清乃(わたなべきよの)と申します。普段は、株式会社ホリスティック・キャリアという会社の代表として企業や自治体にお邪魔し、キャリア開発や部下育成、メンタルマネジメントなどの研修をしています。同時に、山で修行をする行者=山伏でもありまして、修行シーズン(主に夏)には、師匠の助手として山に入る方々のサポートをすることもあります。
ところで皆さま。山伏ってご存知でしょうか……(自信無し)。実はよく、「初めて聞きました」「現代にもいるんですね」と言われたりしております。私も、2017年に初めて修行に参加するまでは、その存在すら知らなかったほどの未熟者ではありますが。これを機に!我ら山伏がこの世にいることを知っていただけましたら、大変に幸甚でございます。ようこそ、山伏ワールドへ♡

【山伏とは?】

人智を越えた力(験力=げんりき)を得るために、山へ入って厳しい行をする日本古来の教え「修験道(しゅげんどう)」。国土の7割が山である日本は、もともと山を神とする山岳信仰が盛んで、山形県出羽三山、奈良県大峯山、和歌山県熊野三山、福岡県英彦山など、日本全国に霊山=修行場が存在します。山は「亡くなった人の霊が還る場所」「神様のお身体」という考え方もあるため、山伏修行をすることは擬死再生(ぎしさいせい=生まれ変わり)の意味も持っています。山岳信仰、神道、密教、道教、陰陽道などを包括しながら発展した修験道、その修行者が「山伏」です。

ここだけの話① 「山伏=屈強な男性」は過去のイメージ

「山伏」と聞くと、「ああ、あの!」とイメージがつく方、「??」となる方に分かれます。たとえば天狗さんや歌舞伎の勧進帳に出てくる弁慶さんなどをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。山に入り、藪をかき分け進み、岩をよじ登り、滝に打たれ、大木や岩に向かって祈りを捧げる……。山伏が身を投じる山岳修行は、古来よりその荒行から「猛々しい男性の修行」というイメージを持たれてきました。加えてかつては女人禁制の世界。山伏の存在を知る方でも「女性でも山伏になれるんですね!」と驚かれたりします。確かにかつては女人禁制でしたが、現在は女性山伏も各地に存在するようになりました(山の中で一部、女人禁制のままのエリアが残っていたりはします)。

なお、女人禁制の由来はいろいろと説があり、「危険だから」「女性は穢れの存在だから(生理がある=血=死を連想させる)」「修行の妨げになるから(男性の欲を刺激するため)」などと言われています。私が正式修行をさせていただいた山形県・出羽三山神社では、時代の流れを鑑みて1993年から女性にも正式修行の門戸を開きました。このように、女性山伏が誕生した歴史はまだ浅いため、山伏界は女性活躍推進業界でもあるのです!(地域によって歴史は違います)。そうそう。ジェンダーに関係なく、「平日はビジネスパーソン、週末は山伏」というデュアルライフを送る方も結構いらっしゃいます。山中に定住しない山伏たちを「里山伏」と呼びますが、現代っぽく言うなら、「街山伏」かもしれませんね。

ここだけの話②「山伏で食べていけるの?」とよく聞かれます

ところで先日、MBAを持ちバリバリビジネス界で活躍する友人から「で、山伏はどうやってマネタイズしているの?」と聞かれました。お財布事情、実はよく質問されます。山伏として活動している方々のパターンは、私の知る限り「専業・兼業・自己鍛錬目的」の3タイプ。この場合の「業」は、「金銭の授受が発生する」という意味としますね。専業山伏は、神社か寺院に所属して専門職(神職or僧侶)として活動していたり、フリーランスとして行者を指導したりご祈祷したり。私の師匠はお山のふもとで宿坊を営み、夏の間は行者さんをお山にお連れし、冬になると宿坊に紐づく霞場(お寺でいう檀家さん)巡りをして、新年のご祈祷をしてまわっています。いわゆる「仕事として山伏をしている」のはこの方々です。

「兼業」山伏たちは、いろいろなスタイルで活動しています。弟子仲間には、地域活性の一環として山伏修行を提供する会社を経営している方がいたり、農業をしながら山伏修行の場を開いている方がいたり。街山伏の私は、山伏として書籍を出したり、トークイベントをしたり、修行の場を開いたりしている時は金銭のやりとりが発生していますので「兼業山伏」ですが、そもそも山伏は「仕事」というより「生き方」だと認識しています。なお、街山伏の中には、自身の鍛錬のためだけに修行をしている方も少なくありません。

ここだけの話③ 山伏は「白」を探しまくる

先述の通り、山で修行することは一度死んで生まれ変わる=擬死再生を意味します。私が修行している東北の山では、「死装束」を模した真っ白な装束で修行に入ります。それに合わせて、リュックやレインコート、防寒着、下着などもできるだけ「白」が推奨です。

ところが、山用グッズは遭難時に目立つようになんでしょうね、基本的にカラフルなものが多いので、白い製品を探すのが至難の業です。私が現在使っているのは、モンベルの白リュック。パタゴニアの白フリース。レインコートは以前から持っている登山用のものが使い勝手がいいのでそのまま使用していますが、ブラウン×ピンクです。なお、モンベルは少しだけ、修行者向きグッズを作っておられます(なんとニッチな!)。

たとえば、昨年、四国のお遍路に行った際は、モンベルのフィールドアンブレロを菅笠(すげがさ=右下のグレーのもの)の現代版として購入いたしました。ほか、通気性の良い素材で作った作務衣もあるそうです。

もちろん、修行場近くには山伏グッズ専門店もありますが、どちらかというと伝統的なお品が中心。登山用商品の機能を残して山伏修行用にアレンジ……というプロダクトの誕生が切に待たれます(私から)。

