アドバイスのもらい方、生かし方【絵で食べていきたい/第14回】
フリーランスで絵の仕事をはじめてから、人にアドバイスを求めたり、求められたりする機会が増えました。私は子供の頃から人に教えを乞うのが苦手で、何でも自力で解決したがるタイプでした。でも素直にアドバイスをもらえるようになってからは、目標の達成がずっと早くなったなと感じます。今回は、アドバイスのもらいかたについて、上手な人の例や自分なりに工夫している方法を書いてみたいと思います。
アドバイスしがいのある人
ある新人の料理家さん(仮にFさんとします)と仕事をした時の話です。Fさんにとって、その日ははじめての雑誌の仕事でした。随分前に雑誌に売り込みをして、ようやく声がかかったそうです。普段は師匠のアシスタントをしているFさんは、撮影の間じゅう、とにかくよく動いて常に周りに気を配っていました。私はイラストを使った撮影小物を作る役目で参加していましたが、若いのにすごいなあと好感を持ちました。
帰り道、Fさんは自分のアルバムを見せてくれました。日々の料理の写真に、一言メモを添えています。このアルバムのコピーをポートフォリオがわりに編集部に持ち込んだそうです。Fさんは自分の料理の本を出すのが夢だと語ってくれました。「それならこの写真とコメントをブログにしてみたら」と私は言いました。当時(2006年)はまだSNSよりブログのほうがよく見られていて、注目されて本を出す人も多かったのです。折角毎日写真を撮っているなら、たくさんの人に見てもらったほうがいいと思いました。
私がブログを作ったらとすすめた2日後に、Fさんからメールが来ました。撮影日のお礼と、早速ブログを作ったので見てほしいという内容でした。
これには正直びっくりしました。これまで、こういうちょっとした提案をすることはありました。でもこの速さで実行して、しかもわざわざ報告してくれる人はまずいなかったからです。こんなやる気のある人は伸びるに違いない、是非応援したいと思いました。結局Fさんは数年のうちに本を出し、その本はベストセラーになりました。
ブログを作れというアドバイス自体は特に珍しくはありません。でもFさんにとっては新しい情報でした。普通なら「やったほうがいいけど、大変だな」「そのうちやろう」と思うでしょう。でもこんな風に、言われたその日に挑戦し、自力で調べて作ってしまうその意気込みを見せられると、もっと協力しようという気持ちになります。むしろ私のほうこそ見習わなくてはと、Fさんを尊敬しました。
アドバイスをもらう側の心構えと、最大限の生かし方
イラストレーターをしていると、時々自分のポートフォリオやサイトを見てほしいと言われます。本当は私よりも編集者など、イラストを発注してくれる人に見せたほうがいいと思いますが、私に言えることはできるだけ伝えます。でも、「サイトをこういう風にしたらどうか」「こういう絵は〇〇誌でつかえそうだから持ち込んでみては」などと提案しても、実際に行動したという 話はめったに聞きません。むしろ、どこかに紹介してくれるかと思ったのに……と当てがはずれたような顔をされることもあります。そういう人からは時間をとってアドバイスや感想を伝えたことに対して、お礼のメールなどもないことが多いのです。
それでも、作品を見てほしいという人は、見せられるだけの作品をすでに用意していて、誰かに見てもらうというハードルをクリアしています。それができない人たちも沢山います。折角そこを乗り越えて作品を見てもらって、その上提案までされたなら、たとえ自分の期待した通りの内容でなくても、何かに生かさないともったいなくはないでしょうか。
とはいえ私も人のことは言えません。人からアドバイスをもらった時に「そんなことはとっくにやっている」などと言い訳をして行動に移さなかったこともあります。今思えば、やっているというほどやっていなかったし、試しもしなかったこともたくさんあるくせに、と自分に突っ込みたくなります。
だからこそ、受け取ったアドバイスを実践して報告してもらうと、こちらも俄然応援したくなるものです。現に私は先ほどのFさんを知り合いの編集者さんに紹介しています。もちろん、出版できたのは紹介とは関係なく、本人が何十社もまわって努力した結果ですが。
とはいえなんでもかんでも人の言うことを真に受けてやってみろとは言いません 。求めてもいないのにアドバイスされたり、実情を知らない人が口を出してきたりすることもあります。しかし、自分からアドバイスを求めるなら、教わったことはとりあえずやってみる位 の気持ちがあってもいいと思います。そのほうが、聞くべき相手や内容も明確になりそうです。このことをもう少し考えてみます。
その質問は、目の前の相手にしか聞けないことか?
