
いつも「たった一人」から始まる【さとゆみの今日もコレカラ/第 322 回】
いくらエビデンスを探しても出てこないので、私の脳内捏造だったらごめんなさいなのだけれど、1993年にサッカーのJリーグがスタートしたとき、当時のJリーグ協会の会長か誰か、そういう偉い方が語った話だと思う。
「Jリーグを作りたいという話をすると、ほとんどの人に時期尚早と言われた。でも、時期尚早と言う人はいつまで経っても時期尚早と言う」。当時そんな話を聞いて、「へええ、なるほど」と思った。世の中の仕組みみたいなものをズバリつく言葉だったと感じた。
その後、仕事をするようになって出版社や代理店に企画を出すようになり、何度も時期尚早と言われた。そのたびに、「時期尚早という人は来年も再来年も時期尚早と言うんだよな。残念なヤツ」と心の中で毒づいていた(当時の私は非常に性格が悪かった)。
人を説得できないのならば、まず自分で始めちゃえばいいんだなと気づいたのはその後数年経ってからだった。
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先日、ライター仲間のかなちゃんが「ものすごく面白い方がいるので、取材したい」というので話を聞きに行ったら、日本における韓国本ブームを作った立役者だった。名前をキム・スンボクさんという。
日本に翻訳出版された韓国の書籍数は15年で約20倍になっている。昨年の本屋大賞翻訳部門は『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』で韓国発の書籍だ。書店に行っても、韓国文学の棚はずらりヒット作が並んでいる。
でも、当たり前だけれど、最初からそうだったわけではない。
最初の頃は、書店周りをしても、韓国の本を置く棚がないと断られ続ける。それでもキムさんは、「英米文学」の棚だって最初はなかったでしょうと言って、「韓国文学」と書いた棚差しプレートを勝手に作って持って行ったのだという。「ほら、棚ができたから、ここに並べてください」と、プレートを差し出す。本人もおっしゃっていたけど、無茶苦茶だ。
こうやって、たった一人の熱狂が、少しずつ地面を揺らして、今の韓国本ブームにつながっていく。
Jリーグも韓国本も「時期尚早」という言葉を跳ね返しながら種を蒔き続けたから、芽が出て、水が与えられ、大きな花になっている。芽が出始めると、企画書では動かなかった人たちが、応援してくれるようになる。ポイントは最初から完璧にしようとしないこと。小さくてもいいから始めること。
私は、たった一人の熱狂の話を聞くのが好きだなあと思う。誰でもいつからでも小さなスタートを切れることを教えてもらえる。そして、どんな発明も革命も最初は誰かの熱狂から始まっていることを知れる。
今の韓国本ブームの裏側に、一人の女性の情熱があったこと。よかったら読んでくださいね。元気になります。
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【この記事をおすすめ】
ーー韓国の本を翻訳出版する出版社は、キムさんにとってはライバルでもありますよね。ライバルが増えることはデメリットになりませんか?
キム:ライバルがいた方が本は売れるんですよ。韓国文学の棚にさまざまな本が並ぶようになったら、お客さんも寄ってきます。品揃えのいいスーパーマーケットにお客さんが集まるのと同じ理屈です。


