検索
SHARE

一周まわりて天声人語【さとゆみの今日もコレカラ/第190回】

CORECOLORに24時間で消えるエッセイらしきものを書き始めた時、100回を超えるまでは、今日のダーリンも、天声人語も、編集手帳も読まないと決めた。最高峰を見てしまうと切れるスタートも切れなくなると思ったからだ。

朝日新聞から毎週の書評コラムを依頼された時も、1年間はプロの書評を読まないと決めた。毎月通っていた読書会に参加することもやめた。一度ゼロから自分のスタイルを作ってみようと思ったからだ。 
連載を続けて5年目に、期せずして川上弘美さんの書評を読む機会があった。なるほど書評とはこのように書くものなのかと感じ入った。自分との差分がくっきり見えた。本のどこを見るのか、その着眼点。どんな言葉で語るか、その洗練具合が、理解できるようになっていた。

先日、そろそろこのエッセイも200回に近づくと気づいて天声人語を解禁した。読んだのは、『よりぬき天声人語 2016〜2020』。やはり、この連載を始める前に開かなくてよかったと思った。こんな凄まじい結晶を先に読んでいたら、到底毎日書いてアップしようなどと思わなかっただろう。
603文字で語ることがいかに難しいか今なら想像できるから、ここに並ぶ文章の切り口の鋭さと内容の豊潤さとにかち割られる。
とくに訃報に際する文章がすごい。大抵翌日か翌々日に出る。たった数時間でこの調査、この文章と思うと、くらくらする。

しかして、その本文以上にこの書籍で心打たれたのは前書きだ。
あるとき面識のない読者(元国語教師だったらしい)から、天声人語の原稿の添削が送られてきたという。添削された文章は元の記事より格段に良くなっていたと書き手の山中さんは言い、できの悪い教え子を励ます恩師のようで胸が熱くなったと書いている。

この謙虚。
あの文章にしてこの謙虚であるぞ。
お前ごときが楽をして書けると思うなよと、声に出して言ってみる。
ちょっと書き方を変えようと思う。

またきてね。

※この文章は毎朝7時に更新され24時間で消滅します。今日もコレラよい一日を。

_____________________

【この記事をおすすめ】

私は「書く」ことに敬意と畏れを抱くライターだ。人に何かを伝えることはとても難しいから、と嘯いて、いつも書くことから逃げている。

writer