
私もその歳になったとき【さとゆみの今日もコレカラ/第538回】
先日、ミシュランの星付きレストランを引退した方のお食事をいただく機会があった。奥様と悠々自適に過ごしていたところ今のオーナーに声をかけられ、一日一組だけを相手に料理を作っているという。
それはそれは丁寧な仕事で、綿菓子みたいにふわっふわのあん肝とか、ちょっと夢に出てきそうな美味しさだった。聞けば、提供時間のきっかり4時間前からお酒に漬け込んでいたのですとおっしゃる。
料理長自ら食材について説明をしてくれる。そのお話がまた、楽しい。私が卵が大好きだと言うと、厨房から4種類の平飼いの有精卵を持ってきてくれて、これはオス、こっちはメスと説明してくれた。
サービスをしてくれる方が、「卵かけご飯を召し上がるなら、料理長に卵をといてもらうといいですよ」と耳打ちしてくれたのでお願いしたら、目の前で卵をといてくれた。見たことのない形の菜箸を使っているので聞いたら、卵をとくためだけに別注した菜箸で、もう13年も使っているのだと言う。
そういう細やかな仕事のすえに提供されるお料理を美味しい美味しい言いながら食べていると、「でも、料理は3割、接客7割です」と料理長がおっしゃった。
「また食べたいと思われるかどうかは、接客です。でも、一人の料理人が全神経を集中して接客できるのは、一度に3人か4人ですねえ。それ以上だと、惰性になってしまいます」
核となるお料理を極めてからこその言葉ゆえに、軽やかで重かった。
一度は引退したけれど、やっぱり働くのはいいですねとにこにこお話しされるのを聞いていると、なんだか私も幸せな気持ちになった。
70歳を超えた方である。私もその歳になった時、こんなふうににこにこしてたいな。
今週も元気に過ごそう。
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