そんな山伏グッズの中でも、一般の方にまで広まっているのが、「地下足袋」。ソールの素材やデザインなどの進化が目覚ましく、伝統と革新が入り混じる山伏グッズのひとつです。「修行の際は地下足袋」とお話すると、一般的にはとび職の方が履いている黒くて足裏が薄いゴム貼りの地下足袋を想像する方が多いのですが、私が愛用しているのは(もちろん)白で、ソールにエアークッションが入った歩きやすいお品(「エアー入り禁止」の修行場もあります)。購入先は、ワークマン(実は山伏の中にはワークマン愛用者多し)や各ホームセンター、「お祭りグッズ」を謳っているネットショップなど。メーカーでは「丸五」が有名です。

登山靴と地下足袋の圧倒的な違いは、「地面の近さ」感覚。足首をしっかりホールドしてくれる登山靴もいいのですが、細かな岩場、滑る川の中などを歩く修行では、細かい動きが利いてとっさの反応もしやすい地下足袋の方が私は心地よいです。

ちなみに、山伏じゃなくても、地下足袋を愛用している方をチラホラお見かけします。先日は、「フランス旅行に地下足袋を持っていき、街を地下足袋で歩いた」というツワモノ女子に出会いました。歩きやすい、とのことです。こんなニーズに応える、素材がやわらかくて街歩きにも使えるスニーカータイプの地下足袋もあったりします。

地下足袋メーカーの老舗・丸五「Tabiシューズ」シリーズ

地面をつかんで歩いている感覚が味わえる地下足袋を、多くの方に試してほしい!

ここだけの話④ 山伏は「そこにあるもの」でまかなう

現代に合ったグッズのお話をしたものの、やはり伝統装束。本当によく考えられています。登山と違い、修行では「万全の備えをせずに」身一つに近い状態で山に入るんですね。身に着けるのは装束、リュックにはお水や雨具など最低限の荷物のみ。ですから、山中で緊急事態が起きた時は、装束をうまく活用して対応するのです。たとえば、けが人が出た場合は頭に巻いている白い布(宝冠)を三角巾や包帯の代わりにしたり、腰に巻いている「螺緒(かいのお)」というロープと杖(金剛杖)でタンカを作って人を乗せたり。私の修行場では女性はつけませんが、おでこにつける「頭襟(ときん)」という丸い頭巾は万能で、忍ばせていたハンカチを出して汗を拭いている人(ポケット!笑)や、コップにして水を飲んでいる人を見かけたこともあります。

西の山伏の友人・螺声さんと。彼がおでこにつけているベージュの丸いものが頭襟。私が手に持っている法螺貝も山伏ならではの持ち物です

ちなみに、アメリカ・アリゾナ州にあるネイティブアメリカンの聖地・セドナへ行った際、赤い岩山に登ろうと法螺貝を持って出かけたら、現地のハイキング客に「まあ素敵!それは水筒なの?」と聞かれましたが、残念ながら法螺貝は水筒を兼ねません。吹いて音を出してお見せしたら「wow……!」とお喜びいただけました。

ここだけの話⑤ 山伏の携帯はdocomoが鉄板

これはものすごい小ネタ。修行者として山に入る時は原則、携帯電話使用禁止なのですが、師匠の宿坊で行われる修行の助手に入るようになってから、緊急事態のために山中へも携帯を持参するようになりました。初めての助手の日。兄弟子から「清乃さん、携帯キャリアどこ?」と聞かれ、「◎◎です」と答えると、「あー、可能ならdocomoにするといいよ」と言われました。なんでも、山中での通信が強いのはdocomoなのだそうです。案の定、私の◎◎は山では圏外。もし私が先達(修行のリーダー)で、ほかに誰も携帯を持っていなければ詰んでしまうでしょう……。今のところ、「修行スタッフ側の誰かはdocomoユーザー」という環境で修行できておりますので、まだ変えていません。だって、家族割が……!(笑) いや、いつか困りそうだし、二台持ちしようかな。ちなみに師匠に「携帯どこですか?」と聞いたら「docomo!」だそうです。

まだまだ皆さまにお伝えしたい山伏の話、いろいろあります。が、実は山伏修行って、「語るなかれ、聞くなかれ」。内容を口外してはならない、と言われています。ここから先はぜひ、体験なさってくださいね。

キャリコン山伏の渡辺清乃でした。現場からは以上です!

渡辺 清乃 キャリアコンサルタント×女山伏

株式会社ホリスティック・キャリア 代表取締役

リクルート、リクルートスタッフィング、編集プロダクション勤務を経て編集者・ライターとして独立。主に『とらばーゆ』『B-ing』『ケイコとマナブ』の編集に関わり、5000人を超えるキャリアインタビュー、3000件を超える取材を経験。2006年にキャリアコンサルタント資格を取得してゆるやかにキャリアチェンジ。企業・地方自治体などでの研修登壇は2000件を超え、新入社員から管理職、経営者まで1万人以上を支援する。人材業界歴トータル27年。長年の現場経験より、「その人にとって最適なキャリアを選択するには身体の知性を活用することが必須」と、多様な学びを重ねる。そのうちのひとつとして、2017年に出会った山伏修行に世界が反転するほどの強烈なインパクトを受け、正式修行を経て羽黒山山伏となる。2018年からは山伏としての活動も開始。2022年に愛知県鳳来寺山で新たなる山伏修行の場をひらき、一般の方々を山修行へお連れしている。

【共著書】
『野性の力を取り戻せ~羽黒山伏に学ぶ答えがない「問い」に向き合う智慧』
(日本能率協会マネジメントセンター)

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