
給食の 有り難み知る 夏休み(五七五)/炭田のレシピ本研究室【第8回】
年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本2冊を紹介する連載。今回は来たるべき子の「夏休み」をサバイブする2冊をご紹介します。
今年も来ちゃう、夏休み
料理好きの私が年に一度、毎日のごはんづくりに頭を抱える時期がある。小学4年生の娘の夏休みだ。いやはや、まさか自分が「給食がない」ことに、こんなに大変な思いをするだなんて思わなかった。40日もあるのかぁ〜! と、冷蔵庫に貼った小学校の予定表を眺めて溜息をついていたら、夫に「給食がないのは、正確には45日間だね」と言われた。そんなのいちいち数えないでほしい。
マクドナルドと冷凍うどん、スーパーのお惣菜、たまのファミレスを駆使しても疲弊する、夏休みのごはん問題。今年こそはどうにかしたい一心でこの1ヶ月、時短レシピから冷凍レシピまで試しまくった。今回はその成果となる2冊をご紹介したい。
そうだ、子供ウケしよう
まず紹介するのは、橋本彩さんの『フライパンで卓ドンごはん』。群雄割拠のレシピ本の世界、実はフライパンで作った料理をそのまま食卓に出せることを謳った本は数多ある。ではこの本は何が違うのかというと、紹介されているメニューが気取ってない。これに尽きると思う。著者の橋本さんが5歳、3歳、0歳の母ということもあり、全体的にめちゃ子供ウケする味付けなのだ。

例えば、我が子は一般的な小学生なのでピーマンが嫌いだ。ピーマン入りの料理を作った時は、ひと口でも食べればヨシの気持ちで、娘のお皿には一切れだけ乗せている。なのに娘ときたら、そのピーマンをさらに半分に千切ったものを口に含んで「食べるという義務は果たしましたけど?」みたいな顔をしている。夫に「ママがせっかく作ってくれたんだから」と促され、残り半分のピーマンを渋々口にする有様だ。そのやり取りを見る度に「そもそも一切れしか盛り付けてないんだから、ちゃちゃっと食べなはれ!」と、苦々しい気持ちになる。
だがそんな我が子も、この本の「ピーマン嫌いも食べられるもやピー春雨」は、食べるのだ。焼きそばや餃子の時のように喜んで食べている訳ではないし、「これならまぁ食べてもいいですよ」「春雨は多めに盛ってよね」という態度が少々腹立たしくもあるが、なんにせよ嫌いなはずの野菜を食べる。他のレシピも味付けが甘めテイストのものが多いからか、普段あまり口にしない焼いた長ネギや添えられたキャベツも、タレに付けながらするする食べてくれる。給食がない夏休み、「バランスのよい食事」とは程遠い食生活を送る我が子にやきもきしちゃう。そんな全国の親御さんにオススメしたい1冊だ。
子供が料理をするという提案
梅雨の時期から一生懸命「夏休みのごはん」をどうするか考えていて、思い出したことがある。かつて自分が小学生の頃、『平野レミのおりょうりブック』という子供向けレシピ本を読んだ時のことだ。ポリ袋に入れたナッツを金槌でぶっ叩いて、醤油をひとたらしする「ナッツごはん」を作るのが大層楽しくて、料理をする自分がちょっと誇らしかった。
それなら我が子もと一緒に本屋さんへ行ったのだが、結果、上手くいかず。小学生向けの素敵なレシピ本が料理からスイーツまでたくさん揃っているのに、お付き合い程度にチラリと眺めるのみ。食にさして興味のない娘は自分で作ってまで食べたいものなんてないようで、気付けば夏休み用のドリルを真剣に選んでいた。南無三。
とはいえ何かしら我が子に手伝ってほしい母(私)がチョイスした2冊目は、ほりえさちこさんの『へとへとでも手を汚さずに今日のおかずがポリ袋でできちゃった!』。ポリ袋に食材と調味料を入れて揉み込み、食べる時に焼いたり煮たりすればOKのレシピ本だ。この「もみもみ」を我が子に任命しようという目論見は、大当たり。レシピに添えてある猫のイラストも気に入ったようで、ポリ袋を手渡すと「チキンナゲット」や「豚塩ねぎいため」などの肉料理は猫の手つきでもみもみ、「鮭のみそヨーグルトグリル」は魚なので身が崩れないようになでなでしてくれて、けっこう楽しそう。お手伝いをした自負もあるのか、食の進みも普段よりいい気がする。

ポリ袋に入れるだけで下ごしらえが完了するので、高学年になったら自分で計量からやってくれないかな……と夢見ている。本がぺたっと180度開くので、子供にいちいち「ママ―ッ!本閉じちゃったー!」と呼ばれなさそうなのもいい。まずは計量スプーンの「すりきり」から教えてみよう。
そうは問屋が卸さない予感
と、夏休みのごはん問題解決に向けてせっせと料理をし続けてきたが、うっすら「そう上手くはいかないんだろうな……」と予感している。だって、小1の壁を見越して娘が4歳の頃に早々に予約していた民間学童は1年も経たずに辞めたし、それなりに読み聞かせをしていたのに本よりゲームが好きになっている(いちばん好きなタイトルは『ゼルダの伝説』らしい)。なんちゅうか子供との付き合いは「そんなもんだよね」の連続だ。親の思惑なんて、大体外れる。
でも「そんなもんだよね」を予想しつつやるだけはやったので、母、満足。今年の夏休みも、やったります。
文/炭田 友望