検索
SHARE

終わらない「正解」探しはやめにしよう。『過去の握力 未来の浮力 あしたを生きる手引書』

私は昨年、13年勤めた事務の仕事を辞めた。毎年手帳に書いていた「今年の目標」の1つめは何年も「会社を辞める」だったので、やっと念願叶った形である。

会社を辞めた後「まず3ヶ月は好きなことをやろう!」と決めた。育休から復帰してからは、これまでよりも自分の時間がずっと減っていた。だから今こそチャンスだと思った。でも実際に退職前に書き溜めていたやりたいことリストを上から順番にやってみたものの、なんだかスッキリしない。モヤモヤが蓄積される一方だった。

そんなモヤモヤ状態の私にヒントをくれた本が、『過去の握力 未来の浮力 あしたを生きる手引書』だ。桜林直子さん(サクちゃん)とジェーン・スーさん(スーさん)のPodcastの対談番組である、 『となりの雑談』(TBSラジオ)の内容をまとめた1冊である。桜林さんは、『世界は夢組と叶え組でできている』の著者で、現在は「雑談の人」として、1回90分の雑談を1ヶ月に50人くらいとしているそうだ。元々サクちゃんは、しんどい出来事が多い子ども時代を過ごしたため、視点が歪んでいたり負の出来事に敏感すぎたりするクセがあった。けれど、そこから、なぜいつもうまくいかないのか? を自分で考え試行錯誤してみることで考え方が変わったのだという。

『過去の握力 未来の浮力』を読んだあとにPodcastを聴いてみたら、本も面白いけれどPodcastも本当に面白い。サクちゃんとスーさんは考えていることが全然違う。まるで正反対くらい違う。本の中でサクちゃんは、エネルギー値が低く世界から影響を受けている人、一方のスーさんは、エネルギー値が高く世界の中心は自分という考えの人と紹介されている。見えているものが違う2人は「え、なんで? それ、わかんない!」と言いながら、互いの違いを認めてなぜ違うのかを深掘りしていく。そんな2人の会話の中には、生きやすくなるヒントがこれでもかと散りばめられている。

冬のある朝、私は駅までの道のりを歩きながら『となりの雑談』の過去の放送を聴いていた。そうしたら、サクちゃんが仕事として行っている「雑談」の中で、「他の人に正解を求めたがる人が結構いるんだよね」という話をしていた。

うわあ。私は、思わずスマホのメモアプリを起動した。そして歩道の端に立ち止まり、かじかむ手でサクちゃんとスーさんの会話を打ち込んだ。

よくいる「正解を求めたがり」の人は、「正解」が気になってしまって自分で物事を決められないのだという。なぜ決められないのかというと、自分で決めたら間違えてしまうと思っているから。でも何が「間違い」や「失敗」で何が「正解」なのかはわからないままただただ不安に思っている様子の人が多いそうだ。そしてそういう人はきっと、学校の勉強が得意で点数をつけられて安心する人だったんじゃないかな、とも2人は話していた。

まさに私のことだった。仕事を辞めてから、何をするにも「私、これで正解なのかな?」と思っていた。例えば朝起きて、今日何をするか決めること。積読してある本を読むのか、以前受けた講座の復習をするのか、観たかった映画を観に行くのか、気になっていた展覧会に行くのか。やりたいことがたくさんある中で、今私がやるべきことは何なのか。何を選んでも「これでちゃんと合ってる?」と不安だった。そもそも、仕事を辞めたことも、3ヶ月好きなことをすると決めたことも、その後ライターとして仕事をすると決めたことも全て「これで合ってる?」と思う対象で、自分の決定に自信が持てずにモヤモヤしていたのだろう。

なぜ不安に思うのか。なぜ正解探しをしたくなるのか。そもそも子どもの時から「絶対に分かる質問でも先生に当てられるのが嫌で手を挙げなかったよね」といまだに親に言われるくらいなので、もともとの性分もあるとは思う。でもそれにプラスしておそらく子どもの頃から自分であまり考えずに他人の評価軸で生きてきたからかなと思い当たった。私は、小・中と田舎の学校で過ごして、そこそこ成績がよかった。先生が喜びそうなことを進んでやっていた節もある。優等生でいなければと勝手に感じていたし、優越感もあったのだと思う。そうやって人から評価されなければと思うようになると、間違うことや失敗することは自分の評価を下げることだと認識するようになった。なるべく間違えないように「これでいいかな?」と周りの様子を伺いながら、行動する癖がついてしまっているのだと思う。

この本でスーさんは、「私が一歩を踏み出すことに躊躇がないのは、嫌なことが起こったとしても自分なら大丈夫だと思えるからです」と書いている。そんな風に自分を信頼できるのは、これまでにたくさん行動して失敗して立ち直ってきたからだそうだ。さらにポイントだと感じたのは、これまでの失敗をどう自認するかというところだ。スーさんは「失敗した自分」ではなく、その後の「立ち直った自分」に常にスポットライトが当たっているから、自分ならまた挽回できると思えるらしい。私は、これまでしらずしらずのうちに「失敗した自分」にスポットライトを当ててきた。新しい行動をするかどうか悩む時に、過去に失敗した時の苦い思い出を引っ張り出してきて並べて、それを横目に周りの様子を見つつ、石橋を叩きまくった挙句に渡らないことすらあるタイプだった。結局ものごとをどう捉えるかでいかようにも変われる気がしてきた。まずは過去に自分が「失敗した出来事」の認識を改めるところから始めてみよう。

あー、これもわかる。これもわかるよ! と貼った付箋にまみれたこの本をこれからも私のお守りにして、自分で考えて、決めて、進んでみようと思う。

文/竹田 りな

writer