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めぐリズム7枚分泣いた、今年のベスト【さとゆみの今日もコレカラ/第408回】

先日ホノルルマラソンに出たとき、スタート5キロで早くも転んで、したたか膝を打った。20キロ手前からは、どうにもこうにも膝が痛くて、エイドのたびにジップロックに入った氷を膝にぐるぐるラップで巻いてもらって、足を引き摺りながら走って(歩いて)た。

で、そんな物理的に痛かった残り25キロくらいを、わりと楽しく走れた(歩けた)のは、池井戸潤さんの『俺たちの箱根駅伝』をオーディブルで聞いていたからだったなあと思う。

物語は、箱根駅伝予選に敗退して本戦に出られなかった4年生が、学生連合に選ばれるところからスタートする。各校寄せ集め、しかもオープン参加の選手たちが、どう本戦を戦うのかの物語だ。そこに、本戦を中継するテレビ局の人たちの思いが交差していく。

上下巻で19時間分。それを20キロ手前から1.2倍速で聞きながら、歩き続けた。ゴールしてホテルに戻る道すがらも、このままもう少し聴いていたいな、遠回りして歩こうかなと思ったくらいだった。

続きは帰りのフライトで聴いたのだけれど、8時間のフライト+帰宅までの道のりをまったく長く感じなかったのは、やはり、オーディブルを聞いていたからだ。

フライト中はずっと、めぐリズムを目にあてながら聞いていたので、周囲からはずっと寝てた人と思われていたかもしれない。でも、実際は、1秒たりとも寝てなかった。上巻の後半くらいから話がぐいぐいとドラマティックになり(とくに上巻のラストは涙腺決壊)、めぐリズムの内側では30分に1度くらいボロボロ涙を出していた。
めぐリズム、7枚持っていたのだけれど、涙ですぐにびしょびしょになるから、成田空港に着くまでに全部使い切った。降りるときには、水をたっぷり吸った大量のめぐリズムが残った。

いまさら気づいたのだけれど、私は、群像劇が好きなのだなと思う。
AさんとBさんの愛の物語とか、Aさん対仲間のみんなの話とか、そういうのではなく。
たくさんの人がたくさんの人と関わって、同じ人でも幾つもの顔が見える。そういう物語がすごく好きなのだと思う。
ただ、そういう物語は、漫画でならともかく、文章で書くのはものすっごく難しいだろうと想像する。文章だけで、何十人ものキャラクターを書き分けるのである。それができる作家さんは、そう多くはないだろうと思う。

今回も、主要登場人物が40人くらいいるのだけれど、全員が知り合いのようにリアルだった。浅木俊之さんの朗読がこれまた見事で、登場人物の輪郭がくっきりと浮かび上がってきた。

渋谷についたとき、まだ2時間分オーディブルが残っていた。
いつものワインバーに行って、続きを聞こうと思ったのだけれど、さすがにバーのカウンターでイヤフォンするのは失礼かなと思って、下巻だけKindleに落として読了した。
それで思ったけれど、めまぐるしく登場人物が入れ替わって出てきても、最初にオーディブルで聴いていたから混乱せずにすいすい進めたのかもしれないなと思った。最初から文章で読んでいたら、もう少し負荷が高かったかもしれないな。

かくて、めぐリズム7枚を水没させた『俺たちの箱根駅伝』。
今年最高のエンタメでした。

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