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ちゃんめい

もしも推しと話せたら何話す?『ミワさんなりすます』に見る、愛が“滲み出る”会話とは【連載・あちらのお客さまからマンガです/第9回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、いま一番読んでほしい! と激推しするマンガをお届けします。

もしも推しと話せたらどうする?

先日、友人と居酒屋で飲んでいる時にこんな話で盛り上がりました。「もしも推しと話せたら何の話をする?」と。例えば、トークイベントや握手会、特典でビデオ通話ができたとき、自分は推しに何の話をするだろうか。

実際、推しと対峙したら感激と興奮が溢れ出して、何も言葉が出てこないかもしれないし、「新曲最高でした!」の一言が精一杯かもしれない。でも、一生に一度あるかないかの機会、もう少し血の通った会話をしたいもの。とはいえ、初対面の一般人が突然あれやこれや語り出すのも烏滸がましくない?!……という具合で、お酒も入っていたからめちゃくちゃヒートアップしました。

結局、その日は最適解というか「あ〜!  それだ! 」という回答が出ないままお開きとなったけれど、帰っている途中に、急に『ミワさんなりすます』というマンガの存在を思い出したのです。

ある日突然、推しの家政婦に!?  『ミワさんなりすます』

――ある日突然、推しの家政婦になる。いや、なりすませるとしたらあなたはどうしますか? なんだか夢のようだけど、よく考えるとかなりしんどそう……それが、『ミワさんなりすます』というマンガです。

主人公のミワさんこと、久保田ミワは超がつくほどの映画マニア。名作や新作はもちろん、マイナー作品まで網羅していて、さらには俳優のセリフや細やかな仕草までも全て脳内にインプットされているほど、並々ならぬ映画愛を持っています。

そんな彼女の推しは国民的俳優の八海崇(やつみ・たかし)。演技力はもちろん、顔、声、そして好きな食べ物や趣味といったプライベートに至る部分、つまり八海崇の全部を愛しています。この彼女の愛の重さというか、深さは推しがいる人なら思わず共感してしまうのではないでしょうか。

ある日、ミワは日々の日課である八海崇のリサーチをしていたところ(これもめっちゃわかる!)なんと八海崇が家政婦を募集していることを知ります。現実では絶対にNGなのでやめましょうという感じですが、募集ページで知った住所をもとに、ミワはこっそり八海邸へ偵察しにいくのです。

すると、目の前で家政婦として働く予定だった女性が事故に遭い、助けを呼んだりしているうちに、ミワはそのまま本物の家政婦と間違えられてしまう……そんな怒涛の展開に見舞われてしまいます。もちろん「違います」といえば良いだけですが、推しの家政婦になれる奇跡的なチャンスを手放したくない! と、ついミワのなかの欲望が顔を出し、推しの“なりすまし”家政婦になるというスリリングな日常を選んでしまうのです。

直接的に「好き」とは伝えない、愛が“滲み出ている”会話

推しと同じ空間、空気、時間を共有できる夢のような職場。この奇跡のような幸せを噛み締めつつも、ミワに付きまとうのは、愛する推しを騙しているのだという罪の意識。まるで抱きしめられながら殴られているというか、天国と地獄が常にせめぎ合っている状態が続く本作。推しがいる人にとっては1ページ毎に心臓がキュッとなる上、「偽ってまで推しの側にいることは果たして幸せなんだろうか?」と、自分と置き換えて思考したくなるような、なんとも味わい深い作品です。

そんな『ミワさんなりすます』でぜひ注目してほしいのが、ミワと八海のコミュニケーションなのです。

目の前にずっと憧れだった、大好きな、敬愛してやまない推しがいる! でも、自分は家政婦になりすましているのだから、当然ファンであることはもちろん、大好きだの、出演作の感想を伝えることも、一切許されない。というか、言った瞬間にバレて全てが終わる。推しへの愛どころか、まともな会話すら難しい状況のミワなのに、どうしてか彼女は八海から恋愛にも近い、大きな信頼を得ていく……。その理由は、ミワが八海に投げかける言葉、会話にあるように思うのです。

例えば、ミワは自らの映画愛を活かして、八海の「〇〇というセリフはどの作品に出てくるのだっけ?」という問いにすぐさま作品名を言い当てたり、会話の節々に散りばめられた映画ネタも見逃しません。また、「最近観た映画で面白かった作品は?」の質問に、自信なさげではあるものの、おすすめの作品やその推しどころについて確かな熱量を持って語る。

時には出過ぎたマネを……!  と絶望するミワですが、そんな彼女を見て八海は「知識もさることながら――愛が、ある。」と称えるのです。よくよく考えると、それは本当にその通りで、どれもこれも本当にミワが映画や八海が好きでなければ出てこない言葉なんですよね。つまり、ミワは直接的に「好き」とは伝えずに、映画や八海への愛が“滲み出ている”会話をしているのです。

推しへの”愛”が滲み出る会話

そんな愛が“滲み出ている”会話を重ねていくことで、ミワと八海の信頼関係というか、心の距離がさらに近づいていき、それによってなりすましの身であるミワはさらに苦しむというマンガ的には非常に美味しい展開となっているのですが(笑)。でも、この愛が“滲み出ている”会話があるからこそ、ミワは推しの新たな一面を知り、もっと、もっと愛が深まっていく……。そんな尊い体験をするのです。

じゃあ、愛が“滲み出ている”会話って、具体的にどんな会話なんだろう……。例えばですが、私の推しは楽曲の中に月や太陽、桜や夏といったキーワードをよく散りばめているのですが、昔とある企画でファンの方が「私の知る限り、楽曲に雪というキーワードが見当たりません。雪はあまり馴染みがないものなのでしょうか?」と質問されていました。

その質問を聞いた時に、なんて愛が滲み出ている質問なんだろう!  と私はたまらなくときめいてしまいました。だって、楽曲を全部聴いているのはもちろん、一曲一曲の歌詞をしっかりと噛み締めていないと出てこない質問じゃないですか?  つまり、推しはもちろん、推しの全てと真摯に向き合う、それゆえに出てくる言葉こそが、愛が滲み出ている会話なんだろうなと気付かされました。

当の推しは「あぁ、確かに!」と。実際のところどう思われたかは知るよしもありませんが、自分でも気付いていない自分を知った推しはどこか嬉しくも、照れくさい表情を浮かべていたし(ように見えた)。愛が滲み出ている会話は「好きです!」の一言よりも、心にじわっと沁みるものなのではないでしょうか。

ただ、この愛が滲み出ている会話ってやつは、辿り着くまでがなかなか難しいですよね。当たり前ですが、推しによって変わってくる上、まさに推す側としての力量というか、愛が試されるもの。というわけで、次回の飲み会では、推しへの愛が“滲み出ている”会話選手権を提案してみようと思います。

さて、あなたなら推しとどんな話をしますか?

文/ちゃんめい

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