ラジオ好きのバトンは続いていく。『オールナイトニッポン55時間スペシャル』を走り切って
1日に10時間以上ラジオを流し続ける日がくるなんて想像もしていなかった。2月17日の18時から2月19日の25時まで、私は約40時間近くラジオを聞いた。たった一つの、同じ番組を。
その名は『オールナイトニッポン』。なんとなくその名を知っているような? という人もいれば、ああ懐かしいね! という人、はたまた現役リスナーですという人もいるだろう。ニッポン放送の深夜、月曜~土曜で放送されているオールナイトニッポンは、放送55周年を迎えた。それを記念し、55時間連続でオールナイトニッポンを放送するとのこと。2時間ごとにパーソナリティが入れ替わり、番組のバトンを回していくという。発表されたパーソナリティの一覧を見て、私は叫んだ。と同時に、この3日間は絶対に予定を入れないでラジオを聞き続けると決めた。歴代パーソナリティが大集合なのだが、そのメンツが豪華すぎるのだ。明石家さんま、タモリ、山下達郎、松任谷由実のゲストに黒柳徹子、そして締めは福山雅治。それに、くりぃむしちゅーや、ウッチャンナンチャンなど、ワクワクするメンツばかりだった。聞くしかない。伝説に、立ち会おうではないか。
17日の18時ちょうど、おなじみのテーマ曲「ビタースウィート・サンバ」にのせて、今回の放送に参加するパーソナリティたちが過去放送を担当していた時の「○○のオールナイトニッポン!」というタイトルコールが一気に流れた。ノイズ混じりの古い音源もあり、それだけで歴史の重みを感じさせてくれる。そして、現役最長のパーソナリティであるナインティナインがTOKIOの「宙船」を大熱唱し始めた。まさかの歌スタートで思わず笑ってしまう。その後は軽快なトークがとんとんと繰り広げられ、いよいよ55時間の放送が始まった。
さて、55時間を過ごした後の私の感想からお伝えしよう。「ものすごく楽しかった!」
ナインティナインのベテラントークを浴び、ZEROメンバー(オールナイトニッポン0(ZERO)という放送時間帯の現パーソナリティ)のガチャガチャした内容に腹を抱えて笑い、松任谷由実や山下達郎の大人な放送に癒され、ウッチャンナンチャンと出川哲朗とバカリズムのわちゃわちゃ感に元気をもらい、タモリと星野源の大人な音楽トークに胸を躍らせ、秋元康の爆弾発言に声を上げて笑い、松山千春の人生を感じる語りに心を奪われ、菅田将暉とハガキ職人との攻防に笑い、伊集院光のタイトルコールに感動し、くりぃむしちゅーがとにかく面白すぎて、ネプチューンと土田晃之の仲良し感にほっこりし、ゆずとCreepy Nutsの音楽論とコラボソングに胸打たれ、明石家さんまのノンストップ弾丸トークに圧倒され、aikoとKing Gnu井口理の神コラボに泣き、福山雅治に改めてラジオの良さを教えてもらった(ちなみに、ここに名前をあげられなかった方々の番組は寝落ちしてフルで聞けていない。後追いで聞く予定。特にいつも聞いているオードリーをリアルタイムに聞けなかったのが本当に後悔……。)書ききれないほど本当に濃厚な55時間だった。大エンディング前に流れた、全パーソナリティたちのタイトルコールに震えるほど興奮した。
楽しかったと同時に、少しだけ、切なさがあったのは否めない。
私がラジオを聞き始めたのは3年前、世界が混沌とし始めた頃だった。テレビという、映像の刺激から逃げるように私はラジオを聞き始めた。映像がなくとも楽しめるもんだろうか、と思っていたけれどそんなのは杞憂だった。パーソナリティたちは自分たちの身の回りの出来事を愉快に、時に下品に、時に毒っ気を交えながら話してくれる。私たちだけの秘密の時間。誰にも会えない寂しさを埋め、元気をくれたのがラジオだった。
だけど、55周年の歴史のうちたった3年だ。今の私とオールナイトニッポンの間には、思い出がほとんどなかった。だから、「30年前高校受験の時聞いてました」という思い出をメールするリスナーたちがうらやましかった。恋人の元カノに抱いちゃう感情。今付き合っているのは私で、きっとこれからも長く思い出を育んでいくのは間違いなく私なんですけれども。どうしたって過去は埋められない。
だからこそ、60周年、65周年、思い出を積み重ねていきたい。
山下達郎と上柳昌彦の放送内で、今年営業終了となる中野サンプラザホールについて「耐震工事して残せばいいのになって思うんですけどね」と話しているのを耳にした。残し続けていくことは難しいことなんだと思う。だったら一度ゼロにして一から建て直した方が、新しいイマドキのものに変えた方が、人々も集まるのかもしれない。だけど、長くそこにあるモノは、人々のよりどころでもあるはずなのだ。
終わってしまったら、思い出もそこで途切れる。だから、オールナイトニッポンも、長く長く続けてほしい。そんなふうに思ってしまった。
出会いもあれば、別れもあるだろう。それを懐かしめるほどの時間が過ぎるだろう。続ける側の苦悩もあるとわかっていながらも、どうかまた節目節目に立ち会わせてほしいと願ってしまう。
最後の枠の福山雅治がエンディングでこう締めた。
「私たちが預かったバトンは、このあとまた続いていきます。明日も、続いていきます。これからもずっとずっとラジオが好きという気持ちのバトンがつながっていくことを、心より願っております」
その後読み上げられたリスナーからのメールにも、後まで走り切った高揚感がにじみ出ていた。私も涙が出そうだった。今回ここに濃い思い出ができた。ラジオを好きになってよかったと思った。当たり前のことかもしれないけれど、パーソナリティも、リスナーも、もちろんスタッフもみんなラジオ好きの仲間なのだ。年齢や性別の壁を超えた強い結束がそこにはあった。この感覚は、正直ラジオ特有のものだと思う。
走り切った感動と共に伝えたい。スタッフの皆さん、長時間本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。
今日も深夜1時を回った頃、軽快な「ビタースウィート・サンバ」とともにタイトルコールが聞こえてくる。ラジオ好きのバトンは今日も丁寧に手渡されていく。
文/菜津紀