
粗塩day&night【さとゆみの今日もコレカラ/第950回】
6月12日。朝から調子が悪くて、息も絶え絶えでベッドから起きる。
そんな絶賛不調日に、映画監督の是枝裕和さん、装丁家の水戸部功さん、作家の土門蘭さん、哲学者の宮野真生子さん、文化人類学者の磯野真穂さんという、命はったクリエイティブを世に出している人たちの作品/本人と接したので、もうなんか、全力パンチをいっぱい浴びて、サンドバッグもかくやという日だった。
今日だけで、2キロくらい痩せてもいいのではないか。
痩せてないけど。
30代の頃は、そういったクリエイターの人たち/人たちの作品に出会うと、圧倒的な実力差について「むーん」となっていた。
今は何を思うかというと、純度というか、本気度というか、命かけている度というか、そういう向き合い方の差をつきつけられて「みゅーん」となる。
絶対に一案しか出さない。その一案に絞ることがデザイナーの仕事だと語る水戸部さんにくらくらしたし、やりたいことは全部やったという是枝さんの連ドラは隅々凄かったし、まさに命間際まで思考を深め続けた宮野さんの絶筆にもぐうと喉が鳴る。
ところで、土門さんの本『ほんとうのことを書く練習』は、発売直後「はじめに」を読んだあとすぐに本を閉じた。じかに、土門さんのお話を聞いてから続きを読もうと思って。
そして、今日トークイベントで、土門さんを間近にお見かけして、その深みのある美しい声を聞いて、その息継ぎの位置とか、誠実な発声を聞いて、この声で脳内再生しながら読もうと思ったことよ。
イベントいってよかった。
いろいろと、ずきずきひりひりする一日だった。
だけど、そういう傷口に粗塩を塗りこんで、きっとこれから、書くんだけど。
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【バックナンバー】

食べていけない? それでもやりたい「書籍」ライターの魅力って【さとゆみの今日もコレカラ/第949回】
本日、インスタを開いたら、スタイリストの山本あきこさんのリールがまわっていた。「着たい服があるのに着てない人へ」というタイトルで、最後まで見たら、ちょっと涙ぐんでしまったよ。
山本あきこさんと本を作ったときに、担当の編集者さんが出版記念パーティで言っていた。
「山本さんは徳が高い」って。
いろんな人の人生を応援して元気づけて、幸せを循環されているって。
山本さんのデビュー作は12年前かな。
12年後にこのリール見たときも、ああ、変わらず人に勇気を与えているんだなあ。一歩踏みだす力を与えてくれているんだあと思って、なんだかじーんとした。
先日、ゼミ仲間のシーアから、「ブックライティング(書籍のライティング)の魅力は?」という取材を受けた。
正直なところ、いま、ブックライターは本当に厳しい。ブックライティングの印税だけだったら、食べていけない。
私も、安易にブックライターいいよーとは進められないなと思っているし、自分自身もブックライティングの仕事は年に1、2冊にしている。
それでもやっぱり、書籍に関わることの楽しさは何かと言われたら、「人に幸せな影響を与える人」の誕生(ブースト)に出会えるからだなと思う。
そんな、話をしました。
山本あきこさんのデビュー作についても話しています。
よろしければ、ぜひ。
書籍に関わりたいライターが理解しておくべきこと。さとゆみさんに聞いた、ブックライティングの現実と可能性
箱の中の羊。死者という持ち物。セリフのないほうの時間。【さとゆみの今日もコレカラ/第948回】

