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ちゃんめい

それは自分の現在地を確かめる授業。“夢”というキーワードに少しでも心が動いた大人に捧ぐ『夢なし先生の進路指導』【連載・あちらのお客さまからマンガです/第20回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、今一番読んでほしい! と激推しするマンガをお届け。今回は、高校生の進路指導のお話……!? だけれど大人にこそ読んで欲しい笠原真樹先生の『夢なし先生の進路指導』について語ります。

2024年も残すところあと1ヶ月半。今年掲げた夢が叶った人、叶えられなかった人、あるいはそもそも夢がない人も。とにかく“夢”というキーワードに1ミリでも心が動いた大人にぜひ読んでほしい作品があります。それが、笠原真樹先生の『夢なし先生の進路指導』です。

現実的なデータや実情を突きつける! “夢なし”な進路指導

本作の主人公である高校教師・高梨(たかなし)は生徒たちから“夢なし先生”と呼ばれています。それは進路指導の際、生徒たちにその夢が叶うまでの倍率といった現実的なデータや実情を突きつけ、それでもなおその道を歩む覚悟があるのか? と静かに問う。「夢の力を信じろ」「諦めるな」だなんて絶対に言わない、文字通り“夢なし”な進路指導をするから。

だけど、作中に登場する生徒たちは、高梨先生の進路指導をよそに声優やアイドル、棋士など一筋縄ではいかない夢を抱く上、その道を無我夢中で走り続けます。たとえその道がいばらの道だったとしても、脇目も振らず夢に向かって駆け抜けていく生徒たち。

その結果、人によっては業界から搾取されてしまったり、どこか道を間違えてしまい戻れないところまで行ってしまう……。光を追い続けていたのに、いつの間にか闇に呑まれるという苦しい展開が待ち受けているのですが、じゃあそこからどう生きていくのか? と。卒業後も高梨先生は夢破れた生徒たちに手を差し伸べ、再び“授業”を行うのです。

叶わなかった夢の先で繰り広げられる「諦める」授

叶わなかった夢の先でもがき苦しむかつての生徒たちに高梨先生が教えるのは「諦める」の本質。「諦める」という言葉は、マイナスなイメージに捉えられがちだけど、本来は「あきらかにみる」「明らかに真実を観る」という意味を持つのだと彼は言います。

しかも、高梨先生は元キャリアコンサルタント。元生徒たちのこれまでの人生を終焉・中立圏・開始という3つのプロセスに整理して、現状を明らかにしたり。現実の自己と理想の自己の度合いを見直すことで心理的な不安と安定のバランスを取るなど……キャリアカウンセリング理論を用いて生徒たちに今の自分を見つめ直させる。そして、そこからどこにどう歩み出せば良いのかと。言わば、夢に向かって生きる物語の第1章の閉じ方と、第2章へと向かう術を教えてくれるのです。

作品を通して今の自分の現在地を確かめる

もしも自分が高校生の頃に『夢なし先生の進路指導』と出会っていたら、どんな影響を受けたのだろう? と。叶わないもしもについ思いを馳せながらも、やっぱり大人になってからこの作品と出会えて良かったなと感じるし、大人にこそ勧めたい作品だなと思うのです。

それは、本作の主要人物として描かれるのは高校生たちだけれども、主題は大人になった生徒たちの物語だから。大人だからこそ、夢破れた彼ら彼女たちの乾いたような瞳が痛いほど刺さる。「努力は裏切らない」「何度だって立ち上がってやる」と疑いもなく叫べるほどの元気は衰えてきているし、そもそも現実は努力や気合で乗りこなせるほどチートじゃない、どこまでも残酷だ。これは、何か特別な夢を追わなかったとしても、大人になれば自然とみんなが感じるリアルだと思います。

そんな “大人”であるがゆえに感じる限界感を手繰り寄せて、私たちは作品を通して一緒に高梨先生の授業を受ける。そして、ページをめくっていくたびに今の自分の現在地を確かめているような感覚になるのです。

例えば2024年に掲げていた夢が叶った人は、今の自分を再確認して次の一歩に繋げていくためのヒントをもらうかもしれません。

夢が叶えられなかった人は、高梨先生と一緒に「諦める」ところから始めれば良い。

そもそも夢がない人は、なくても良いと思いますが、“夢”というキーワードに少しでも興味をそそられたのならまずは「好きなことだけではなく、嫌なことや変えたいことも原動力になる」と高梨先生が説く3巻まで読んでみてほしい。

タイトル通り“夢なし”ではあるけれど、その代わりに何か掴むものが絶対にある『夢なし先生の進路指導』。一緒に受けてみませんか?

文/ちゃんめい

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