
静かな場所は、どうつくられているのか——2026年1月61冊の中の3冊【連載・月60冊読むkyoの「積んどかない」読書/第2回】
「おうち時間」が大好きな私にとって、年末年始の喧騒と冬の冷たい空気は家に繋ぎ止められる楔となった。読書が捗る。
日々淡々と本の山を築き上げ、今月も気づけば60冊を超えていた。



本の山を前にして、読み返したくなる衝動をぐっと堪えながら、今月の「何かが残った」本を3冊、選んでみた。
今回は少し迷った。なぜなら、本のジャンルに偏りがあったからだ。
意識して選んだわけではない。けれど、1冊の本を読むと、関連する本が読みたくなる。結果として、意図せずジャンルの近い本や、どこか繋がりのある本を手に取っている。
振り返ってみると、今月は「どこで、どのように過ごすか」という妄想を膨らませる時間が多かったように思う。その中で私が選んだのは、空間について書かれた3冊だった。
本を読む場所、仕事をする場所、立ち止まるための場所。
空間は、思っている以上に、感情や思考の速度に影響を与えている。
最初に挙げたいのは、小島衆太さんの『図解 ホテル空間の演出』だ。
タイトルから想像されるとおり、専門的な内容を扱った本である。
だが読み進めるうちに、これは「ホテルの図解本」というより、「人が安心して過ごすための距離感」を扱った本なのだと感じた。
ホテルという空間は、日常と非日常のあいだにある。
完全に自分の家ではない。けれど、まったくの他人の場所でもない。
ライフスタイルと直結し、時に安らぎの場を、時に仕事と向き合う場を提供してくれる。
その中間にある曖昧さを、照明や動線、視線の抜け、インテリアデザインの工夫でどう支えているのか。
本書では、それが淡々と解説されていく。
図解本を読んでいるはずなのに、旅の本よりも旅を感じる。
実際にその空間で本を読んでいたかのような読了感は、いつか宿泊先を選ぶときの、ひとつの判断材料になるだろう。

2冊目は、小泉隆さんの『ヒュッゲな暮らしをデザインする 北欧のあかり』である。
こちらは、照明について書かれた本だ。
ただし扱われているのは、明るさの数値や器具の性能だけではない。
人が「ここに居てもいい」と感じるための、あかりの置き方についての本である。
北欧の暮らしにおいて、あかりは「部屋を均一に照らすもの」ではない。
むしろ、必要な場所に、必要な分だけ置かれる。
その結果、部屋の中には自然と影が残る。
ヒュッゲという言葉は、居心地のよさや幸福感として語られることが多い。
その習慣において、あかりはとても重要視されている。
この本を読んで感じたのは、ヒュッゲとは「気持ちを切り替えなくても済む環境」のことなのかもしれない、ということだった。
この本を読みながら、自分の生活の中のあかりを、何度も思い浮かべていた。
強い光の下では、どうしても気持ちが前に出る。
考えごとをするにも、休むにも、どこか力が入ってしまう。
北欧のあかりは、その力を抜くためのスイッチとして、静かに機能しているように見えた。
照明を変えるだけで、暮らしが劇的に変わるわけではない。
けれど、思考の速度が少し落ちる。
私の愛用する読書灯が、本の世界に潜る手伝いをしてくれるように、その「少し」は、日々を続けるうえで、とても大切なのだ。

3冊目は、橋本麻里さん・山本貴光さん夫妻による『図書館を建てる、図書館で暮らす:本のための家づくり』である。
森の中の静かな建物。
壁一面、全フロアに広がる本棚。
壁紙のように整然と並ぶ文庫本。
無造作に積まれた本の山。
本の内容に合わせて移動したくなる、読書スポットの数々。
羨ましい。
ただただ、羨ましい。
常々、本を読んでいるだけで生きられるなら、どれだけ幸せだろうかと妄想している私にとって、夫妻が作り上げた「森の図書館」は、理想的な空間だ。
この本に出てくる図書館とは、公共施設や営利目的としての図書館だけを指していない。個人の蔵書のための部屋であり、生活の中に組み込まれた「読むための場所」であり、同時に、「書物と暮らす」ための場所でもある。
本は、読む人の都合に合わせて、ただそこにある。
急かすことも、結論を迫ることもない。
けれど、置かれる場所や距離によって、本との向き合い方は、驚くほど変わってしまう。
この本を読んでから、自分がどこで本を読んでいるのかを、少し意識するようになった。
机なのか、ソファなのか、ベッドの上なのか。
その違いが、読書の深さや、読み終えたあとに残る感触に影響していると、改めて気づかされる。
図書館のある暮らしは、理想論のようにも聞こえる。
けれど本書が描いているのは、特別な建築というより、「考えることを生活の中に置く」ための工夫の積み重ねだった。

空間やあかりや本棚は、すべて、考える速度を守るための装置なのかもしれない。
今月の3冊は、私にとって「急がなくていい場所」を思い出させてくれた。
文/kyo
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