先日、是枝さんの新作『箱の中の羊』を見てきた。
死者について語ることを、私はいつも怖いなと思っている。
人の死を利用して自分の考えを語っているような気持ちになってしまう。そして、大切な人の死を消費しているような気持ちになってしまうのだ。
映画を見おわったあと、その罪悪感について考えていた。
死者は誰のものだろう。
死者の思想は誰のものだろう。
死者について好きに語って良いのだろうか。
死者を持ち歩いてよいのだろうか。
心の中で持ち歩くことと物理的に持ち歩くことはどう違うのだろう。
そして死者の死以降をアップデートして良いのだろうか。
多分ずっと忘れられないだろうと思うシーンがいくつかあった。ストーリーはそのうち忘れちゃうかもしれないけれど、このシーンはずっと記憶に残るだろうなと思う場面がいくつかあった。
一緒に行ったさわっちにそう話すと、「わかる。でも、不思議なんだけど、セリフはあまり思い出さなくない?」と言う。
たしかに。
今、見たばかりなのに、不思議とセリフは思い出せない。脳内に残るのは、映像ーー絵と音ばかりだ。
ホースから跳ねる水しぶき。踏切の音と電車の影。大樹と木漏れ日。発泡スチロールを切断する糸鋸。カンナに削られるヒノキ。
それともちろん、役者の表情。
きゅっと喉奥が締まるような映像がいくつもあって、こんなふうに今も思い出している。
そのうち、あったりまえのことに思い立った。
どんな人の人生も、「セリフを言っていない」時間のほうが長い。
声を出している時間は、生きている時間のうちの何分の1になるんだろう。
脳の中身のどれくらいが、外に発露されるのだろう。
心のうちのどれくらいが、表情に出て、声に出るのだろう。
かんじんなことは、目に見えないんだよ。
映画を見た日は、折しも、是枝さんの64歳の誕生日だった。
是枝さんは、私が社会人になるときに、最初に接した先輩だ。
是枝さんが私の今の年齢の時に撮った映画は何だったかなと調べたら、『そして父になる』で、ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』が放映された年でもあった。
『ゴーイング マイ ホーム』は、見逃している。
さわっちが、『ゴーイング マイ ホーム』が大好きというので、ちょうど京橋の国立映画アーカイブでの4日連続上映チケットを手に入れた。
1話は素晴らしかった。今日は3話と4話、見てきます。
また会おうね【さとゆみの今日もコレカラ/第947回】

週末は、アメリカから一時帰国した仲間を迎えるために、ゼミメンバーが集まった。大人13人、子供は7人だっただろうか。
お店よりもスペースを借りてケータリングをしたほうが気楽かもと考えて、都内の雑居ビルの一室を借りて、みんなでわいわい。
集まったメンバーはゼミを卒業してからまだ2ヶ月。でも、すでに懐かしい気持ちになる。近況を聞いていると、たった2ヶ月でも、みんないろんな変化があるということも知る。
久しぶりに日本に戻ってきた姉妹はとっても可愛くて、その姉妹を迎える、ゼミメンバーの子どもたちも本当に可愛くて。すぐに和気藹々と遊び始めて、なんだかとっても幸せな時間だったなあ。
私は少し遅れて到着したのだけれど、子どもたちがかわるがわる挨拶にきてくれた。こんにちは。さとゆみと言いますと伝えると、にこっと小さな手を出してくれる。握手。
帰りは雨が降っていたので、傘をさして子どもと手を繋いで、駅まで歩いた。
暖かい手だ。
「いい人ばかりですね」
帰りの電車で、帰国したばかりの彼女が言う。
ほんとだね、いい人ばかりだね。
子どもたちと別れがたくて、乗り換え駅だったホテルまで一緒に歩いた。
「また会おうね」と約束をしてバイバイする。
また会おうねと言える相手がいる幸せ。
何十年かぶりに、スキップしたくなる夜だった。
なぜ本を読むのは難しいのか【さとゆみの今日もコレカラ/第946回】

書籍の感想を書くときにAudibleで聞いた小説をもう一度、紙なり電子書籍なりで読み直すことがある。
Audibleだと小説がのストーリーがすんなり頭に入ってくる。
でも、目で読むとちょっと疲れる時がある。
それは単に、老眼で目を使うのがしんどい。といった単純な話ではない。
先日突然気づいたのだが、Audibleで聞くときと自分で能動的に読むときの一番大きな違いは、会話文に対してのストレスだ。
自分の目で読むときは、会話文の一つ一つを「誰が発言しているのか」を自分の脳で考える必要がある。これが、意外と脳みそのメモリを使っているようだなということに気づいた。
一方、Audibleでは、ナレーターの人たちがそれぞれ、キャラクターの声を使い分けて話してくれる。会話が続く部分の話者が誰かわからないということがないのが楽ちんなのだ。
なるほど、「同じ小説なのに、耳から聞いた方がすらすらと内容が入ってくる理由」はこれかとわかった。
会話をつなげる文章って本当に難しいんだなぁと納得した次第。
今年、Audibleで2回聞き、紙の本でも、Kindleでも読んだ、大好きな『スピノザの診察室』について書きました。
エッセオンラインさんでの新連載、「この本、効きます」です。
ぜひご覧ください!
50歳、「抱かれたい」ならぬ「看取られたい」医師NO.1に出会った。『スピノザの診察室』

