
「パーティーってなに作ればいいの?」問題に対する、2つのソリューション。【炭田のレシピ本研究室/第13回】
年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本を紹介する連載。今回のテーマは、パーティー! 1年の最後を華麗に彩る2冊をご紹介します。
クーリスマスが今年もやってくる~!
個人情報保護の観点からふんわり書くが、私の誕生日はクリスマスイブイブくらいの日で、なんとびっくり娘も同じ日に生まれた。娘が生まれてから数年間は、はしゃいだ気持ちで私と娘、それぞれの名前のプレートがついた誕生日ケーキを1台ずつ注文して、クリスマスにはショートケーキを手づくりして、もちろんご馳走も用意していた。
でも娘が5、6歳になったあたりから食の好みがハッキリしてきて、パーティーで食べる料理の準備に難儀するようになってきた。
骨付きチキンは食べたくない? ファミチキの方がいいって?
え? サラダにりんごを入れるな? そのまま食べたい?
キッシュは絶対子供の好きな味だと思うんだけど……
なんなのもう、である。だが大人しく黙っている私ではない。パーティー感を演出しつつ、大人も子供も満足するレシピが満載の1冊があるので、まずは紹介する。
パーティーっぽいご飯とはなんぞやと悩む、すべての人へ
その本とは、小田真規子さんの『とにかく盛り上がる夜ごはん』。普段の夕食のようにおかず、味噌汁、副菜が並ぶ献立スタイルではなく、作りながら食べる「たこ焼き」や、卓上で焼く「チヂミ」にはじまり、各々が好きな具材を選んでくるっと海苔で巻く「手巻き寿司(酢飯は作らず白飯でOK!)」、果ては買い置きのレトルトカレーの食べ比べなどが紹介されているレシピ本だ。
市販品を買うだけのメニューは「料理なの?」と思うかもしれないが、購入する時のポイントや食べ方のコツがきっちり紹介してあり「豆腐も1丁300円超えると、ちゃんと大豆の味がするね!」などと盛り上がり、やってみると予想以上に楽しい。巻頭に「たこ焼きの具すごろく」があったり、ノンブルの横にまでちっちゃい文字で特に意味のないようなひと言コメントがあったりで、文章を読むだけでもこれまた楽しい。切り口次第でなんでもパーティーにしてしまう、著者の小田真規子さんの企画力に敬服する1冊だ。
我が家のパーティーの定番は、包まず作れる「1秒餃子」。餃子ではなくワンタンの皮を使うので、ふつうの餃子のようにヒダを寄せる必要がなく、皮に餡をのせたら適当にギュッと握るだけ。レシピ名通り、1秒で包み終わる。お泊まり会の時に子供の友達も交えて作った時は「もっと握りたい!」と大盛り上がりだった。餃子に比べて皮がパリパリな上に作るのもラクなので、普段使いにもおすすめだ。
一人ではパーティーが出来ないって、誰が決めた?
もう1冊は、稲田俊輔さんの『ミニマル料理 日々の宴』を紹介したい。ミニマル料理は「最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる」ことをテーマとしたレシピ本で、この本はシリーズ第3弾となる人気作だ。
実はコロナ禍以降、「おもてなし」や「持ち寄り」文脈のみんなで集ってワイワイする前提のレシピ本はめっきり減っており、先に紹介した『とにかく盛り上がる夜ごはん』はコロナ前に出版された本だったりする(2019年刊行)。そんな中、人気シリーズの最新刊のテーマが「宴」ということで、発売を心待ちにしていた。
まず注目したいのは、表紙にやや大きめの文字で記してある「一人でも宴。」というキャッチコピー。目から鱗とはまさにこのこと。パーティーって、一人でやってもいいんですね? 私の中のイマジナリー稲田御大がささやく。
「宴なんて、なんぼあってもええですからね」
あれ? これって土井善晴先生? とにかく宴だ。
ページをめくると、宴の割に落ち着いた印象を受けたが「宴の極意」というページを読み、合点がいった。工程がミニマルだからこそ「もう1品」が可能になり、前菜+メインの打線が組み立てられる。つまりレストランのコース料理を手軽に家庭で楽しめるのだ。
例えば私のある日のランチは、温前菜が「言ったもん勝ちボルシチ」に、メインディッシュは「魚(うお)パスタ」。リモートワークの夫をテーブルに招くと、2品を見るなり「……今日ってなんかあったっけ?」と不安そうに聞いてきた。大丈夫、キミが結婚記念日を忘れてるわけじゃない。私が個人的に宴を催してるだけ。
これまた別の日のディナーは「海鮮と野菜の豆天」からの「天丼&天茶」だ。豆天とは、ひと口サイズの小ぶりな天ぷらのこと。材料をちいさく切ってから揚げるので、まっすぐ揚がらない海老に肩を落としたり、せっかく揚げたイカやホタテから衣がすっぽ抜けて切ない気持ちになったりせずに済む。そしてその豆天を甘辛い天丼、おだしの利いた天茶と食べ進める、このウキウキ感よ。揚げてしまえば各々が好きなペースで楽しめるのもいい。三人家族だが、一人ずつ好きなように宴を堪能している。宴ってサイコー!
毎日がちょっとしたパーティー
昔から、服屋の店員さんが言う「ちょっとしたパーティーにおすすめです」という言葉が不思議だった。ちょっとしたパーティー、どこでやってるんですか?
でも今は、あの店員さんたちは日々の食事をパーティーにする術を知っていたのかもしれない、と少し羨ましい気持ちだ。「ちょっとしたパーティー」に合う服、今度勧められたら買ってみます。
文/炭田 友望
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