
ウィート。グース。ミートパイ。【さとゆみの今日もコレカラ/第622回】
右に放牧された牛たち、左に一面の小麦畑。ロードサイドの門から5分以上歩かないと家にたどり着かない場所で、1週間おこもりする。
小麦って思ったより背が低いのねとか、牛は19時を過ぎるとちゃんと自分たちで家に帰るのねとか(先生が引率しているみたいだった)、グースってちゃんと整列して歩くのねとか(こちらも先生が引率しているみたいだった)思いながら、散歩をしたとき以外はずっとキーボードを叩いている。
見渡す限りの畑と丘のありかたは、北海道の美瑛あたりと結構似てるなと思うのだけれど、三角屋根の角度が本気の三角で、その屋根の角度と建物の色で、ああここは日本じゃないと思い出す。
ピーターラビットは、このあたりで生まれた物語らしい。
一緒に散歩した友人にそれを伝えると「ピーターラビットのお父さんって、ミートパイにされてますよね」と返され、のけぞる。
知らんかった。
Google検索にピーターラビットと入れると、予測変換ですぐ「ピーターラビット 父」と出てくる。
気になったので、2002年に新装刊された川上未映子さん翻訳のピーターラビットをkidleで買うと、なんと、開始3見開き目でパパはパイになっていた!
ここに添えられたマグレガーおばさんとパイの絵は、初版の絵本には掲載されていなかったらしい。今回100年ぶりの再構成にて復活した絵が、つやつやのミートパイの絵だったよ。
公式サイトにも載っている。

ここに至る文章はこんな感じ。
ある朝、おかあさんはいいました。
『ピーターラビットのおはなし』より
「野はらとか森のみちであそんでおいで。でもマグレガーおじさんの畑にだけは、いかないように」
「あなたたちのおとうさんは、とんだ目にあって、マグレガーおばさんに、にくのパイにされたんですよ」
あまりにあっさりと告げられる父の死因。
そして、ページをめくると、子どもたちをにこやかに見送る母親の姿がある。
「じゃあ、いってらっしゃいね。あんまりいたずらをしないでね。わたしはちょっと、でかけてきます」
同上
にくのパイにされたんですよ、からの、じゃあ、いってらっしゃいね。
までの流れが、もう、シュール極まる。
じゃあ、って接続詞が、もう、さ。
じゃあ、じゃないでしょう、と突っ込みたくなる。
気になりすぎて、川上さんの翻訳本以外も、何冊か対訳本をKindleで購入した。
100年以上読み継がれている絵本だし、日本でも「うさぎとかめ」か、「不思議の国のアリス」か「ピーター・ラビット」かというくらい有名なウサギだと思うけれど、
なんとこんな話だったかと、しみじみしたことであるよ。
帰り道、まるまるに太ったどでかいウサギが想像の3倍くらいのスピードで走っていったのを見たけれど。
あの子もマグレガーさんから逃げているのかな、などと思ってしまった。
★今日もコレからは毎朝7時に更新して24時間で消えるショートエッセイです。今日もコレカラ良い一日を!
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