10年前の6月6日。人生が変わった日。【さとゆみの今日もコレカラ/第945回】

10年前の2016年6月6日、『女の運命は髪で決まる』が発売になった。
10周年で電子書籍も併せて10万部。
人生が大きく変わる経験をさせてもらった一冊だ。
この本は、サンマーク出版さんの著者になるゼミでプレゼンをしたあと、編集者の方に声をかけてもらって出版の運びになった本だけれど、実際のプレゼンのときの評価は散々だった。
当時、世の中にヘアカタログはあったけれど、ヘア本はほとんどなかった。
「髪の本を出したところで、書店に”棚”がない」
「メイクの本じゃダメなんですか?」
「髪に興味がある人なんて、いるのかな?」
それまでは、自分の企画が書籍化できるとは全然思っていなかった。サンマーク出版の敏腕編集者さんたちの講義が聞けただけで十分モトをとったと思っていたのだけれど、この時、スイッチが入った。
これほどまでに「髪の重要性」って認知されていないんだ。だったら、絶対に書きたい!!!
そう思ったのだ。
幸運にもプレゼンを聞いてくださっていた編集者さんの中に、この企画に興味を持ってくださった方がいて、『女の運命は髪で決まる』は日の目を見ることとなった。
それまで人の本を書いたことはあったけれど、自分の書籍を書くのは初めてだ(正確には美容業界専門の本は4冊著作があったのだけれど、一般の人に向けての書籍は初めてだった)。
私は2人の担当編集者さんとライターさんに取材を受けて、そのテープ起こしをもとに原稿を書くという作り方をした。
この作り方は、自分にとてもあっていたと思う。
ゲラも色校も青焼きも、全部編集者の方と直接対面して一字一句修正をしていった。ルビをふるかどうかで30分くらい議論したことがあったし、タイトルを決めるときは深夜3時まで電話で話をした。
まあ、売れないでしょうと言われていたし、担当編集者さんにも「売れる、売れないにかかわらず、世の中に出したほうがいい本はあるので」と言われていたのだけれど、あれよあれよというまに、発売前重版が決まり、発売2ヶ月半で7万部を突破した。
最終的に19刷まで重版された。電子書籍も合わせると、10万部を超えたと思う。
あれよあれよ、と書いたけれど、1冊でも多くの人の手に届くようにと、できることはなんでもした。
当時は毎日3、4時間、メッセンジャーのやりとりをしていたと思う。
以下は、飯高悠太さんとの対談「日本全国にいる”この本を知らない人”に届けたい 発売2ヶ月半で7万部を達成したベストセラー著者
でお話した内容。
発売してすぐに、Facebookのメッセンジャーをつかって「本が出ました」というメッセージと、感想付きのチラシのPDFを送りました。Facebookの「友達」は3,000人、フォロワーが8,000人くらいいるんだけれど、ほぼ全員に送りました。
さとなおさんから受けた影響はすごく大きいと思う。「最初に出会った10人のファンをとことん大事にして、そのファンの方々をもてなしていけば、そこから数万人に届いていく」と、さとなおさんに言われたことがあって。
出版記念パーティには、全国から美容師さんやライターの友人たちが駆けつけてくれた。
みんなで、美容業界を盛り上げていこう! この本が売れたら、もっともっと髪の本が世の中に出るかもしれない! みたいなことを話し合ったなあと懐かしく思い出す。
たくさんのテレビ出演に、雑誌出演。本に関する講演は、1年間で80回も登壇させてもらった。
本を書くときの手探りの感じ。
本を出す前のどきどきした気持ち。
ライターではなく「著者」になる葛藤。
読者の方々からの感想を受け取る気持ち。
いろんな場所で本について話をさせてもらえること。
こんな経験をさせてもらったことは、本当にありがたかったと思う。
10年。
もう、10年も経つのかとも思うし、まだ10年しか経っていないのだなとも思う。
人生が変わった一冊だったと思う。
この本を読んで、自分に自信がもてるようになった、彼氏ができた、結婚した、転職した、美容師を辞めるのをやめた、などいろんな感想をいただきました。
読者さんの人生も変わっていたらいいなあと思う。
折しも、先日取材させていただいた大学生協の書店さんには、つい数ヶ月前まで、『女の運命は髪で決まる』を置いていたんですよと言ってもらえた。10年経っても読んでもらえる本。作らせてもらったことに本当に感謝しています。
さて。ここから10年。
次の仕事をするのだ。