たとえばよくあるのが、「どうしたらイラストレーターになれますか」という、かなり大雑把な問いかけです。いくら自分がイラストレーターとして仕事をしていても、この言葉に答えるのは難しいのです。そもそも相手がどんな絵を描くかも、どんなイラストレーターを目指しているかもわかりません。これくらい漠然とした質問なら、わざわざ目の前の人に時間を割いてもらわなくても、ウェブの記事や本を読んだほうがよほど効率的に多様な答えを得られます。
でも、「あなたはどうやってイラストレーターになったのですか」という質問なら、ほとんどの人が答えられるはずです。実際にその人がとった行動や、努力したことなどを聞くことで、自分が何をしたらいいのかヒントを得ることはできるでしょう。友人の紹介など、そのまま真似はできないこともあるかもしれません。でも、紹介してもらうためにやっていたことはあるか? どんな友人が紹介してくれたのか? と質問を重ねていけば、自分だったらどうするか、考えやすくなるかもしれません。
人は他人から興味を持たれることを喜びますし、自分の経験談を話したいものです。自慢話をされたと思われるのは嫌なので、わざわざ自分からは話さないかもしれません。けれど聞きたいと言われればよほど忙しくない限り話してもらえるのではないでしょうか。そして一般論よりもその人の実体験を聞かせてもらうほうが、自分の活動のヒントになることが多いように思います。
相手から見れば、自分は興味を持たれていない他人です。 その他人が「私がどうやったらイラストレーターになれるか一緒に考えてください」と言ってきたら「なんで私が?」と思われても仕方ないかもしれません。
同業者同士もアドバイスしあえる
ちなみに、イラストレーターとしてデビューしてからも、同業者同士で質問しあうことがあります。人気イラストレーターの友人 から、「どうやって書籍の仕事をとったの?」と聞かれたこともあります。その人は絵本を何冊も出しているので、この質問をされた時は意外に思いました。でも、絵本の仕事はたくさんくるけれど、書籍とは縁がないから話を聞きたいとのことでした。私自身も、購入を検討しているソフトの使用感やイラストを使用したグッズの制作会社はどこがいいかなど、経験者に質問したいことはいくらでもあります。ただ友人同士だと、気軽に質問はできても、なんとなく雑談になってしまって、しっかりと答えてもらうのが難しい場合があります。そう感じていた時、「これは上手だなあ」と思ったやり方をする友人がいました。
「グッズの販売について相談したいのだけど、時間をとってもらえる? その代わり、ランチをおごらせて」
友人 から、こんなメールをもらったのです。とてもいい方法だと思いました。ごちそうになるという名目があると、ちゃんと答えなくてはと思いますし、時間もランチタイムに限られるので集中できます。相手も気兼ねなく聞きたいことを聞けます。日にちを決めてしまえば「いつかね」と言いながら流れてしまうこともありません。何より「人の経験をシェアしてもらうには、友人同士とはいえ何らかのお返しが必要だ」と考えていることがわかるのは嬉しいものです。自分の経験にそこまで価値があるかなあ、と思っても、それならせめて相手の役に立つように、知っていることはなんでも教えようという姿勢になります。もっとも、これは食いしん坊な私だからかもしれませんが。
もちろん、友人同士で教えあうのにわざわざ返礼なんて水臭いという考え方もあります。その場合は金銭的なものでなくても、後日お礼の言葉と共に、あのときの話を参考にしてこうしたよ、などという行動を伴った報告があれば、何よりのお返しになるのではないでしょうか。こういう態度のひとつひとつが、ゆくゆくは仕事にもつながっていくと思うのです。
アドバイスを生かせるのは自分だけ
色々と書きましたが、実際には、何か聞かれたら難しいことを言わずに喜んで教えてくれる人はたくさんいます。けれど質問をして答えてもらったからと言って、その答えが自動的に願いをかなえてくれる訳ではありません。アドバイスをどう生かすかは、結局受けた人次第です。それでも、昔の私のように全部自分の力だけでやろうとするより、色々な人から提案や情報をもらい、さらには応援してもらえるほうが、目標の実現が早くなるのは自然な気がします。折角もらったアドバイスを最大限に生かして、今度は誰かにその経験をシェアする。そんな風に皆で背中を押し合っていけたらいいなと思います。
文/白ふくろう舎
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